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トラウマから回復し続けるための「自己—関係観察」(2021.11.22更新)

セリさんが診断された「境界性パーソナリティ障害」は、①アイデンティティ混乱、②安心の乏しさ、および見捨てられることへの敏感さを特徴とする不安定な密着関係、③激しい情動的反応性、④衝動的な自己毀損行動、などで特徴づけられます。

 

また「境界性パーソナリティ障害」では、PTSD、解離症状、抑うつ、全般性不安、物質濫用、健康不良、摂食障害、非自殺性自傷、自殺企図などの、問題行動を引き起こしやすいことがよく知られています。

 

さらに、「境界性パーソナリティ障害」では、幼少期の虐待とネグレクト、あるいは不適切な養育と関連することもいわれており、さらに、「感情調節障害」「否定的自己概念」「対人関係障害」の「自己組織化の障害」の3カテゴリー症状が「複雑性PTSD」と共通して認められることから、その異同が問題になります。

 

「境界性パーソナリティ障害」では「自己組織化の障害」のうち、「対人関係障害」は「見捨てられまいとする尋常ならざる労力」「理想化と脱価値化の間を揺れ動く不安定で激しい対人関係」が、「感情調節障害」では「衝動性」が、そして、「否定的自己概念」では「著しくかつ持続する不安定な自己感覚・イメージ」が、特徴的とされています。

 

これだけの症状があれば、「境界性パーソナリティ障害」をもつ患者さんも、それを支える家族も苦しんでしまいますよね。

 

これまで私は、夫は「死んでしまうだろう私」も含めて、受け入れてくれているのだと思っていた。それが「病気を理解する」ということなんだとも。

そう言った私に、夫はかぶりを振った。

「俺は、少しずつ、諦めていったんだと思う。一緒に年をとることも。二人の未来を夢見ることも……」

言葉を失った。

私は、ずっと、自分だけが病気で苦しんでいるんだと思っていた。

そうじゃない。

私が自殺未遂を繰り返すたび、夫も同じように苦しみ、傷ついていた。

そして、それなのに、私の気持ちを優先しようとしてくれていた。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ミネルヴァ書房

 

これまでずっと夫(咲生さん)に支えられたセリさんは、ようやく、夫の苦しみや傷つきに目を向けることができるようになりました。

 

患者さんが一番苦しんでいるのだから、それを忘れないように」と説明される精神科医もいらっしゃいます。

ご家族は自分の苦しさは我慢しなければいけないと思い、自己犠牲的に患者さんに尽くそうとされることも多いのです。

そもそも、患者さんとそれを支える周囲の家族とでは、苦しみの内容が異なるため、比較すること自体がナンセンスなのです。

 

一方では、患者さんの中に「家族が病気を理解してくれないから、自分は治らない」とおっしゃる方もいらっしゃいます。

しかし、病気の概念やどんな症状が出るとか、どうすれば治るなど、治療者が理解する必要のある内容を、ご家族が理解する必要はありません。

 

こころの健康クリニックでは、「ご家族は監督やコーチではなく、自分のチームが勝っても負けてもスタンドから応援している応援団です。応援団が競技場に下りてきて、監督やコーチのように指示を出しはじめると、試合は混乱してしまいますよね」と説明していますよね。(『どう接したらいいんですか?』参照)

 

母は、「私も、あなたのお父さんも、摂食障害については今もよくわからないの。でも,私たちはいつでも『あなた』を理解していたし、あなたが話してくれた内容や気持ちは本物だと完全に信じていたのよ。何があっても丸ごと受け止めるのが、家族や友人の役割だと思っているから。そうでしょう?」と返信してきました。

その通りです。

私は摂食障害についての本を三冊書いていますが、両親はいまだに病気そのものについては完全には理解できていません。この点に注目してください。

つまり、それでも私は良くなれたのです。

(中略)

家族には、私が何を経験しているのかを理解してくれなくてもいい、私の話を聞いて、私のことを信じて、そして私のそばにいてくれるだけでいい、と伝えました。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんも書いているように、大切なことは、病気と患者さんを区別し、患者さんの心の状態を理解しようとすること(メンタライズすること)なのです。

 

もちろん、言葉で説明するのは簡単ですが、実際に病気で苦しんでいる人に寄り添うためには、自分自身のこころのケアが必要不可欠です。

 

