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うつ状態や双極性障害と発達障害特性との違い

[2020.07.15]

こころの健康クリニックのメンタルヘルス外来や、職場復帰支援プログラム(リワーク)に紹介された方たちの中に、前医で「うつ病」や「抑うつ状態」、あるいは「適応障害」、場合によっては「双極性障害」と診断されていた方たちがいらっしゃいます。

 

こころの健康クリニック芝大門では、初診時に、「気質・性格検査」を行って「元々どんな人だったのか?」をアセスメントしすよね。

そして、小児期、思春期・青年期、成人期の成績や交友関係をお聞きして、仕事の内容や職場での対人関係、生活の状況をお聞きすると、この方の診断は違うかもしれない、と感じることがすごく多いのです。

 

たとえば、頭痛やフワフワしためまい感、意欲低下を主訴に、メンタルクリニックを受診し、適応障害、うつ状態と診断され、2種類の抗うつ薬を最大量で投与されていたAさんは、軽躁状態になったということで双極性障害に診断が変更されました。

 

双極性障害の病前気質として、「善良、温厚、社交的で爽快と悲哀をさまざまな割合に持ち、精神のテンポは活発と緩慢の間を揺れ動き、現実的で、周囲の人や環境に順応しやすい循環気質や、「快活で現実的、世話好きの楽天家。周囲と摩擦を起こしやすく、すぐに和解するが、職を転々として意志不安定にみられることがある発揚気質との関連が知られています。濱田『精神症候学』弘文堂より引用)

 

一方のAさんは元々、自閉・不安・強迫(執着)の気質をお持ちで、友人は少数のみで交友関係の幅が狭く、どちらかというと一人を好むタイプでした。

また、主治医が適応障害の診断で職場環境をせずに、2種類の抗うつ薬を最大量投与したこと、そして双極性障害と診断が変更になった後も、抗うつ薬がそのまま継続されていたことは、常識から大きく外れていると言わざるを得ません。

 

抗うつ薬による「躁転」についてお聞きすると、「休職して何も楽しみが無かったので、ネットで色々買っていたら、お金が足りなくなった」とのことでした。

休職中に傷病手当を受給しても、収入は給与の60%に下がってしまいますから、かなり生活が逼迫してしまうことは、容易に考えられます。

 

前医で双極性障害と診断されていた他の患者さんでも、抗うつ薬の投与中に、買い物でお金が足りなくなった、とか、怒りっぽさやいらいら、あるいは焦燥感、があると、双極性障害に診断が変更された方が多いようです。

そして、抗うつ薬を減薬されることなく、気分安定薬(リチウムやバルプロ酸、あるいはラモトリギン)や非定型抗精神病薬(アリピプラゾール)などが追加投与され、薬理学的彷徨(薬がどんどん増える)状態になってしまうのです。

 

そもそも、抗うつ薬治療中の躁状態の診断基準では、「1つまたは2つの症状ではなく十分な数の症状の存在が必要」であり、また、「抗うつ薬を中止しただけではおさまらず、抗うつ薬の効果を超えて続く」とされています。

この方の場合も他の患者さん同様、診断基準をよくご存じない主治医の先生の誤診と言わざるを得ませんでした。

 

Aさんの場合、仕事の内容や生活状況を聞かずに下された、最初の「適応障害、抑うつ状態」という診断についても疑問でした。

 

精神科クリニックや総合病院精神科における最多疾患は、統合失調症ではなく、広義のうつであろう。

そしてその中で内因性うつ病は今や少数派である。多数派は生活上のストレスに関連したうつなのが現状である。これはつまり「広義の適応障害」である。

ゆえに、この患者はなぜ適応に失敗したのか?と考えることが重要になる。

発症にストレスが関連していたとしても、同じ学級、同じ職場にいる他の人は適応障害になっていないのに、なぜ彼(彼女)は適応障害になったのであろうか?

(中略)

そもそも、適応障害のなりやすさは個体差が大きいのであるから、「適応障害になりやすい素因を彼が持っていた」可能性を考えざるを得ず、その素因とは何かと言えば、発達障害特性であることが多いことが容易に想像がつくだろう。

中村、本田、吉川、米田・編『日常診療における成人発達障害の支援:10分間で何ができるか』星和書店

 

発達障害特性、つまり、非障害性・自閉症スペクトラム(AS)や自閉症スペクトラム障害(ASD)では、二次障害として、パニック障害、不安障害、強迫性障害、適応障害、身体表現性障害、などの「神経症性障害、ストレス関連障害、および身体表現性障害」と、摂食障害、非器質性睡眠障害、性機能障害などの「生理学的障害および身体的要因に関連した行動症候群」が多いことが知られています。

 

また、双極性障害および統合失調症成人患者ではかなりの割合で、重症度と関係なく自閉症様特性/症状が認められ、自閉症スペクトラム障害ととこれら精神疾患との間に共通の病態生理が存在することが示唆されることが報告されています。

 

誘因のない生物学的発症をし、精神運動制止が強く、体重減少や早朝覚醒、症状の日内変動を伴う「内因性うつ」とは異なり、ASやASDでは状況依存性うつ(二次性うつ、あるいは反応性うつ)が多いことが知られています。

 

ASDの不適応が「新型うつ」と呼ばれることもある。

ASDに関連した抑うつ状態は、状況依存性で他罰他責的で義務や責任を果たさず要求ばかりが強い。

内因性のうつは、責任感が強く自罰自責的である。

中村、本田、吉川、米田・編『日常診療における成人発達障害の支援:10分間で何ができるか』星和書店

 

前出のAさんは、無計画な買い物が双極性障害と診断されていました。

上記の本によると、ASDに伴う依存は、感覚過敏や鈍麻を和らげるためや不安の対処行動であり、渇望(物質使用に固執しないこと)のないことが依存症との違いとしてあげられています。

 

またASD特性と双極性障害との鑑別については以下のように記載されています。

 

ASDでは常識のなさやこだわりからの浪費も見られ、自閉特有の大げさな感情表現と軽躁を間違えやすい。ASDの中でも特に一方的で押しつけがましい積極奇異型と躁病の鑑別が難しい。

気分の浮き沈みの期間が前者(註:ASD)では時間単位で変化、後者(註:双極性障害の躁病エピソード)では持続期間が通常月単位である。

中村、本田、吉川、米田・編『日常診療における成人発達障害の支援:10分間で何ができるか』星和書店

 

元々どんな人だったかを把握せず、生活や仕事の状況を聞かず、診断基準も十分に使えない精神科医が、短時間診療で症状を吟味もせず、薬を出すだけの薬物療法偏重になっていることで、多くの患者さんが不利益を被っていらっしゃることに、心を痛めています。

 

院長

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