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摂食障害症状のぶり返しと前に進み続けること(2020.08.03更新)

神経性過食症(過食&嘔吐)や、過食性障害(むちゃ食い)、あるいは排出性障害(自己誘発嘔吐)から回復するプロセスでは、どうしても、進歩が遅く感じられたり、逆に、治療を始める前よりも悪くなっているんじゃないか?、と感じる瞬間があるようです。

 

過食は、気持ちをなだめ、感じないですむようにしますし、嘔吐は、過食行動や気持ちをなかったことにする働きがありますよね。

回復の道のりで摂食障害症状がひどくなったように感じるときには、それまでとは違う心の動きや、行動が起きているということなのです。ですから、ジェニーさんも取り組んだように、今まで教わったことを見直し、きちんと取り組んでみることが必要になります。

 

Akoさんが『摂食障害が教えてくれること』の「昨夜の波」と「ぶり返す」の中で、1ヵ月ぶりに襲ってきた過食衝動とどのように向き合ったかを書いてくださっています。

 

摂食障害からの回復の過程では、嘔吐でなかったことにせず、拒食・絶食の疑似高揚を使わずに、過食で麻痺させている直視しなければならない現実から目を逸らさないようにすること、つまり、自分の心に正直になることが何よりも大切です。

 

そうは言っても、「症状のぶり返し(増悪や再燃)」のまっただ中では、摂食障害思考(エド)の策略にまんまとはまってしまい、抜け出すことが難しいと感じてしまいますよね。

それどころか、摂食障害症状によって症状のぶり返しさえなかったことのように感じたり、全てをコントロールできているかのように感じられたりするのです。

 

悲劇的な出来事があると、エドはそれを自分のために利用しようとします。

回復への道を歩み続けることに対して私に罪の意識を感じさせようとして、「こんなときに、いったいどうしてそんなに自分勝手なことを考えられるんだ?」と質問します。

(中略)

エドは、摂食障害から回復したいと考えること自体、身勝手だと何度でもあなたにささやきかけてくることでしょう。

実際は、回復することではなく、エドこそが身勝手さの縮図なのです。自分の欲を満たすためなら、嘘をついたり、ごまかしたり、盗みにまで手を出したりするのは、実はエドなのです。

他の人の気持ちなどは無視して、自分の目標だけを達成させようとするのは、エドなのです。他の人をみんな犠牲にしてまで、自分の欲望だけを必ず最優先にするのは、いつでもエドなのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんが「身勝手さ」と呼んでいる自己中心性や「過敏型の自己愛」については、以前『摂食障害思考と自己批判』で触れたことがあります。

この「身勝手さ」による自己批判と、回避を支える理由づけが、摂食障害思考(エド)の最大の策略なのです。

 

さらに、症状のぶり返しという悲劇的なことがあると、摂食障害思考はそれを利用し大きくなってきます。そして摂食障害思考は、何とか再発・再燃を維持しようと、さまざまな言い訳をはじめます。

そして、摂食障害思考が優位になると、自分自身を客観的に見ることができなくなるだけでなく、他者の考えや気持ちなど心理状態を理解するメンタライジング能力が極端に低下してしまいます。

 

心理療法では、人々の助けになりたいと思うのなら、まずは自分自身をきちんと管理して、自分自身の世話をできるようにすることが一番の近道だ、と学びました。

自分のことをいたわって、順調に回復していると、頭がはっきりして、実際に集中することも簡単にできます。人の話をきちんと聞くことができ、人の痛みに共感できます。私を必要としている友だちのことを、本当の意味で助けることができるのです。

つまり、自分自身を大切にしていると、他の人を支えるためのエネルギーが身体の中から湧き出てきて、思いやりをもって人と接することができるのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ある患者さんの場合、治療の途中で症状のぶり返しが起き、さまざまなことが不安になっていました。(個人が特定できないように、いくつかのケースを組み合わせて改変しています)

症状が再燃・増悪すると、どうしても症状の有無に引っ張られ、治療で一番大切な心の動きを理解することが難しくなってしまいます。

 

「(職場で)仕事ができない人と思われているんじゃないか?」「上司から注意されたらどうしよう?!」「母親としてちゃんとできていないんじゃないか」などなど。。。が頭の中で渦巻いていらっしゃるようでした。

このようなインナー・スピーチ(自己内対話)は、クローズド(閉ざされた)質問になっていて不安や自己非難を強化してしまう、とこころの健康クリニックでは注意を促していますよね。

 

この患者さんの場合は、HALT(anxiety)、つまり、不安や気がかりが症状のぶり返しのきっかけになっているようでした。

患者さんにはお子さんがいらっしゃって、幼稚園に入ったばかりだったこともあり、子どものアタッチメントへの影響も考慮して、しばらく漢方薬を服用してみてはどうか?と勧めてみました。

患者さんは即座に「はい」と返事をされたのですが、しばらく迷ったあげく「本当は薬は飲みたくない」とおっしゃいました。

 

「不安でこんなに辛くて、症状でこんなに苦しんでいるのに、薬を飲みたくないのはなぜだと思いますか?」とお聞きして、「衝動の波に乗る」の3つ目の質問の「何を避けようとしているのだろう?」を明確化することを試みました。

患者さんは、「薬を飲むと自分が本当に病気になってしまったように感じるので、飲みたくないんです」と、治療をためらい変化に対して不安に感じる「熟考期」の思考が戻ってきていました。でも患者さん自身は、そのことに気づいていません。

 

「衝動の波に乗る」の質問の4つ目「本当に必要としてるものは何だろう?」に関連して、「では、ちょっと今の○○さんの心の中で何が起きているのかを整理してみましょう。今の状態が続く場合と、今の状態を変えた場合の、それぞれの短期的・長期的なメリットとデメリットを比較してみましょうか」と表を書いて、熟考期の質問に取り組んでもらおうとしました。

すると「先生は薬を飲んだ方がいいとおっしゃってるんですか?私は飲みたくありません」と、自分自身の心の状態と向き合う取り組みも服薬もかたくなに拒否されただけでなく、他者(治療者)の真意を誤って理解し、その思いこみを元に、相手を主語にした決めつけモードに入ってしまわれ、他の可能性を考えることもできなくなっていらっしゃるようでした。

 

「わかりました。では、漢方薬のことは脇に置いて、今の状態を客観的に見るとどうみえるかを考えてみましょうか。薬を飲みたくなくて苦しんでいるお母さんをみたら、お子さんはどう感じると思いますか?」と、他者の視点から自分の状態を客観視するメンタライジング能力についてたずねてみました。

「自分に関心が無いんだな〜、お母さんは頑張っているんだな〜、そんな風に感じると思います。違いますか?よくわかりません」と、自分と他者の心の状態を理解するメンタライジング能力もかなり低下されているようでした。

 

結局、この患者さんは治療を中断されてしまいました。。。

 

このような場合も起きてくることを見越したうえで、こころの健康クリニックでは治療を開始する目安として「準備期に入っていること」、つまり症状の再燃が起きてもジェニーさんのように「前に進み続けられる心の準備ができていること」としているのです。

 

院長

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