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「未熟型うつ病」と「新型うつ」

[2013.08.19]

「大うつ病性障害(うつ病)」は、メランコリー親和型といわれる典型的な「古典的うつ病」から時代背景や診断基準とともに変化した「うつ状態」まで多様な病態を含んでいます。

 

「うつ状態」を呈する疾患の中には、「大うつ病性障害」「気分変調性障害(慢性うつ病)」「双極性障害のうつ病相(双極うつ病)」だけでなく、「適応障害(抑うつ気分を伴うもの・不安と抑うつ気分の混合を伴うもの)」、DSM-5から新たに導入された「混合性不安抑うつ障害(大うつ病+全般性不安)」、パーソナリティ障害やPTSDに伴う抑うつ、摂食障害に併存する抑うつ状態、などなど、多彩です。

 

いわゆる「現代型うつ」と呼ばれる状態の中に、自治医科大学の阿部先生らが提唱された「未熟型うつ病」も含まれます。

「未熟型うつ病」は、発症前の20歳代前半までは庇護的な環境で葛藤なく育ち、職業上や家庭生活上の挫折がきっかけで内因性のうつ病を発症するとされます。

病相が遷延・反復すると、不安や焦燥がメインの病像を呈し、周囲に対して依存と攻撃性を示す一方で、ストレスが軽減されると軽躁状態になりやすいと言われています。

 

阿部先生は、「未熟型うつ病」について

出発点は循環気質(気分の動揺性、対象希求性)だが、愛情供給が希薄だと過剰適応から社会的規範との幻想的な一体化という過程を経て、メランコリー親和型や執着性格へとつながる。一方で、過保護・溺愛の環境下では基盤にある気分の動揺性が露出し、逃避型・未熟型につながる。なかでも未熟型と執着性格は生得的力動の比較的高いタイプである。

と解説されています。

 

背景の循環気質と対象希求性は、不安/アンビバレントの愛着スタイルと似ていますよね。
また過保護・溺愛の環境下での気分の動揺性は、摂食障害の準備因子・維持因子となることも多いですよね。

さらに、21歳以降、とくに25歳前後で大うつ病として発症し、慢性に経過する気分変調性障害・晩発型は
「未熟型うつ病」に似ている印象があります。

 

「未熟型うつ病」は双極スペクトラムに属するとされ、うつ病相は重症化しますが、反対極は、軽躁状態にとどまるとされています。

この場合の軽躁状態は、目的志向性行動の増大や活力の増大(過活動)、観念奔逸、高揚感や易刺激性は認めますが、誇大性や睡眠欲求の減少が不明確であり、双極II型の軽躁(hypomania)というより、状況依存的な軽微躁(hypo-hypomania)に似ている印象があります。

 

同じような状態は大うつ病性障害の回復期でも見られることから、「未熟型うつ病」は内因性うつ病の表現型のバリエーションであり、時代・文化を越えて普遍的な病像ということは、すごく納得できるところですよね。

 

阿部先生によると、いわゆる「新型うつ」は

状況依存性の抑うつに他責性を加えた状態を指しているにすぎず、精神医学的には「適応障害や反復性短期うつ病性障害、気分変調性障害、双極性障害(未熟型や逃避型を含む)、アスペルガー障害などさまざまな診断がつく可能性があり、薬物療法の奏効するケースを見落とさないことが重要。

とおっしゃっています。

 

双極性障害や双極スペクトラムに関しては、何でもかんでも(たとえば不機嫌性過活動)を混合状態と誤診する過剰診断が問題になっています。

双極性障害のセカンドオピニオンを求めて、あるいは双極性障害の診断で対人関係-社会リズム療法(IPSRT)の導入目的で三田こころの健康クリニックに紹介された患者さんのほとんどが、双極性障害の診断ではなく、多くはアスペルガー症候群または注意欠陥/多動性障害(ADHD)でした。

 

上記の図にもあるように、人格の統合水準や生得的エネルギーなど、その人自身を知らずに診断はできないということなのですけどね。

院長

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