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院長ブログ・聴心記

摂食障害思考と自分の本当の考えを区別する(2019.09.30更新)

65650850_2295796080506953_4140500446466801664_n摂食障害、とく過食や過食嘔吐から回復するために必要なことは、正直に自分の気持ちに気づき、それらを受け入れ、自己内対話や他者とのやりとりに非暴力コミュニケーションを使えるようになることです。 

 

摂食障害に頼りきりであった情動調節の役割を、自分自身との関係あるいは対人関係を介して行うことができるようになることを『8つの秘訣』では、『「自分の中の健康な部分」「信用できる人」「理解してくれる人」に助けを求められるようになる』と表現されています。

 

しかし、摂食障害の人たちは「自分の気持ち」や「自分の中の健康な部分」に気づくことが難しく、アレキシサイミアと呼ばれます。

 

その文脈で考えれば、アレキシサイミアでさえも生き延びるための戦略なのかもしれない。

つまり、幼少時からの持続的な苦痛のなかで体得した「苦痛否認の機制」——「大丈夫、俺は痛くない、傷ついてない」と、自分に嘘を繰り返すこと——を通じて確立した「心の鎧」、それを、われわれはアレキシサイミアと名づけているのかもしれない。

松本「自己治癒としてのアディクション」in 『やさしいみんなのアディクション』金剛出版

 

ジェニーさんは、自分は摂食障害なのかどうかと、いろんな人に答を求めていました。
しかしジェニーさんは、「摂食障害だよ」と言われても納得できず、逆に、「摂食障害ではないよ」と言われても釈然としませんでした。

このようなことが起きるのは、自分の期待が明確でない、つまり「自分がどのような答を求めているのか?」がわからないからなのです。

 

回復への道を歩み始めたばかりの頃、私はエドとなんかつながっていないと思っていました。

私の毎日の暮らしがあまりうまくいっていないことにはもちろん気づいていましたし、食べることとなると自分の行動が奇妙だということもわかっていました。

でも、深刻な問題があるとはとても思えませんでした。 

(中略)

摂食障害治療の専門家に会うたびに、「私は本当に摂食障害なんでしょうか?」と尋ねていました。
どの先生も口を揃えて、「そうだと思うよ」と言いました。

それでも、確信できなかったのです。
だって、食事に関連した私の行動は、どれも私にとってはごく普通のことだったのです。私は、もう何年もの間、ずっとそうしてきていたのでした。

それに、摂食障害と言われるほど痩せているとも思っていませんでした。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

一般には「否認」と呼ばれる「自分の状態をわからないこと(アレキシサイミア)」は、心を苦痛から守る「心の鎧」であると同時に、その鎧がさらなる心の苦痛を引き起こすものでもあるのです。

ジェニーさんは、「否認」を「エドのつく嘘」と表現されていますよね。

 

エドは、私の一番身近な人たちみんなに嘘をつくように言いました。

そのとき、セラピーで、私自身の本当の望みや思いと、エドが価値を置くものとを比べてみるというのを学んだことを思い出しました。
すると、私とエドは、それぞれまったく違った価値観を持っていることに気がつきました。

エドによれば、私の友だちや家族に嘘をつくことは何の問題もないことなのです。それに対して私は、そんな誠実じゃない行動をすることをとても嫌っていました。

もちろんこれまで、エドの言う通りに、彼の言うことを信じて、誰彼かまわず嘘をついていた時期もあります。
でも今では、嘘をつくのは私自身の信念に反するとわかるようになってきました。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

過食症や過食性障害の人や、性格と間違えられやすい気分変調症の人に共通する特徴は、気持ち(情動)を感じること、気持ちを言葉で表現することが苦手で、さらに、気持ちと考えを区別することが難しく、考えを現実だと捉えてしまうことです。

過食症や気分変調症の人たちは、自分を責める考えを使って心の中でうごめく気持ちを解消しようとします。 

しかし思考による対処がうまくいかないと、気分変調症の人のように、自分はダメだとさらに自分を責めてしまい、打ちひしがれてしまいます。

過食症や過食性障害の人では、その心の苦痛を過食や嘔吐という行動で解消しようとしてしまうのです。

 

彼女たちの特徴は、内的な葛藤や不安を感情として言葉で細やかに表現できないことです。「イライラ」「落ち込む」「つらい」「さびしい」といった表現はできても、さらにその思いを細かく語ったり、出来事の変遷とつないで叙事的かつ叙情的に語ることが困難です。
また、いきいきとした空想や想像が話に含められません。

たとえば、『どんなことから過食になったようですか?』という問いかけにも、ほとんど応えられません。

(中略)

過食するという行為は、心の苦痛を具体的に消すとともに、こころのからっぽ(・・・・)を食物という具体物で埋めようとしていると感じられもします。

松木『摂食障害というこころ ――創られた悲劇/築かれた閉塞』新曜社

 

心の鎧によって感じにくくしていた心(ハート型のバスケット)の空虚感を、食べ物で満たそうと囁くのがエドの嘘の特徴です。

自分の心が感じられないのですから、エドの囁きは、あたかも自分が本当に望んでいることのように錯覚してしまうのです。

 

私が初めて、エドの信念と自分のものを区別して考えるということを学んだとき、私の今までの行動が、どれだけ頻繁にエドのやり方に影響されていたのかがわかってびっくりしました。

エドがそうしろと言えば、私は、平気で嘘をつき、ごまかし、盗みさえしてしまっていたのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

エドのやり方と自分の本当の気持ちが区別できていないのですから、このような状態で他者とコミュニケーションを取ろうとすると、エドは自分に対してしているのと同じように、他者を巻き込んでしまいます。

 

ですから、まず、自分の本当の気持ちに気づく練習をしていくのですが、アレキシサイミアという心の鎧に阻まれて、自分の心を感じてみることはなかなか進みません。

 

従来の対人関係療法の弱点である「自分の気持ちをよく振り返り言葉にしてみる」「自分のまわりの状況に変化を起こすように試みる」に対して、「自分のこころの状態」「自分の取る言動と心の状態との関連」をメンタライズする技法を加味した対人関係療法のやり方は、過食・過食嘔吐からの回復を早めるだけでなく、気分変調症や不安障害にも適応可能です。

 

そのため『8つの秘訣』『8つの秘訣ワークブック』を使った対人関係療法による治療では、ジェニーさんと同じように、まずエド(病気)の考え方と自分自身の信念を区別することからとり組んでいくのです。

この『8つの秘訣』を併用した対人関係療法による過食や過食嘔吐からの回復は、対人関係療法単独での治療と較べても格段に早く、20回の短期治療の間に、「7. 摂食障害行動はやめられるけど、摂食障害思考が頭から離れない」から「8. 行動からも思考からも解放されている時が多いが、常にといわけではない」に到達することができるので、こころの健康クリニックでは皆さんに勧めているのですよ。

 

院長

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