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「関係トラウマ(外傷育ち)」の自己攻撃状態と被害者モード

[2021.04.14]

『「関係トラウマ(外傷的育ち)」の心的等価モードと思いこみ』で、心的等価モードの1例として、『自分やましいことがある時に、「みんなが怒った顔をしている」と感じる。または「みんながぼくを攻撃してくる』と確信する(被害者モード)。(中略)治療においては、「彼のあの発言はこういう意図であり、それ以外は考えられない」など別の思考ができない姿勢も心的等価の1つに数えられます』を引用しました。(『メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服』)

 

「心的等価モード」は、「私はまわりから憎まれて当然の人間だ」「生きる価値がない」などさまざまな表現で、自分に対して「ヨソモノ自己」が内部から攻撃している状態で、「自己攻撃状態」と説明されます。

この「自己攻撃状態」は、気分変調症や乱れた食行動に悩む女性たちにも馴染みのある状態ですよね。

 

内からの目に見えない責め苦への償い・中和・または可視化の結果としての、リストカット(手首自傷)は、自分が自分の内面を責める状態より、身体を傷つけたほうがまだまし、もしくはこの責め苦を目に見える形にして痛めつけて(ヨソモノ自己)に許してもらう、または責める内部の自分を血とともに出してしまいたいという気持ちもあるかもしれません」と説明されています。(前掲書)

 

この「ヨソモノ自己」を対象に投げ込み、相手を自分の「ヨソモノ自己」の性質そのもののような存在と認識することを「投影同一視」と呼びます。

この「投影同一視」によって、「被害者モード」と「暴力状態」を引き起こすことが知られています。

 

こういったすべてのことが自分に関係があるわけではないのですが、もうひとつの可能性として、自分の中の嫌いなところや受け入れられないところを、他者に投影してしまうことがあります。

他者が実際に感じていないとしても、自分自身の中に隠している怒りが、他者の表情と態度の中に見えてしまうことがあるのです。

もし、自分の中に怒りがあることにまったく気づいていないために、自分の怒りを拒絶するとしたなら、まったく怒りを示していない人の中にさえ、自分の怒りが投影されてしまうことになります。

ゴンザレス『複雑性トラウマ・愛着・解離がわかる本』日本評論社

 

「投影同一視」は、『「関係トラウマ(外傷的育ち)」の心的等価モードと思いこみ』で引用した、部下に辛く当たってしまう上司の内面でも起きているようです。

この上司は「自分が嫌だ」と感じて抑圧している部分を部下に投影し、あるいは、自分が嫌だ」と感じて抑圧している部分を部下が見抜いているような気がして、被害者モードに陥り部下を攻撃しているのかもしれません。

 

「気分変調症」の人は、「自分はダメなやつだ」と考えますよね。これが「自己攻撃状態」なのですが、当の本人は自分の考えを事実だと思っています。これが「心的等価モード」です。

現実には何も起きていないのですが、「他人は自分のことをダメな奴だと思っているに違いない」と思いこみ(気分変調症の人の頭の中で起きている=脳内劇場)、自分のダメなところを見透かされないように他者を遠ざけてしまうことも、「投影同一視」と考えられます。

 

このような投影を向けられた相手はどのように感じるのでしょうか?

 

自分の中から知らないうちに怒りが漏れだしてしまうと、他者は根拠もなく不快を感じて、「どうしてこんなことになるのか」を誰も理解できないような状況になります。

他者はもう近寄りたくないと思うかもしれませんが、理由を尋ねたところで、「客観的」理由を教えてくれることはありません。

ゴンザレス『複雑性トラウマ・愛着・解離がわかる本』日本評論社

 

なぜだかわからないけれども、相手が自分のことを快く思っていないらしい感じは、何となく察知することができます。しかし、その理由がわからないのです。

 

もし「複雑性PTSD」や「気分変調症」など「関係トラウマ(外傷育ち)」をもつ人が「投影同一視」を向けられたなら、「やっぱり自分は…」と惨めで、馬鹿にされ、価値のない人間にされたように感じ(被害者モード)、怒り、恐怖をもって「投影同一視」の攻撃モードで反応してしまいそうです。

 

過去に自分が扱われたように他者に対してふるまってしまうことです。他者をありのままに見ることができないのです。他者の有り様を否定したり、他者に対して攻撃的になったり、厳しく批判したりしてしまいます。

(中略)

他者が自分に対してひどい応答をすると、その前に何が起こって、自分が何を言ったのかを分析せずに、その人が「たいした理由もなく」そういう応答をしたと確信し、「突然」他者が自分を攻撃したのは「その人が悪魔であるから」か「誰もが自分を粗末に扱うから」という単純な説明に満足してしまいます。

(中略)

ですから、他者の中にある特性は、時に好きなこともあれば嫌いなこともあります。それは、その特性自体が良いからとか悪いからとかではなく−−−もう一度−−−過去を想い出させるからなのです。

ゴンザレス『複雑性トラウマ・愛着・解離がわかる本』日本評論社

 

「関係トラウマ(外傷育ち)」をもつ人たちのように、自他の心の状態を俯瞰するメンタライズ能力が育たず、感情調節が失調していると、自分の心の中にある「ヨソモノ自己」からの「自己攻撃状態」の耐え難い苦痛を減らすために、外に吐き出す(排出する)メカニズムが「投影同一視」でした。

 

「関係トラウマ(外傷的育ち)」の心的等価モードと思いこみ』で引用した部下に辛く当たってしまう上司の内面をメンタライズしてみるとどんな感じになるでしょうか?

 

たとえば「彼の生い立ちについては知らないけれど、彼の過去の体験が、世界に対する理解と対応の仕方に影響を与えたということは明らかだ。もしかしたら、厳しくて権威主義的な両親が、彼の人格形成に影響を与えたのかもしれない。だから、自分の言動が、彼の行動を引き起こした唯一の原因というわけではなくて、彼の行動は彼の内的なプロセスによって誇張されたものなのだ」と考えられるのです。

ゴンザレス『複雑性トラウマ・愛着・解離がわかる本』日本評論社

 

何か理由がはっきり分からないうちに人間関係が壊れてしまうようなトラブルの背後にはほとんど投影同一視の働きがあると言っても過言ではないでしょう。(中略)逆に投影同一視を理解していれば、不可解な人間関係のトラブルや、怒りに曝される場面でも自分を見失わずに切り抜けられる可能性が広がります』ということです。

つまり、しっかりと自分の心の中をメンタライズすることが必要だということですよね。(『メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服』)

 

院長

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