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関係トラウマと繰り返される対人関係(2021.04.21更新)

「割れ鍋に綴じ蓋(われなべにとじぶた)」とか「類は友を呼ぶ」などの言い方があります。

「関係トラウマ(外傷的育ち)」の人は、似たような境遇で育った人を選ぶ傾向にあります。また「気分変調症」の人は劣等感を感じてしまう相手を選ぶ傾向にあるようです。

 

それと同じメカニズムかどうかはわかりませんが、「自閉症スペクトラムなどの発達障害」の要素を持った人は、同じような「自閉症スペクトラムなどの発達障害」の人をパートナーに選ぶ傾向があるようです。

 

妻が夫の「発達障害」を疑い、初診予約も妻が行うというパターンがある。(中略)診断の結果は、夫の「無実の証明」となることはやはり少なく、妻の言い分が当たっていることも少なくない。

(中略)

こうしたケースでは、妻もタイプの異なる自閉症スペクトラム(障害)が疑われることもしばしばであるが、当の夫がそれを指摘したり口にしたりすることはほとんどない。(中略)

世に取り沙汰される「カサンドラ症候群」についてはその功罪を問いたくなることもある。

中村、本田、吉川、米田『日常診療における成人発達障害の支援〜10分間で何ができるか』星和書店

 

こころの健康クリニック芝大門で「対人関係療法による夫婦/パートナー同席面接(IPT-CM)」を行うと、社会的には非常に適応のいい夫あるいは妻でありながら、面接中に情動負荷が高まり過覚醒状態になると、非メンタライジングモードが繰り広げられることになってしまいます。

 

わかりやすくいうと、夫婦/パートナー関係という近い関係性では、「わかってくれて当然」「話を聞いてもらって当然」と幼児的万能感の世界に退行して、メンタライジング能力が極端に低下してしまいます。

そのため、対話を通して解決を図るはずが、お互いにエキサイトして自分の言い分を声高に主張するだけで、ますます相手の心の状態を慮る余裕がなくなってしまうのです。

 

このような状態の背景に『「関係トラウマ(外傷育ち)」の自己攻撃状態と被害者モード』で解説した「投影同一視」があるようです。

 

一般に「腐れ縁」あるいは「共依存」として知られる、過去と同じような関係を繰り返す「リエナクトメント(再犠牲者化)」も、「投影同一視」によって引き起こされてしまうようです。(『愛着トラウマの2つの再演』参照)

 

奇妙なことに、内面で感じるものだけでなく、自分に関して受け入れられないものがあればあるほど、他者に強力に惹きつけられるのです。

内面に目を向けることを忘れていたとしたら、自分から遮断されたこれらの“部分”は、他者の目を通してのみ明らかになるからです。

この他者に惹きつけられる感覚は、「本当の」友情や愛と名づけられることがありえますが、実際には、未解決の問題の症状であるといえます。

拒絶され無視され傷つけられた“内面の子ども”は、その感覚に依存するようになりますが、それは理性と気づきの外側で生じています。この感覚に基づく関係性は、苦痛に満ちたものになる傾向があります。

つまり「他者にしがみつきたい」あるいは「親密さから逃れたい」という欲求を活性化してしまい、結局はもう一度、苦痛や痛みを引き起こしてしまいます。

(中略)

できる限り、過去に体験したようなことを繰り返さないようにしていても、不思議なことに、結局は同じタイプの人と同じ状況を繰り返してしまうことになります。

パートナーや友達を選ぶのが、“大人”の自分ではなくて、そうなりたくないと思っているはずの“内面の子ども”だからです。この“内面の子ども”は、過去の経験から学ぶことができなかったために自分の中にとどまっているのです。

(中略)

“内面の子ども”は「自分のように」思えないかもしれませんし、「十分に」大切にされていないと思っています。
そのため、同じ問題を抱えることで共鳴しあう人と多くの関係をもつ傾向があるのです。

ゴンザレス『複雑性トラウマ・愛着・解離がわかる本』日本評論社

 

長々と引用しましたが、「共依存」や「リエナクトメント」を引き起こしてしまうのは「内面の子ども」、つまり、小さな頃に時を止めてしまった「ヨソモノ自己」のようです。

 

「他者にしがみつきたい」という愛着システムが活性化すると、社会的判断とメンタライゼーションに関連する脳領野が制止することが示唆されています。このメカニズムは、以下のように説明されています。

 

第1に、自分に対して敵意を持っている他者の精神状態を考えることから自分を守るという心理的防衛である。

第2に、心的外傷を受けた結果、脳活動に変化が生じて、メンタライジングのスイッチが切れやすくなる。

第3に、安心感のない体験のために愛着システムが過活性化し、虐待的な愛着対象に近づくよう駆り立てることである。

ベイトマン&フォナギー『メンタライゼーション実践ガイド』岩崎学術出版社

 

情動負荷(過覚醒)によって愛着システムが活性化すると、非メンタライジングモードに陥ってしまい、「他者にしがみつきたい」と同時に「親密さから逃れたい」という「不安-アンビバレント行動」が引き起こされてしまうのです。

 

「自己攻撃状態」の苦痛を緩和するためのやむにやまれぬ方策である「投影同一視」ですが、「リエナクトメント(再演)」とか「共依存」と呼ばれる別のパターンを引き起こしてしまうようです。

 

その他にもたとえば虐待を受けて育った女性が成人した後に暴力的な男性ばかりと交際を繰り返し、DVの被害を繰り返すようなことがあります。

これには多様な背景がありますが、そのうちの1つに、彼女が自分の中にヨソモノ自己がいるという現実に直面しなくていいように、ヨソモノ自己の役を請け負わせることができる受け皿(コンテイナー)としての対象を探し選んでしまっているという側面がみられる事があります。

(中略)

行動主体自己が育ち、健康なメンタライジングを用いて苦痛を軽減していくということができないため、そうして投影同一視を駆使してとにかく外に吐き出してしまわないと、自分がバラバラになってしまう、死活問題なのです。

その受け皿である対象に対して、加害者と認識しながら「彼(彼女)がいないとダメだ」と嗜癖的に求める依存心がたかまり、その対象を喪失する恐怖を強く抱いていることが多いのです。

崔『メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服』星和書店

 

メンタライゼーションの機能不全は、深刻な対人関係の問題を引き起こします。

対人関係の問題は、愛着システムを活性化することで、メンタライジング能力を低下させます。

さらにメンタライゼーションの失敗は、対人関係の問題をさらに複雑にしてしまうのです。

 

「複雑性PTSD」や「気分変調症」など、「関係トラウマ(外傷的育ち)」の人の対人関係上の機能不全を修正していくためには、治療関係が新たな愛着関係となり、内的体験に対するメンタライジング能力が維持されるように支援することで達成可能なのです。

 

院長

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