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毒親と心の世代間伝達(2020.08.12更新)

摂食障害の娘さんをお持ちの両親、とくに母親と娘さんの関係について4月のブログでいろいろ書いてきましたが、世代間伝達に触れないわけにはいきませんね。

 

理想の母親」というバンホーテンココアのWeb CMがあります。

このCMに登場するお母さん達のように、自分の母親はとても厳しくいつも子どもを叱ってばかりいて自分は辛い思いをしてきたから、自分が大人になったら子どもを叱らない母親になろう、と心に決めていたお母さん方も多いと思います。

 

でも、つい感情的に子どもを叱りつけたり手を挙げてしまったり、「そんなことを言うなら、もう知りませんっ!」と、子どもを突き放すような対応をしたり。。。

母親のようにはならないようにしようと思っていた自分が、気がつくと自分の母親と同じような接し方をしている……そのような経験をしているお母さん方も多いのではないでしょうか。

 

母子臨床と世代間伝達』の著者である渡辺先生は、「乳幼児期に触れた親の不幸な世界を、自分が親になってわが子に伝達するというのが心の世代間伝達である。乳幼児虐待、未婚妊娠などが生じる背景に、心の世代間伝達のメカニズムが作用していることが研究されている」と述べられています。

母子臨床と世代間伝達』で母子臨床の重要概念として提唱された「世代間伝達」は、トラウマの文脈では「リエナクトメント[再演]」とも言われます。

 

リエナクトメントは、私たちが引き続き議論するトラウマの世代間伝達において顕著であるのに加えて、再犠牲者化という、文献的裏づけのあるパターンにおいても、顕著に現れる。

(中略)

PTSDの診断基準は、トラウマを“再体験すること”を含んでいるが、それを“再演すること”を含んではいない。さらに、幼少期の愛着トラウマを現在の諸関係の中で再演することは、見過ごされてはならないことである。

なぜなら、‘再体験’の症状はトラウマの想起手がかりによって呼び起こされるのであり、“リエナクトメント”はそのような想起手がかりの主要な発生源だからである。

アレン、フォナギー、ベイトマン『メンタライジングの理論と臨床』北大路書房

 

リナクトメント[再演]によって、アタッチメント(愛着)に関連するトラウマを思い出し再体験が起きることは理解できますよね。

では、親のようにはなりたくないと心に決めていても、リエナクトメント[再演]が起きてしまうメカニズムはどのように考えられているのでしょうか?

 

Bruschweiler-Stern[ブルシュヴァイラー・スターン]が詳述したように、またダーリーンの経験が例証しているように、母親と赤ん坊との関係は、誕生のはるか以前から始まっている。

身体的妊娠とともに、「精神的妊娠」とも言うべきものが存在するのであり、その期間には、赤ん坊のことが活発にメンタライズされるし、母親は母親としての自分自身をメンタライズする。

子どもの誕生とともに、その想像上の赤ん坊と現実の赤ん坊との間に相互作用が生じ、母親は情動的負荷のかかる一連の課題に直面する。

その課題とは、「その赤ん坊を生かし続けること、その赤ん坊の状態を調整すること、その乳児の欲求に応えること、新たな関係を形成することである。これらの課題のどれか一つでも実行されない場合には、母親の不安の水準が急速に高まる」。

アレン、フォナギー、ベイトマン『メンタライジングの理論と臨床』北大路書房

 

想像上の赤ん坊と現実の赤ん坊との間との相互作用は「誕生のはるか以前から始まり」、その関係性の中で「新たな関係を形成すること」ができないと、母親の不安の水準が急速に高まり、それがリエナクトメント[再演]につながると説明されています。

 

よく考えてみると、赤ちゃんが生まれる前に想像していた理想の赤ん坊と、現実の赤ちゃんはまったくの別人ですよね。

頭の中の想像(理想の赤ん坊)と現実の赤ちゃんが等価ではないことに気づき、頭の中の理想の赤ちゃんを脇において、現実の赤ちゃんと向き合い、共鳴・内省・照らし返しによって赤ちゃんの心理状態の調節と要求に答えるという、現実的な新たな関係を作っていくことがリエナクトメント[再演]を防ぐポイントのようです。

