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アレキシサイミアと回避を支える理由づけの文脈

[2020.07.01]

休職した社員さんと産業医面談をしていると、社員さん、とくに30代までの若い方は、さまざまな身体症状を訴えているのですが、休職者の診断書には「うつ病」「抑うつ状態」「適応障害」の診断名しかないことに驚かされます。

 

社員さんが訴える症状の主なものは、睡眠障害(入眠困難や過眠)、頭痛(締めつけられる感じ、あるいは頭重感)、めまい感(回転性ではなく浮動性)、耳鳴り(高音性、あるいは耳閉感)、動悸や息苦しさ、下痢や腹部膨満感などの「身体症状」と、疲労感、意欲低下など、漠然とした訴えです。

 

このように身体に出るストレス反応は、「身体表現性障害」あるいは「身体症状症」と呼ばれていて、「アレキシサイミア」との関連が言われています。

 

アレキシサイミアは「失感情症」と訳されることもあります。

また、感情の認知や表現が乏しく、身体化に感情のはけ口を求めることを特徴とする「失感情言語化症」という訳語もあり、身体表現性障害、パニック障害、摂食障害などがアレキシサイミアと深く関連するとされています。

 

アレキシサイミアでは、出来事そのものに囚われているため、自分自身の体験について内省したり、感情を感じたり、新しく意味づけしたりすることが困難といわれています。

さらに、記憶力、注意力、遂⾏機能などの「神経認知機能障害」とともに、他者の意図や性質の理解という対⼈関係の基礎となる「社会認知機能障害」の2つが見られることも特徴のようです。

 

一方、アレキシサイミアは一般人のの10.1〜16.3%に見られることから、アレキシサイミアそのものは病気ではなく、自覚的な身体症状の多さと関係するパーソナリティ特性であるとも考えられています。

 

当然のことながら、パーソナリティ特性であるアレキシサイミア傾向があり、身体症状を訴える患者さんは、抗うつ薬への反応が不良で薬物療法のみでは慢性化しやすい、と言われています。

またこのような患者さんの特徴として、「回避性」「⾃⼰愛性」があり、従来のうつ病と異なる「抑うつ症候群」がみられると指摘されています。(『休職中の睡眠覚醒リズム』参照)

 

クロニンジャーのパーソナリティ理論では、パーソナリティは、生来的で無意識による反応である「気質」と、後天的な学習結果で意識的な行動である「性格」から形成されると考えます。

実際、アレキシサイミア傾向のある人の特徴として、自分の感情の動きが理解できず、周りの人の心の状態を推測することも不得手で、またあれこれと想像したり推測することも苦手で、予め決められた物事に従うことを好むとされています。

こころの健康クリニック芝大門で行っている気質・性格検査では、アレキシサイミア傾向を持つ人の特徴は、多い順に「回避性」「強迫性」「自己愛性」などの気質傾向が特徴的なようです。

 

就労の継続や職場復帰、あるいはリワークでのトレーニングで問題になるのは、アレキシサイミア傾向に伴う身体症状が「回避を支える理由づけの文脈」になる可能性が大きいことです。

 

「気分が良くならないと外出はできない」といったまことしやかな理由(ほとんど言い訳のようなものでも)を信じたり、他者がその理由によって対応を変えたりするような文脈(「具合が悪いなら仕方ない」というような対応)では、理由とされているものが変わらない限り、自分の行動も変わらないという強いフュージョンが維持される。

三田村仰『はじめてまなぶ行動療法』金剛出版

 

頭が痛いから、お腹が痛いから、会社を休みます、という「まことしやかな理由」は、「具合が悪いなら仕方がない」という対応とともに、どこかしら釈然としない感じ(「社会人としてはいかがなものか」)を引き起こしますよね。

これが「回避を支える理由づけの文脈」です。

 

あるいは、「何もすることがないから」寝逃げする、ダラダラ食いをするなども、「回避を支える理由づけ」になっていますよね。

逆に、取り組むべき課題がいくつかあると、寝逃げやダラダラ食いはしないかというとそうではありませんよね。タスクに取り組むことがイヤでたまらず、なんとか避けようとしてしまいますよね。こう考えてみると「回避を支える理由づけ」だということがわかると思います。

過食や過食嘔吐などの摂食障害の方の感情体験の回避や、「親のせいでこうなった」「親が変わってくれないと自分は治らない」などの他責・他罰傾向も、同じようなメカニズムと考えることができますよね。

 

こころの健康クリニックでは、『休職中の睡眠覚醒リズム』で書いたように、対処法とその長期的な影響を振り返るセルフ・モニタリングを行っています。

これは対人関係療法でも教えている「自分の選択に自覚と責任を持つ」ことでもあります。つまり、自覚的に、そして主体的に自分の行動を選択し、その結果を引き受けるということです。

 

「自分の選択に自覚と責任を持つ」に必要なことは、誰しも感じる変化に伴う一時的な苦痛を避けようとして永続的な苦悩に変えないこと、つまり、「心の枠組みを広げる」取り組みなのです。

 

院長

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