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「何もなかったけれど食べてます」

[2021.02.19]

「この1週間はどんなことがありましたか?」と伺うと、「特に何もなかったです。」という返事が返ってくることも少なくありません。

けれども、何もなかったから症状も落ち着いていたのかというと、そこは少し違うようなのです。「何もなかった。でも症状はいつも通り続いている」と。

 

お話をさらに伺っていくと、多くの方が「最初はそうじゃなかった」とおっしゃいます。

「最初のうちは今日は嫌なことがあったから、今日は会社で失敗したから、というように何かあったから過食嘔吐していた気がする。でも最近は何のために過食嘔吐しているか分からなくなっている。」もしくは「何かあったわけじゃないけれど、過食嘔吐しないと1日が終われないような気がする。」と話される方もいます。これはどういうことなのでしょうか。

 

アニータさんはこんな風に説明していらっしゃいますよね。

 

私たちは、自分の感情に対する恐怖に対処するために、感情を丸ごとブロックするようになってしまいます。自然な流れを止めるダムを造ってしまうのです。

感情から気をそらすために、食べ物を使って強迫的な行動をしてしまいます。感情に気を配ってそれらを感じる代わりに、食べ物や食べることについて考えるのです。もしくは、運動や仕事で気をそらします。

何年もこういうことをしていると、感情を認識する力は執着というカーテンの奥の方へと押しやられてしまい、鈍ってしまいます。

アニータ・ジョンストン著 「摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語」より

 

私も、まさしくこの「鈍ってしまう」という表現がしっくりくるような気がします。

 

アニータさんはこう続けます。

 

そして、まるで感情が私たちを当惑させ、怯えさせるエイリアンのように思えてしまうのです。

感情(エイリアン)がいったい何なのかわからず、識別できず、名前を知ることもできません。コミュニケーションをとることもできず、関わることもできなければ、対処法もわかりません。

感情が激しくなって憔悴するまで、その存在に気づきもしません。

 

「何もなかったのに食べてしまう」と感じていらっしゃる多くの方に共通するのは、実際に「何もなかった」のではなく、過食嘔吐などの摂食障害行動を使うことによって何かあったその「何か」がなかったことになっていたり、気づきにくくなっていることなのです。

逆に言えば、摂食障害行動を使うことで自分にとって不都合な「何か」をなかったことにできる、というメリットがあるから摂食障害行動を使うわけです。

 

私自身もそうでしたが、その「何か」に対して摂食障害行動を使い続けていくと、哀しいことにどんどんと摂食障害行動が幅を利かせるようになっていきます。

例えば、

 

悲しい?じゃあ食べよう。怒ってる?じゃあ食べよう。寂しい?じゃあ食べよう。

 

というようにです。

「最初はそうじゃなかった」けれども今は、「何もなかったけれど過食嘔吐は続いている」という背景には、こういった負のサイクルが潜んでいたのです。

大切なのは、あなたが摂食障害行動を使って対処しようとした「感情」に目を向けるということなのです。

 

私自身も摂食障害の治療を受けるまでは、自分がなぜ食欲をコントロールできないのか、なぜ過食をやめられないのかその理由が全く分かりませんでした。分からないまま症状に振り回され続け、気づいた時には15年以上も経ってしまっていました。

けれども、治療を受け始め、私の心に光が当たるという経験をしたことで少しずつ変わっていったのです。

 

それまでの私は、心の中に感情のごみ箱を持っていました。1日の中でドキッとしたことやイラっとしたこと、ショックだったこと、もやもやしたこと、うれしかったことなど、心が反応したことは全部心のごみ箱に入れていたのです。

ごみ箱ですから、その中に何が入っているのかをよく見ることもなく、1日が終わるころにはそのごみ箱は自分でもよく分からない何かで溢れんばかりにいっぱいになって、私はその“何か”を過食嘔吐という形で吐き出そうとしていたのです。

 

けれども、実はそのごみ箱に丸めて捨てていたものこそがとても大切な宝物だったのです。それからは、ごみ箱行きになった“ドキッ”や“イラッ”を一つずつ取り出して、その時何が起こってどんな気持ちになったのかを、治療者の心を借りながら丁寧に振り返ることに専念しました。

後にアニータさんの著書を読んで、彼女の言う“ハート形のバスケット”が私の場合は“ごみ箱化”していたことに気づかされました。

 

「何もなかったのに食べてしまう」と感じるあなたの中にも、もしかしたら“ごみ箱化したハート形のバスケット”があるのかもしれません。そこにはきっとあなただけの宝物が眠っているはずです。

 

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