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発達障害特性と傷つき体験にともなう自己組織化の障害(2022.06.06更新)

子ども虐待と発達障害が絡み合う要因として、複雑性PTSDと発達障害、特に自閉症スペクトラム症(ASD)とは相性が良いという事実がある」と、外傷性エピソード(トラウマ体験)や逆境的小児期体験(ACEs)などの心の疵、あるいは日常的に体験される傷つき体験などと「発達障害(神経発達症)特性」とは、親和性が高いことがよく知られています。(『テキストブックTSプロトコール』)

 

さらに、発達障害と愛着の障害などの対人関係の障害と、広い意味でのトラウマ体験との関連も指摘されるようになってきました。

 

養育者との間での愛着(アタッチメント)を基盤にして、「関係性」「認識」「自己制御」が発達します。

このアタッチメントに障害があると、関係性・認識・自己制御の障害だけでなく、別の何らかの精神失調(二次障害)をも引き起こします。

 

虐待などの小児期逆境体験は、愛着障害やトラウマ反応を引き起こしやすいだけでなく、さらには成人の不安症、うつ病、統合失調症、物質依存症などを引き起こしやすい。

発達障害と愛着障害は、相互に影響し合い、愛着形成・対人関係形成と発達を困難なものとしやすい。

(中略)

成人の臨床において留意しておかなければいけないのは、振り返って発達歴を理解しようとするとき、最初にあったものが、発達の問題なのか、愛着の問題なのか、よくわからない場合が多いということである。

(中略)

発達障害があると、対人関係上の問題が起こりやすく(どちら側に非があるかは個々に異なるが、どちらにも非のない行き違いも少なくない)、それがトラウマになりやすい。またトラウマが明瞭に記憶され、フラッシュバックしてきやすい。

(中略)

発達障害とトラウマ反応はしばしば同時にあるのである(どちらが先かということは、成人になって始めて会う場合にはよくわからないことが多い)

青木、村上、鷲田、編『大人のトラウマを診るということ——こころの病の背景にある傷みに気づく』医学書院

 

複雑性PTSDは、「PTSDの3つの徴候フラッシュバックや悪夢、心的外傷となった出来事に関連する思考や記憶の回避、現在でも脅威が存在しているかのような持続的な感覚)と、「自己組織化障害の3つの徴候感情調節不全、否定的自己像、対人関係の障害)として定義されています。

 

「発達障害(神経発達症)特性」と、「関係性」「認識」「自己制御」との関係は、以下のように説明されています。

 

精神発達を構造的にみれば、関係性の発達(X)、認識の発達(Y)、自己制御の発達(Z)の三つの軸からなっている。

「生物学的な個体」としてこの社会に生み落とされた子どもが、人と関係する力を培い(X)、世界を意味(概念)によって認識し(Y)、注意や欲求を状況や規範に応じて自己制御する力を伸ばし(Z)、それによって「社会的な個人」へと育つプロセスが精神発達なのである。

発達障害が基本的に「自閉症スペクトラム(関係の障害)」「知的障害(認識の障害)」「ADHD(自己制御の障害)」のかたちをとるのは、偶然ではなく、発達がこの三軸構造をなしていることの反映であろう。

滝川. 一次障害と二次障害をどう考えるか. そだちの科学(35); 2-6. 2020

 

つまり、「自閉スペクトラム症(関係の障害)」「知的障害(認識機能の障害)」「ADHD(自己制御の障害)」は、とりもなおさず、「自己組織化障害の3つの症状(④感情調節不全(自己制御の障害)、⑤否定的自己像(認識の障害)、⑥対人関係の障害(関係の障害))と関連しているようなのです。

 

こころの健康クリニック芝大門で診ていると、生死に関わる外傷性エピソード(トラウマ体験)がないグレーゾーン以上の「発達障害(神経発達症)特性」の方でも、「自己組織化障害の3つの徴候」はほとんどのケースで認められます。

 

つまり、「自己組織化障害の3つの徴候」は「発達障害(神経発達症)特性」を表すものであり、一方、PTSD症状は外傷性エピソード(トラウマ体験)を表すもの、と言えるでしょう。

これが、発達障害と広い意味でのトラウマ、そして愛着の問題は、密接に関わりあうという意味のようです。

 

重要なのは、これらの三軸は互いに支えあっていることである。

たとえばXとYの関連を取り上げれば、人間の「認識」とは社会的な意味を通して世界を捉えることだから、すでにその捉えを獲得した成人との関係(交流)の発達抜きには認識の発達は進まない。

他方、人間同士の「関係」はさまざまな意味や約束から成り立つため、それを理解する認識的な力の発達ぬきには関係の発達は進まない。

このように関係の発達(X)と認識の発達(Y)とは相互に媒介しあって進むのである。

滝川. 一次障害と二次障害をどう考えるか. そだちの科学(35); 2-6. 2020

 

さらに愛着の問題を考えてみましょう。

 

愛着行動とは幼児が不安に駆られたときに、養育者の存在によってその不安をなだめる行動です。

養育者の存在は幼児のなかに徐々に内在化され、養育者が目の前にいなくとも、不安をなだめることができるようになります。

 

愛着対象である養育者をそれと「認識する(Y)」ことと、愛着対象との「関係の発達(X)」によって、「感情を制御する自己制御(Z)」の発達がもたらされるわけです。

 

しかし、愛着の形成不全は、自ら不安をなだめることを困難にし、情動調整の障害が生じるだけでなく、社会性や共感性の欠如(他者に対する不信:認識の障害と関係性の障害)をもたらします。

 

カテゴリー診断では、自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如多動症(ADHD)併存が認められ、それに加えて、不安定な家庭状況の中に育ち、被虐待歴があり、愛着障害の要素も同時に認められる、いわゆる発達性トラウマ障害(van der Kolk, 2005)、あるいはトラウマ系発達障害(杉山ら、2021)と呼ばれる子どもたちである。

杉山『テキストブックTSプロトコール』日本評論社

 

ASDとADHDを別のものと考えるよりも一つのグループのサブタイプと考えた方が、矛盾が少なく、一般的には多動性の行動障害つまりADHDの臨床像と、非社会的行動すなわちASDの臨床像とを共に呈するようになる」と考えられています。(『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』)

 

つまり、ASDやADHDの特性があり、機能不全家庭に育ち、自己調節の障害を含む愛着の問題を抱えた人たちは「発達性トラウマ障害」みなすことができ、「自己組織化障害の3つの徴候」のどれが主になっているかによって、対応の仕方が変わってくるということですよね。

 

ちなみに、人を信じることが出来ないとか、人間関係を作れない、他のところで複雑性PTSDと言われた、などで、こころの健康クリニック芝大門に治療を申し込まれる方が多くいらっしゃいます。

 

複雑性PTSDの治療は、基本的に、フラッシュバックの治療を中心として、「複雑性PTSD」や「発達性トラウマ障害」に伴う双極II型障害のような気分変動などの「症状」は、医療として治療することができます。

しかし、対人関係の構築ができない、あるいは、人を信じることができない、などの「困りごと」は、精神医療ではなくカウンセリング等でじっくりと培っていく内容です。お間違えのないようにお願いします。

 

院長

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