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「うつ病」と間違われやすい「適応障害」とリワーク

[2020.12.16]

医療リワークは、3ヶ月から6ヶ月と利用期間を決めている施設が多いようです。

多くのリワーク施設が、静養からの体力の回復、集中力の向上、ストレスマネジメント能力の向上、グループでの作業やディスカッションなどによるコミュニケーション能力の向上など、「うつ病(大うつ病性障害)」を想定してプログラムが組まれています。

 

またほとんどのリワーク施設(医療リワーク、職リハ・リワーク)が、画一化したプログラムをすべて受講すれば、リワークを修了し復職可能としているようです。

しかし精神科産業医の立場で見てみると、「復職準備性の評価」が十分になされているとは言い難い面もあります。

 

「うつ病」と間違われやすい「適応障害」の仮想ケース』で登場願ったAさん(仮名)が通ったDクリニックのリワークはどんな感じだったのでしょうか。

これもいくつか見聞きしたケースを組み合わせて書いてみます。

 

通院先のメンタルクリニックにはリワークがなかったので、Aさんはリワークをやっているクリニックをリストアップし、問い合わせてみました。

あるクリニックから、説明をするので一度いらっしゃってくださいと言われ、行ってみました。すると医師でもリワークのスタッフでもない人が出てきて、診断名は何なのか、休職期間はどのくらい残っているのか、を聞かれました。

名前も名乗らず、肩書きも言われなかったので、事務の人か何かだろうと思ったものの、事務の人が診断名を聞くのはおかしいのではないか、と訝しく思ったそうです。

そのクリニックのリワークは4ヶ月で、プログラムを一通り終えると復職が可能になると言われ、リワークの部屋に案内されたそうです。部屋を見わたすと12人ほどの人が、6人ずつのグループに分かれ、話し合いをしているところでした。

参加者の服装はまちまちで、ほとんどが普段着で、すごく気楽なリワークだなとAさんは感じたそうです。

しばらく見ていると、中に同じ会社の人がいることに気づきました。別の部署の人なので話したことはないのですが、顔は知っています。向こうはこちらに気づいた様子はなかったのですが、Aさんは気まずい感じでずっと顔を伏せたまま、こちらに気づかれないようにしていました。

 

Aさんが体験した内容には、いくつかの問題があります。

まずDクリニックで最初に対応した人が医療従事者ではなかったこと、見学者にリワークの参加者を見せてしまっている、という個人情報あるいは医療の守秘義務に抵触する問題です。

同じ会社の人がリワークにいる場合も、個人情報をどのように守るか、という点でDクリニックの対応には大いに問題がありそうでした。

 

さて、Aさんのリワーク参加です。

Dクリニックの初診の日、Aさんは初めて精神科医と会いました。精神科医は主治医が書いてくれた診療情報をチラッと見ただけで「リワークですね、いつから始めますか?」とたずね、一日も早く復職したかったAさんは、「できるだけ早く、明日からでも」と答えました。

「同じ会社の人がリワークにいるようなんですが、どうしたらいいですか?」と気になっていたことを聞いたところ、医師からは「知らん顔していれば問題になりませんよ」といわれ、そんなものなのかと腑に落ちないまでも、そうかもしれないと考えることにしました。

翌朝、無理やり起きてリワークに向かったものの、眠くてしょうがありません。講義の内容もうつ病の話や食べ物の栄養素の話ばかりでしたから、主治医から「適応障害」と言われていたAさんは、興味がもてずに居眠りをしたり、スマホを見たりして時間を過ごしました。

午後はグループに分かれてのプログラムでした。同じ会社の人と同じグループになったらどうしよう・・・とドキドキしていたAさんですが、1週間の行動記録を記入するというプログラムに割り当てられたので、同じ会社の人と話さずに済んでホッとしました。その後1〜2週で同じ会社の人はいなくなりました。休職期間が満了したため退職され、転職されたようでした。

 

