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境界性パーソナリティ障害と双極II型障害(2021.11.08更新)

北海道大学大学院保健科学研究院の傳田教授は、「双極性障害」と「ADHD(注意欠如/多動性障害)」で共通する非特異的な症状として、イライラ感(易刺激性)、多弁、注意散漫、活力の増大をあげられています。

 

一方、「双極性障害」に特異的な症状としては、気分高揚、誇大感、観念奔逸、2〜3時間の睡眠だけでよく休めたと感じる睡眠欲求時間の減少をあげられています。(傳田『子どもの双極性障害』金剛出版)

 

ところが臨床の場では、易刺激性や活力の増大は、「双極性障害」の非特異的な(他の疾患でも見られる)症状であるにも関わらず、怒りっぽいことや、危険や結果をかえりみない快楽を得るための行動(浪費、無茶な運転、性的無分別など)などがあると、安易に「双極性障害」と診断されることが多いようです。

 

さて、猫エイズと猫白血病にかかっていた繁華街で拾ったあいが、その命を終えた時、セリさんは対象喪失の悲嘆反応から、深い抑うつの中に沈み込んでしまいました。

 

最良の「生き終わり」だったと思う。

だけど、私は、日が経つにつれ、濁流のような後悔に飲み込まれた。

(中略)

やがて私は、自責の念から重いうつ状態になり、ベッドから起き上がれなくなった。食事もとれず、お風呂も入れない。料理をすることも当然できず、母が電車とバスを乗り継ぎお惣菜を運んでくれた。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ミネルヴァ書房

 

アキスカルは、「双極Ⅱ型」のプロトタイプから「双極Ⅱ1/2型」を分離しました。

アキスカルは、双極II型とオーバーラップしてみえる「境界性パーソナリティ障害」と鑑別するため、双極Ⅱ型障害と双極Ⅱ1/2型を分離しようとしたのです。

 

重い悲嘆反応に沈んでいたセリさんは、抑うつ状態から浮上したようですが、その状態もまた混乱をきわめていたようです。

 

それまでモノクロだった風景が、きらきらと輝き、極彩色に見える。

だけど、体が元気になってくると、これまでぼんやりしていた思考も動き出した。

あいがいないショックがまたよみがえり、「死にたい」という感情が暴れ出す。衝動的に煙草を飲んで救急病院に搬送されたかと思えば、一命をとりとめても、また自殺の計画をたててしまうことの繰り返しだった。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ミネルヴァ書房

 

セリさんのこの症状を読み限り、抗うつ薬による躁転(双極Ⅲ型)が非常に疑わしいようです。

このような状態は、「境界性パーソナリティ障害」なのか、「双極性障害(双極II型障害)」なのかの判別に非常に頭を悩ませるところです。

 

当時のセリさんには、冒頭に挙げた易刺激性、活力の増大がみられていますが、注意散漫に関してはある事柄(あいがいないこと)に注意がロックされた場合、柔軟に切り替えることが難しかったように思われます。

 

先に挙げた「双極Ⅱ1/2型」と、プロトタイプである「双極Ⅱ型障害」の違いは、プロトタイプである「双極Ⅱ型」は「明るい(sunny)」表現型、双極Ⅱ1/2型は「より暗い(darker)」表現型として特徴づけられています。

アキスカルらのこの分類は、境界性パーソナリティ障害と見誤らず、適切な治療に導くためには有用であると考えられています。(齋藤・塩田, 双極Ⅱ型とbipolar spectrum disorder, 精神科治療学: 27増刊号, 126-132, 2012)

 

「双極Ⅱ1/2型」は極性が不明瞭で、移ろいやすく、生活史上の波瀾万丈さ、病気と性格の境界の不明瞭さ、あるいは、誰かの役に立つことで初めて自分は承認されるという同調性、などの特性をもちます。

境界性パーソナリティ障害と双極II型障害との鑑別は、同調性の病理にあるのではないか、と個人的には考えています。

 

「境界性パーソナリティ障害」と「双極Ⅱ型障害」は8〜19%に併存するとされているように、類似点が多く、診断に苦慮する場合が多いことも指摘されています。

 

病院で話すと、それは私が、「双極性障害」———俗にいう「躁うつ病」———にかかっている可能性があるという。これは、「躁状態」と呼ばれる気分がたかぶった状態と、「うつ状態」と呼ばれる気分が低下した状態が交互に繰り返される病気なのだそうだ。

「躁状態」というと、一見、気分が良さそうに思われがちだけど、現実には、気分が高揚するだけでなく、攻撃的になったり、眠れなくなったり、マイナス面も現れる。

また、私の場合は、その両方が混在する混合期があり、精神状態はネガティブなのに、行動面では活動的になり、「死ぬことに意欲的になってしまう」ことがあった。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ミネルヴァ書房

 

症状だけをみると、確かにセリさんは「双極Ⅱ1/2型」にみえないこともありません。

 

臨床的には、双極II障害でよくみられる混合状態は、自殺や問題行動のリスクが高く、抗うつ薬単剤治療による病態の複雑化や自殺の誘発の危険性があり、「境界性パーソナリティ障害」と誤診される危険性が高い病態とされています。

 

また、マイナートランキライザー(抗不安薬)の多剤併用大量療法による奇異反応、あるいは、脱抑制反応のため、患者さんを「境界性パーソナリティ障害」のように変化させてします場合があることもよく知られています。

 

一方では、双極スペクトラム障害の概念の浸透に伴い(とくに児童思春期で)双極性障害の過剰診断も問題になっています。

 

さらに、アメリカ精神医学会の境界性パーソナリティ障害の治療ガイドラインでは、一時期、抗うつ薬が推奨されていましたが、治療効果に乏しく、抗うつ薬の単剤投与により不安焦燥感が生じる可能性が指摘され、境界性パーソナリティ障害に対する抗うつ薬投与は推奨されなくなりました。

 

診断が正しいか、間違っているかを脇に置いたとしても、当時のセリさんにとっては切迫した状況だったということです。

 

もともとセリさんが持っていたパターンなのか、ある時期を境に現れた併存障害的なものであるのか、あるいは、薬剤により誘発された可能性のある状態なのかについての、慎重な鑑別が必要ということなのです。

 

院長

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