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「複雑性PTSD」「気分変調症」と関係トラウマ

[2021.03.31]

これまで「複雑性PTSD」を中心に、「複雑性トラウマ」あるいは「愛着トラウマ」という観点で、「自閉症スペクトラムなどの発達障害」や「気分変調症」との関連を見てきました。

 

いずれも、対人的脅威(対人関係困難)に対する「メンタライジング能力(自他の行動の背景にある心理状態を推測すること)」の発達不全によって、「自分が何を感じているのかを知る能力や、この知識を自己調節にどう用いるのかを知る能力が未発達」であることが特徴であるということがわかってきました。(『複雑性トラウマ・愛着・解離がわかる本』)

 

つまり、「複雑性PTSD」とオーバーラップする「自閉症スペクトラムなどの発達障害」、あるいは「気分変調症」は、「関係トラウマ(外傷的育ち)」と位置づけることができそうです。

 

しかしながら、「自閉症スペクトラムなどの発達障害」をもつ人たちに対して、「メンタライゼーションに焦点を当てることが経験的に妥当であり、適切な治療的介入をもたらすか」という点については、有益であるというエビデンスが得られていないようです。(『メンタライゼーション実践ガイド』)

 

「自閉症スペクトラムなどの発達障害」もそうですが、「関係トラウマ(外傷的育ち)」をもつ人たちの対人行動の特徴は、省察的なメンタライジングの発達が不十分で、脅威の発見に適した「目的論的モード」を多用する傾向があります。

 

「目的論的モード」では、要求や情動などの心理状態は「行動」とその「実体的効果」だけで表され、他者への期待は物質世界に限定されます。(『メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服』)

 

当初内面の痛みを回避するために行っていた自傷行為に、徐々に「他者がどれだけ自分のために行動してくれるか」を試すという目的が含まれていきます。

薬を大量に服用してから恋人に連絡し、すぐに駆け付けてくれるという「行動」によってだけ恋人が自分を「愛している」という感情を同定します。

また、物質嗜好にも多かれ少なかれ目的論的モードの要素が含まれています。

「これだけ嫌な思いをしたんだから酒を飲まずにはいられない」「過食嘔吐をしないと頑張り続けた一日が終わらない」など、多彩な心理背景の中に物質的報酬で自らの辛さを実体に表している側面があるのです。

崔『メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服』星和書店

 

「関係トラウマ(外傷的育ち)」をもつ人たちだけでなく、自閉症スペクトラムなどの発達障害の人たちは、「無視されることや、拒絶、敵意、批判がほのめかされることに過敏になってしまう」と同時に、「他者のポジティヴな態度を知覚することも難しく」なり、「中立あるいはポジティヴな表情でさえ、ネガティヴな感情を含んでいるものと解釈してしまう」のです。(『複雑性トラウマ・愛着・解離がわかる本』)

 

たとえば、イライラしている様子で挨拶してくる同僚の表情を見ると、自分が拒絶されていると思ってしまいます。

その人は、誰に対しても同じようにふるまうかもしれませんが、「彼に何があったの?」とは考えないのです。その代わりに[自分が何か悪いことをしたのかな?]と自問するか「彼は私のことを嫌いなんだ」と考えます。

その人の表情に反応してしまうと、いつものように挨拶することが難しくなるので、その人にも影響を与え、逆に、その人が自分の過去に基づいてこちらの表情を解釈することになります。

あたかもテレパシーがあるかのように、その人の行動の理由や考えていることや感じていることを確信し、たいてい「そのことは自分に関係があるのだ」と決めつけてしまいます。完全に直感にたよるのです。

ゴンザレス『複雑性トラウマ・愛着・解離がわかる本』日本評論社

 

上記の引用を読むと、まるで「気分変調症(持続性抑うつ障害)」に特有の考え方・感じ方が表現されているようですよね。

ある本には「自分をいじめるような考え方は、気分変調症の症状」と書いてありますが、そうではないのです。

 

慢性のうつ病である「気分変調症」の中核症状は、「関係トラウマ(外傷的育ち)」と共通するメンタライジング能力の発達不全に共通するもので、①他者の行動の背景にある心理状態を一つの視点でしか解釈できないこと(思いこみ)、そして、②その解釈をあたかも事実であるかのように信じ込んでしまうこと(心的等価モード)、なのです。

 

前出の引用と似たような例が『メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服』に挙げてありました。

 

Q.パパが今日はやたらとスピードを出して運転をしています。一緒に乗っている子どもは、「どうしてなんだろう?」と考えます。その疑問に対して各年齢の子どもはどんな風に考えるでしょう?

(中略)

7歳の小学1年生にもなれば、多くの子は「何かイライラすることがあったのかな」と、行動の背景にある「心理」を読めるようになります。メンタライジング・モードが成長してきている証です。

しかし、いつもパパに怒鳴られている10歳の子は、「また私がパパをおこらせるようなことをしてしまったにちがいない」と考えて怯えてしまうかもしれません。実際にはただ急いでいるだけだったとしても、そう考えると他の考えが持てなくなってしまうかもしれません。

外傷的育ちにある子どもは幅広いメンタライジングができなくなり、ピンチではメンタライズ力が落ちてしまうのです。

崔『メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服』星和書店

 

過去に自分が扱われたように他者に対してふるまってしまうことです。他者をありのままに見ることができないのです。他者の有り様を否定したり、他者に対して攻撃的になったり、厳しく批判したりしてしまいます。(『複雑性トラウマ・愛着・解離がわかる本』)

これが「関係トラウマ(外傷的育ち)」に特徴的な症状なのです。

 

「関係トラウマ(外傷的育ち)」の治療においては、治療関係の中で「新たな愛着関係」を構築すること、つまりメンタライジング能力を育んでいくことが最も重要なプロセスになります。

 

人が大人になり社会で生きていく中で、その人のメンタライジング姿勢は人生に重要な影響を与えます。

しかし幼少期に外傷的育ちの中にあったためにメンタライズ力がうまく育たなかったからといって、それを一生抱えていかなければならないわけではありません。メンタライズ力はいつでも育つのです。

崔『メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服』星和書店

 

安心できる治療者-患者関係、つまり、柔軟に利用でき、安全基地となるような新しい愛着関係が創造されることで、「関係トラウマ(外傷的育ち)」の人たちの社会的な対人関係の障害を癒していくことができます。

治療関係の中で、他者の感情あるいは他者の置かれている状況を認知して、同じ方向の感情を共有する「共感」と、他者の思考感情、視点を理解する能力である「他者視点取得(メンタライゼーション)」をやり取りしていくことが、アタッチメントに基づく治療的介入です。

 

院長

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2021年4月から毎週土曜日に診療を行うこととなりました。診療時間についても、10時~13時半、14時半~16時半と変更になります。
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