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摂食障害という生き方から抜け出すために(2021.04.26更新)

摂食障害の子に対する自責感を軽くするために』で、《病気」という視点ではなく「困りごと」という視点が何よりも必要》と書きました。

 

これにはいくつか理由があるのですが、まず挙げられるのは「(大)うつ病性障害」のような急性疾患と「摂食障害」のような慢性疾患では、対応が異なるということです。

 

精神疾患の中で急性疾患と考えられるのは、「(大)うつ病性障害」や「急性ストレス反応」あるいは「適応障害」などです。

「急性ストレス反応」や「適応障害」は疾患というよりもむしろ反応性の状態と考えられますから、「(大)うつ病性障害」以外は基本的に慢性疾患ということになります。

 

「(大)うつ病性障害」のような急性疾患では、「治療可能な病気にかかっている」という医学モデルや病者役割を当てはめることによって、「医療はその体験のわからなさを「病気」としてくくることによって、治療文化のなかで受容可能なものとしてきた」わけです。内海『気分障害のハード・コア』金剛出版

 

うつ病臨床では、統合失調症の場合ほどには、医療のもつ侵襲性への配慮は、通常要らない。この疾病に対しては、むしろ医学の枠組みが保護的に働くことが多い。(中略)うつ病の診断にあたっては、ある程度、身体化に準じた、いわゆる医学化した面接が採用されることになる。

(中略)

それに比べると、うつ病では関係性が問題となることは、それほど多くはない。彼らの多くはいわゆる「病者役割(sick role)」にはまってくれることが多い。(中略)それゆえにこそ、むしろ「病気」と見立て、病人として庇護されることが有効な枠組みとして機能するのである。

内海『気分障害のハード・コア』金剛出版

 

ところが一方で、気分変調症などの慢性うつ病性障害や、拒食症や過食症など慢性的に経過する摂食障害は、医学モデルや病者役割がうまく適合しないのです。

 

たとえば、治療者からこのように言われたと想像してみてください。

「摂食障害という病気にかかっているときは、そう考えてしまいますよね」「摂食障害という病気にかかっているから、過食したいと思ってしまうのも無理もありませんよね」

「そうなのかもしれない」と納得できる反面、「でも、痩せたいと考えてしまう自分の考えがおかしいのではないか」「過食したくなるのはやっぱり意志が弱いからではないのか」と感じて、自分を責めてしまうのではないでしょうか?

 

このような医学モデルを適用しないことが「医療のもつ侵襲性への配慮」ということなのです

 

北九州医療刑務所の瀧井先生は次のようにおっしゃっています。

 

筆者は、摂食障害は単に病気と言うよりも、生き方であると考えています。「摂食障害という生き方」です。
ですから、私は治療において、患者さんの生き方に問いかけます。

瀧井「連載:摂食障害にまつわる問題点と提言 ③摂食障害の精神病理に真摯に向き合うことの重要性」平成29年 日本摂食障害学会ニュースレター

 

「摂食障害という生き方」に焦点を当てるために、『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』や『摂食障害から回復するための8つの秘訣』では、摂食障害という病気と患者さん本人を区別することに最も重点が置かれているのです。

 

私の頭の中でずっと聞こえ続けていた声をエドのものとしてきちんと認められるようになったのは、みなさんのような治療の専門家が、「ジェニー、もう声にしたがわなくてもいいですよ」と言ってくれたからでした。

(中略)

この本を書くにあたっては、摂食障害という病気から、摂食障害に苦しんでいる人自身を切り離しやすくすることに、とりわけ力を入れました。このように切り離して考えることは、治療の初期の段階では特に効果が期待できます。

(中略)

また、エドとの対話は本書を通じてご紹介してきましたし、第4章では具体的な練習方法もお伝えしました。この方法は、苦しんでいる人たちを摂食障害そのものから切り離すためにかなり効果を発揮しています。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

本来、自分が生きたい生き方(ライフ・ゴール)に向かうことを摂食障害思考が邪魔をして、全く違う方向へ誘われてしまっているわけです。

 

思春期の拒食症の場合も、生きたい方向(ライフ・ゴール)に向かうことを家族が手助けしてあげる必要があります。

 

『神経性拒食症のための治療マニュアル——家族基板のアプローチ』の中で、精神科医のジェームズ・ロックらは、「拒食症とは、患者さん自身ではないのだと強調することで、治療者は、発達中の思春期の患者さんを支えることに焦点を当てられる。摂食障害を患者さんが抱えている問題として認識できるようになる。これは、患者さん自身との関係性を保ちつつ、一緒に力を合わせて問題である摂食障害に対処するうえでの大切な方法となる」と提案しています。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

拒食症の場合は、『家族のための摂食障害ガイドブック』『家族ができる摂食障害の回復支援』『家族の力で拒食を乗り越える』などが役に立つかもしれません。

拒食症のお子さんをお持ちのご両親は参考にしてみてくださいね。

 

では、摂食障害の女性たちが本来生きたかった生き方、というのはどのようなものでしょうか?

 

彼女たちがうまく食べられなくなったきっかけは、いじめ、身体への揶揄・友人・家族関係のいざこざなど、人々とのつながりの間に生じた亀裂であった。その亀裂が苦しかったからこそ、彼女たちはやせることに活路を見出そうとしたのである。そして彼女たちの試みは、ほんのひとときであるが、成功を収めた。

(中略)

彼女たちが食べ方を変えたそもそものきっかけは、人と人とのつながりをより快適なものに修正することだったのである。しかしそれは結果的に、孤立という彼女たちがもっとも望まない方向に彼女たちを誘導することとなった。

日常の食を反転させる形で行われる過食は、フローを引き起こし、それは彼女たちが不安と心配事がうずまく日常を乗り切るための術として定着した。しかし、そのフローは誰とも共有することができない。過食は続ければ続けるほど孤立を生む、悲しい祝祭なのである。

磯野真穂・著『なぜふつうに食べられないのか 拒食と過食の文化人類学』春秋社

 

「人とのつながりを快適なものに修正しようとすること」「不安や心配事がうずまく日常を乗り越えようとすること」、これらが乱れた食行動に悩む女性たちが目指した方向なのです。

摂食障害に邪魔されなければ、手に入れられたはずの生き方なのです。

 

生きたい方向(ライフ・ゴール)を目指して、自分自身との関係を改善し、行動の仕方を変え、他者との関係を改善していくさまざまなスキルを身につけていく方法が、新しい対人関係療法による治療のすすめ方なのです。

 

院長

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