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発達障害特性を有する適応障害への対応(2022.06.01更新)

発達障害特性が)灰色の人たちはストレスがない状況では発達障害には見えないが、ストレスがかかると弱点が露呈し、発達障害に気づかれる」と、まるでカメレオンのように発達障害特性が顕著になったり、気づかれにくくなることを、「グレーな発達障害」と呼ばれています。(村上. おとなの発達障害への発達障害を前面に出さない支援. そだちの科学:31, 51-57, 2018)

 

このことは、クロニンジャーの気質・性格理論で考えるとわかりやすいでしょう。

 

クロニンジャーの理論では、「発達障害(神経発達症)特性」などの生まれつきの「気質」は出来事の体験の仕方を規定し、一方、後天学習によって身についた「性格」は体験の意味づけを行います。

「気質」と「性格」が合わさったものが「人格」で、これは状況に対する対処の仕方と説明していますよね。

 

適応(後天学習によって身についた「性格」)がうまく機能している場合は、先天的な「気質」はコントロールされています。「発達障害(神経発達症)特性」があっても目立たないわけです。

 

環境要因が神経発達症の特性そのものに大きな変化を与えることは考えにくい。

しかし、神経発達症のある人が獲得する行動特徴や対処スキルは、それまで育ってきた環境により変わりうる。

篠山. 神経発達症の症状の変遷. 精神科治療学 37(1): 17-22. 2022

 

環境要因に対する対処や順応がうまくいかない場合、つまり、これまでのやり方が通用しない場合、どうしても生まれつきの「気質」特性だけで対処しようとしてしまいます。

その結果起きてくるのが、「適応障害(適応反応症)」、あるいは「職場不適応」や「職務不適合」です。

 

同じようなストレス状況にあっても、適応障害と診断されるほどの症状を呈する人と、そうならない人がいるという、あたり前のことも強調しておきたい。

そして、そのようなことが起こるのはパーソナリティの脆弱さゆえではなく、主観的な体験の差異にあるということも適応障害の診断にとって重要な認識である。

平島. 適応障害の診断と治療. 精神神経学雑誌 120: 514-520, 2018

 

「出来事をどう体験したか」という主観的な体験の仕方をふり返ることが、適応障害の診断のみならず、治療的にも作用することが示されています。

 

以前に産業医として関わったケースに、以下のような社員さんがいらっしゃいました。
(個人を特定できないようにいくつかのケースを合成し、一部は改変しています)

 

部署異動に伴って新しい業務についたAさんは、上司や同僚の表情や発言の仕方が気になり、わからないこともなかなか聞くことができずにいたそうです。

次第に寝付きが悪くなり、寝ても途中で何度も目が覚めたり、不安が強く、仕事中に急に涙がでるようになり、メンタルクリニックを受診したそうです。

 

メンタルクリニックで「適応障害」と診断され、抗うつ薬と睡眠薬、そして抗不安薬が処方され、1ヶ月の休職診断書が提出されました。

 

休職して2週間ほど過ぎた頃から気分も良くなってきて、3週間目に復職可能の診断書が提出されました。

復職可否を判定すると同時に、適応障害を再発させないための環境調整の必要性も考えながら、産業医面談を行いました。

 

産業医面談でAさんが話されたことは、「自分がわからないことを上司に質問すると、なぜそんなことを気にするのか?と、自分を否定するようなことを言われた」「質問に行くと、質問に来ることが迷惑だと言わんばかりに上司はいつも眉をひそめていた」「これまでやったことがない仕事をやらされて、会社は仕事ができない自分を退職させようとしているのではないか」、などの不満でした。

さらに、「主治医の先生も、会社の異動のさせ方とか上司の対応は間違っているので、以前の部署に戻してもらいなさい、とおっしゃっていました」と話されました。

 

環境調整には上司との対人関係の問題を改善する必要があると考え、上司と人事担当者を交えて相談しました。

上司からの意見では、Aさんは仕事そのものはそれなりに問題なくこなせていたものの、異動してきてから同僚への不満、たとえば「なぜBさんにはこれをやらせないのですか?」「Cさんのやり方は違うと思うんですけどそれでいいんですか?」など、同僚への不満を上司に訴えて続けていたそうです。

これがAさんのいう「わからないこと」の正体のようでした。

 

上司は部下に気配りのできる温厚な方で、「まあ、人には人のやり方があるから、気にせずに自分の仕事を進めなさい、みたいなことを返事していましたけど、確かに、またAさんの不満か…と不快に思ったことは何度かありましたね」と、困ったような表情でおっしゃってました。

 

休職前には仕事ができておりパフォーマンスに問題がなかったこと、上司もAさんの言い分に対して肯定するということで、Aさんは休職前の部署に復職になりました。

 

ところが、復職して1ヶ月も経たないうちに、主治医の先生から再度、診断書が提出され、Aさんは再び休職してしまいました。

そこには「適応障害・再発:1ヶ月の休職を要する。合理的配慮をもとに異動などの安全配慮義務を実施可能であれば復職を考慮する」と書かれていました。

 

ところで、適応障害に限ったことではないが、とりわけ、ストレス因という外側の要因が取沙汰される適応障害では、疾病利得について念頭におきながら治療にあたらなければならない。

患者が負えるはずの義務や責任を回避する手助けを精神科主治医がしていないか、すなわち,治療自体が疾病利得になることに加担していないか、このような疾病利得によって慢性化を招く危険があることを肝に銘じておく必要がある。

平島. 適応障害の診断と治療. 精神神経学雑誌 120: 514-520, 2018

 

Aさんにとって異動先の仕事そのものよりも、周囲の同僚に対しての対人過敏性や他責性が強く、決められたことはきちんとできるものの、予定外の依頼や別のやり方が必要な仕事に対して混乱し、上記のような同僚に対する不満、そして上司の態度に対する不満につながったようです。

 

こころの健康クリニック芝大門のリワークでも使っている日本うつ病リワーク協会版の「復職準備性評価スケール(PRRS)」には、「E.職場との関係」の中に、「14.トラウマ感情」という他責性を評価する項目があります。

 

トラウマ感情とは、「自分は、職場、会社の犠牲になって発病した」という感情を指す。この項目は、「事実」の有無に関わらず、本人の申し立てに基づいて、評価する。 

① トラウマ感情を表現し、パニック、興奮、身体症状等が出現し、生活上の機能に影響することがある。または、他人(同僚、健康管理スタッフ、家族等)の意見を聞かない。

②または、他人の意見は聞くが、考え方・トラウマ感情は変わらない。

Aさんの場合、他者を主語にした発言ばかりで、自分がどんな質問をしたので相手はこう返事をした、という文脈としての出来事の理解ができておらず、他者の発言を断片的に切り取り、つなぎ合わせて、自分なりのストーリーを作り上げてしまったようでした。

そのため、「患者自身が適応障害の病状に陥った理由を理解する」際に、主観的な体験の中で内省(出来事の意味づけや他者心理のメンタライズ)ができず、トラウマ感情(他責・他罰)のみに終始してしまったようです。

 

再休職中もAさんは人事に対して部署異動をしきりに訴えていらっしゃったそうですが、休職中に退職されたと聞きました。

なんとも後味の悪いケースでした。

 

院長

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