いつもはまだ寝ている時間に起きたので、リワークが終わって部屋に帰ると、Aさんはそのまま寝てしまいました。夜中に目を覚まして、お風呂に入ったりネットをしながら何か食べたりして、明け方にまた寝て、8時に起きてリワークに行く、ということがAさんの日課になりました。

 

リワークに通い出して3ヶ月目の産業医面談に、Aさんは主治医の診断書とともに1枚の紙を持ってこられました。リワークでの様子をレーダーチャートにしたものです。
ほとんど円に近いその結果で、主治医はその結果を受けて復職可能の診断書を書いてくれたそうです。

さらにAさんにはバルプロ酸が追加処方されており、診断書の病名も当初の「抑うつ状態」から「双極性障害」に変更になっていました。「復職可能」とは書いてあるものの、判断根拠が書かれていませんでした。

睡眠覚醒リズム表と気分の変動、それとレーダーチャートを照らし合わせて、あることに気づきました。
レーダーチャートでは、起床時間、精神症状や身体症状、興味や関心、職場との関係や業務遂行能力が評価されていませんでした。

それだけでなく、昼間の眠気や疲労感もなく、意欲も保たれていることになっており、適切な自己主張も、積極性・意欲も満点の評価になっていることに疑問を抱きました。

 

「主治医やリワークの先生は、Aさんの症状や回復程度について、なんとおっしゃっていますか?」と聞いてみると、主治医の診察は短いので何も言われず薬をもらうだけ、リワークの医師とは初診以降会っていないということでした。

あまりにもいい加減すぎる主治医の診断書とリワークでの評価に驚き、こころの健康クリニック芝大門で使っているうつ病リワーク協会の「職場復帰準備性評価シート」を行ってみました。

Aさんの平均得点は復職可能の状態には達していませんでした。

Aさんの休職期間は、あと1ヶ月ちょっとしか残っていないため、Aさんは職場復帰前にリハビリ勤務をすることは難しそうでした。Aさんの同意を得て、主治医に休職中の状況を情報提供してもらい、人事と上司を含め復職について相談することにしました。

 

治医の診断書とともに送られてきたレーダーチャートは、Aさんのリワークでの様子についてスタッフの主観によって評価する「リワークプログラム評価シート」でした。

「リワークプログラム評価シート」は10年以上前に作られたもので、スタッフが評価することで、実際はできていないのにできていると評価してしまう欠点が指摘されています。つまり、Aさんのように睡眠覚醒リズムや気分と、スタッフの評価がズレてしまうのです。

 

産業医としての復職判定の面談や、こころの健康クリニック芝大門のリワークで用いているのは、うつ病リワーク協会の「職場復帰準備性評価シート」です。

これは上記の「リワークプログラム評価シート」を改訂し、内的一貫性,評価者間信頼性,復職後に再休職するまでの勤務継続期間の予測性妥当性について検討されたものです。

 

古い「リワークプログラム評価シート」で復職可能と判断しているDクリニックは、プログラムをこなすことだけに終始し、リワークや復職の本質について理解できていないようで、リワークを卒業しても1ヶ月から3ヵ月以内に再休職する人が多いということでした。(のちに聞いたところ、リワークを担当している精神科医との面談は最後までなかったそうです)

 

さて、その後のAさん(仮名)の復職はどうなったでしょうか。

次回も、実際にあったいくつかのケースを組み合わせて、復職の問題を考えてみます。

 

ちなみに私は芝大門に移転する前の「三田こころの健康クリニック新宿」の頃から、リワークのプログラム監修とリワーク利用者の個別面接を行っています。リワークでの集団プログラムに加えて、その人ごとの課題に合わせた個別の面接によって、職場復帰準備性は高まりやすくなります。

それだけでなく、復職された患者さんは、他の医療機関に主治医がいらっしゃる場合でも、復職後1年までフォローしています。これまで再休職となった患者さんは皆無ですから、職場復帰だけでなく復職後のフォローも再発防止のためには必要不可欠だということですよね。

 

院長

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