そんなふうに寄り添ってくれたのは、夫や友人だけではない。

かつて、あんなにも私を虐げた父や、私を守れなかった母も、私がテレビなどでその傷を語るたび、私との関係性を築きなおそうとしてくれた。

人間は、何歳になっても、やりなおせる。

両親が離婚し、弟も遠くへ巣立ち、ばらばらになったわが家だけど、私の中では、かつてよりもずっと、渇望していたぬくもりを感じることができた。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ミネルヴァ書房

 

原家族である両親、そして夫からの支えを受け止め、セリさんは「つながり」を実感することができました。

 

自己概念あるいはスキーマ(関係のなかにおける役割モデル)についての気づき;関係性の質】が変化したことで、「変化を起こす(回復する)」ことを決心したのです。

 

「私は、境界性パーソナリティ障害をやめる!双極性障害もうまく飼いならす!」

夫から胸のうちを聞いた日をきっかけに、私はそう決意した。

「やめる」と決めてやめられるものではないことはわかっている。でも、誰かの力を借りての「治る」でも「回復する」でもないような気がした。自分の意思で「克服する」。そのためには、どんな努力でもしようと。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ミネルヴァ書房

 

セリさんのこの決心は、摂食障害からの回復にも通じることですよね。

 

このブログで何度も説明したことがありますが、「治療アプローチの違いにかかわらず、変化の段階についての多理論統合的モデルに基づいた研究は、(中略)治療と個人とのマッチングを高め、治療の進展と結果に影響を及ぼすことを示した。(中略)これはとくに、対人関係療法の結果に当てはまった」と報告されているように、変化の段階は治療効果に大きく影響するのです。(マーラット、ドノバン『リラプス・プリベンション』日本評論社)

 

セリさんの決心は、変化のプロセスを行うことを真剣に考えており、6ヶ月以内に新しい行動をはじめる意図がある「熟考期」のようです。

 

そしていよいよ、変化するための活動を行う計画を立て、30 日以内に新しい行動を始める意図がある「準備期」に移行されました。

 

最初にしたのは、関連書籍を読むことだった。闘うには敵を知らなければならない。

私は、かたっぱしから、病気に関する本を読んだ。

すると、激しい怒りや死にたい感情など、それまで変えようのない性格だと思っていたことが、ほとんど病気の症状である「認知の偏り」からきているものだとわかったのだ。

 

認知の偏りとは、生きてきた中で染みついた、言うなれば「考え方のくせ」のことだ。

たとえば、「今、一緒にいられないなら、別れた方がまし!」というような、「全か無か思考」。「これまでもフラれてきたから、この恋もだめになるに違いない」という「一般化のしすぎ」。「彼がため息をついたのは、私を嫌っているからだ」という「結論の飛躍」。

今までは、すべて変えようのない事実だと思って取り乱していた考えが、ただの偏った私の思いこみで、つまり、その思いこみにさえ飲み込まれなければ、生き延びられるのだと知り、目からうろこが落ちる思いだった。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ミネルヴァ書房

 

セリさんは「認知の偏り」、つまり長い間に染みついた考え方のクセ(思考パターン)、【感情・考え・情動のコントロールについての気づき;考え方の質】に気づきました。

 

そして【心の状態の変化についての気づき;効果的な行動を積極的に学ぼうとする気持ち】を使って、「全か無か思考」「結論の飛躍」などの目的論的モード、「一般化のしすぎ」など心的等価モードに気づきました。

 

つまり、思考(空想)は現実ではなく頭の中で起きていること(脳内劇場)であるという認識(自覚:アウェアネス)と、「飲み込まれない」という思考を真に受けない(触れつつ巻き込まれない)ことに取り組みはじめたのです。

 

ある時、私が知人と仲たがいし、私は知人を「死ねばいい」と思ってしまった。

だけどそれは現実として叶わない。

すると「それなら私が死ぬしかない」という極端な思考に襲われた。

自分の考えに落ち込んだ。

あんなに生きると決めたはずなのに。

結局、私は、また死にたくなってしまっている———。

咲・咲生『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました。——妻と夫、この世界を生きてゆく』ミネルヴァ書房

 

しかし、「生きてきた中で染みついた「考え方のくせ」」、つまり考え方のパターンに気づき、「生きてきた中で染みついた「考え方のくせ」」を真に受けず、巻き込まれずにいることは容易ではなかったようです。

 

院長

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