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摂食障害からの回復と家族や周囲の人たちのサポート

[2020.03.30]

J1772x1181-00071アメリカ内科学会の学術誌であるアナルズ・オブ・インターナル・メディシン(Ann Intern Med)に、大うつ病性障害に対する認知行動療法と抗うつ薬の費用対効果についての分析結果が掲載されていました。

 

1年目には認知行動療法の方が治療日数も費用も増加しましたが、5年時にコストが低下し、対費用効果には優劣がつかなかったそうです。

 

対人関係療法の対費用効果についての論文はありませんが、一般的な精神科外来と比較して治療期間と治療費について考えてみると以下のようになります。

 

治療期間については、一般的な精神科外来(1回5分、2週間に1回の通院)の8年4ヶ月で、対人関係療法の20回(1回50分)と同等の治療時間になります。

また、気になる治療費を比較してみると、一般的な精神科外来の5年5ヶ月で、対人関係療法20回(1回19,780円)と同等の治療費がかかります。

 

摂食障害思考とのつきあい方を変える』で紹介した、一般的な精神科外来での摂食障害の12年間の症状消失改率が2.8%であることと、対人関係療法での治療直後の寛解率(症状消失)が30~40%、治療終結6年後の寛解率が70%(フェアバーンらの報告)を比較すると、費用対効果の差は明らかですよね。

 

1年後あるいは5年後の自分はどんな生き方をしていたいか」を自分に問いかけてみる必要がありそうです。

約3%の可能性に賭けて10年近く通院を続けてみるか、30~40%から70%の可能性に賭けて「人生の意味と目的を見つける」プロセスを歩いてみるか、「行動の仕方を変えていく」決断することが非常に重要だということですよね。

 

数ヵ月にわたって誰かと密に接し、病気について、あるいは生活について語り合う経験こそが、摂食症の人を支え、彼らが本来持っている回復力を高めるのだろう(野間俊一. こころの科学209: 15-30, 2020)」と考えられています。 

 

通常の精神科やメンタルクリニックの外来で行われているように、前回の受診から今回までどうだったか?と漠然と聞くことは、診察は困り事を相談する場だとパターン化してしまい、変化が難しくなってしまいます。

ですから、前回の受診から今回までの間に、自分の望む生き方に近づくためにどんなことができたか、あるいは、どんな面白いことや楽しいことがあったか、とセットで話してもらうことで、「自分の人生は自分が主人公である」という感覚を生みだしてもらうのです。

 

「自分の人生は自分が主人公」の感覚には、対人関係療法に限らず、『摂食障害から回復するための8つの秘訣』に「摂食障害にではなく人々に助けを求めよう」の秘訣があるように、家族や周囲の人たちの協力やサポートが絶対に欠かせません。
(『摂食障害からの回復と重要な他者とサポーター』『人に助けを求めることと分離/自立の関係』『摂食障害からの回復に必要な周囲の人のサポート』『大切な相手に病気のことを伝える』『摂食障害にではなく人々に助けを求めよう』などを参照してみてください)

 

ジェニーさんは幸い、家族以外にサポートを受けることができたようです。

 

エドと私の間で何が起きているかを周りの人にすべて話して、その体験を共有してもらうメリットはとても大きいことが、実感としてわかるようになってきました。

私がついエドの誘惑に負けてしまったり、間違ったことをしてしまったりしても、私のことを非難する人は、完璧主義女史は別として、誰一人いませんでした。

むしろみんな、私が回復への道を進み続けられるようにいつでも助けてくれて、励ましてくれたのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

しかし、家族や周囲の人たちの協力やサポートを得ることには、2つの問題があるようです。

1つは、医師や臨床心理士の誤った理解を吹き込まれる可能性があるという問題です。

 

勉強不足の医師や臨床心理士さえもが、「家族が原因」「母親の愛情不足」と公言するという残念な臨床事例がある。さらに、当事者は「摂食障害の原因は家族(母親)」という考えに影響を受けて、家族を批判することが多い。

回復した当事者は、「みずからの認知の偏りや未熟なストレス対処能力の問題」と話すにもかかわらず、病悩時期には「親の犠牲者」と主張して、課題に対峙できない自分を正当化していることが指摘されている。

摂食障害患者の家族は、古びた書籍からの、一般社会の誤解や批判からの、さらに親が原因と主張する当事者からの圧力下で生きづらさを抱えているといえる。

鈴木眞理、小原千郷. 生きづらさと家族会.  こころの科学209: 89-93, 2020

 

摂食障害(病気)の部分の考え方のパターンを知る』でも、上記のような治療に伴う悪影響についてちょっとだけ触れました。

 

アタッチメントスタイルは安定型が良くて不安定型が良くないなど、不勉強の医師が書いた「毒親」の本も、これに類する問題と考えていいかもしれません。

毒親の本には「反抗期を「選択」しなかった」とありますが、発達課題を達成するこころの発達成熟過程の視点だけでなく、アタッチメントの動的成熟についても全く抜け落ちていますよね。

 

ジェニーさんは、ここで「自分に正直になる」という課題を通して、周囲とくに治療者からのサポートを得ていますよね。

 

食事日記には、どんな食事をしたか、何を食べたかを必ずすべて記入しました。

スーザンにはお金を払ってでも助けてもらおうと思っていたので、私が嘘をついてごまかそうとしたのでは、彼女が私を助けられるはずはないとわかっていたからです。

こうして徹底して正直に報告しているうちに、過食、嘔吐、拒食はだんだん減って、ついになくなりました。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

家族や周囲の人たちの協力やサポートを得ることの2つ目の問題は、病悩期まっただ中でこそ、家族や周囲の人たちの協力やサポートが必要不可欠であるにもかかわらず、それを得ることは非常に難しいのが現実だということです。

 

瀧井が指摘する通り、受容と共感、優しさ中心で、社会や周囲の無理解が原因として、患者の嫌がることをせず、社会や周囲に摂食障害をもっと理解してくれるように働きかけるのではなく、病気を治そうとせず悪化させてしまった「患者自身」に「問題がある」と厳しく接するだけだと、どれだけの患者が治療を続けるであろうか。

家族の理解があれば治療せざるを得ない状況に持ち込めることもあるが、家族が非協力的な場合や患者一人の通院では、精神医学的介入アプローチを始めた瞬間に治療脱落が生じる。

永田利彦. 生きづらさを超える. こころの科学209: 98-103, 2020

 

近年、拒食症(神経性やせ症)の治療として注目されている「モーズレイモデルの神経性やせ症治療(MANTRA)」や、「家族をベースとする治療(FBT)」では、治療初期に家族のサポートを得る技法がモジュールとして組み込まれています。

 

思春期/青年期のケースの場合、「患者一人での通院」で治療脱落が生じることは何度も経験しました。

家族が非協力的であるのは、家族が発達段階に応じた患者さんへの対処の仕方や向き合い方を知らなかった、教わらなかっただけであって、個人療法である対人関係療法であっても思春期/青年期のケースでは、家族療法的なアプローチを組み込むことが必要不可欠であることを痛感し、こころの健康クリニック芝大門では親向けの面接を行っているのです。(『過食や過食嘔吐の娘さんへの対応の仕方』参照)

 

院長

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