 

そうとわかっていても、言うは易く行うは難しですよね。

自分が体験した苦痛や辛さを子どもには体験させたくないという思いが、逆に、リエナクトメント[再演]を引き起こしてしまうようです。

 

Silverman & Lieberman[シルバーマン&リーバーマン]が詳述していることであるが、ローラは、自分が暴力的な男達の手にかかって体験させられたものからイザベル[娘]を守りたいという意識的意図とは裏腹に、無意識的にはイザベル[娘]に恐怖を与え続けた。

つまり、「ローラは、自己防衛的になることを教えようとして、イザベル[娘]を苦痛で恐ろしい場面にさらし、その結果、彼女を守ろうとしていながら、繰り返し彼女にトラウマを与え続けたのである」。

アレン、フォナギー、ベイトマン『メンタライジングの理論と臨床』北大路書房

 

毒親——毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ——』の著者である中野先生は、《“毒親”の捉え方と解決の糸口》というインタビューで、「自分の体験した親子関係を、自分の子どもとの関係に持ち込んでいることがあります。その際に、それが自分の親の優しく豊かな心の世界であればよいのですが、現実には必ずしもそうとばかりは言えません」と、「親としてどのように子どもを育てるかということについて、あらためて教えられたり、習ったりしているわけではない」と述べていらっしゃることから、子育てについて教わらなかったこと(役割モデルの不在)も、リエナクトメント[再演]の一つの要因ではないか、と考えられますよね。

 

ダーリーンと夫および息子との関係は、悲しいことに彼女の元家族における関係パターンの直接的反復を反映したものであった。

ダーリーン自信が後に認めたことであるが、彼女は母親であるための「役割モデル」を持っていなかった。そして、母親としての不適格さに関する彼女の恐れと恥のせいで、彼女が自分自身の発達的難題に正面から向き合い、それに積極的に対処することが妨げられてしまったのである。

それだから、彼女は、そうと気づかずに、そして苦痛な思いをしながら、母親によるネグレクトの既往を再演してしまったのであり、それと併行して、両親の結婚生活の諸側面を夫との関係で再体験し、再演してしまったのである。

アレン、フォナギー、ベイトマン『メンタライジングの理論と臨床』北大路書房

 

関係パターンの反復は、母親としての「役割モデル」を持っていなかったこと、恐れと恥のせいで母親である自分自身の発達的難題に正面から向き合い対処することができなかったことが、リエナクトメント[再演]の要因であると説明されています。

 

ではリエナクトメント[再演]に巻き込まれている状態から抜け出すには、どうしたらよいのでしょうか?

メンタライジングの理論と臨床』では、以下のように説明されています。

 

愛着トラウマの治療の主要な焦点は、愛着の安定性を増大させる方向に現在の諸関係を修正することにあり、それは、メンタライジングを促進することによって行われるのである。

確かに、Fonagy & Target[フォナギー&ターゲット]が述べるように、過去の外傷的関わり合いの記憶は、現在の愛着関係にみられる問題含みのパターンを明らかにする点では有益でありうる。

それでも、依然として重きをおくべき点は、他者との関係だけでなく自分自身との関係を改善することを通して、現在において効果的な機能を高めることである。

アレン、フォナギー、ベイトマン『メンタライジングの理論と臨床』北大路書房

 

自分と他者の心の状態を理解するメンタライジング能力を高め、自分自身との関係と他者との関係を改善するために、行動の仕方を変えて現在の関係を修正することが、リエナクトメント[再演]から抜け出す方法であると説明されていますよね。

こころの健康クリニック芝大門で行っている対人関係療法では、上記のメンタライゼーションを併用することによって治療しているのです。

 

院長

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