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過食症からの回復と感情と一緒にいること

[2020.04.20]

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新型コロナウイルス感染症の広がりの影響で、自宅で過ごすことが増えた摂食障害の当事者の方向けに日本摂食障害協会のHPでは、生活リズムを保ち、時間割を作って過ごすこと、人とのつながりを保つことが大事で、2~3か月かけてじっくりゆっくり取り組む大きな「プロジェクト」を考えてみることもお勧めされています。

 

ヒルデ・ブルックが神経性やせ症(拒食症)の治療について、「やせ症の精神療法の目的は、患者に内部から起こってくる衝動、感情、欲求に気づかせることによって、患者が自立心や自分で決定する力を獲得するよう援助することである」と述べています。

このことは、過食や過食嘔吐などの摂食障害症状から回復するためも必要になります。

 

しかしながら、過食や過食嘔吐などの摂食障害症状を有する人は、感情を感じることや、衝動を抱えておくことがすごく苦手ですよね。

 

過食嘔吐を行う人が食べたものを即座にすべて排出する衝動に駆り立てられるように、摂食障害の当事者は総じてこころに未解決の不安や不確定要素を抱えておくこと、じっくりと向き合うことが苦手である。 

崔炯仁. 摂食障害とメンタライゼーション——外傷的育ちの生きづらさに光を届ける. こころの科学209: 58-63, 2020

 

ジェニーさんは、すべてやり尽くした、もう取り組むべき問題なんて残っていない、と感じた経験があるようですね。

 

ところで、回復しすぎるということはあるのでしょうか。
もうこれ以上心理面接を受けても効果がない、なんていう時は来るのでしょうか。
グループセラピーに参加するには「健康すぎる」という状態はあるのでしょうか。

私は、どれもありだと思っていました。
(中略)
そう思っていたのですが、それは間違いだったと、今日はっきりと思い知らされました。

ほんの数時間前、診察に向かうために運転していたときには、「今日はトムに話すネタが何もないわ。食事はきちんと食べているし、気分もとってもいいし」と考えていました。

ところが、話し始めてわりとすぐに、トムがたった一つ質問をしたら、それで私の感情がかき乱されてしまったのです。
 (中略)
トムは大丈夫だよと言ってくれました。

「たくさん取り組むことがあるからといって、後戻りしていることにはならないよ。これまで進んできた分は、全部きちんと身についている。やるべきことがほかにもたくさんあると気づいただけだよ。忘れちゃいけない。みんな、いつでも先を目指して進み続けているんだ」と。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんのこの状態は、『自尊心の裏側にある過大評価が摂食障害を維持している』で紹介した「自分を高く見積もりすぎている」状態のようです。

ジェニーさんの自尊心のレベルは、着実かつ手に負えないほど高くなっていたようですね。

 

ある患者さんは、『8つの秘訣』の「練習:書き出してみよう」を全部やってみたけど、何も変わらなかったとおっしゃっていました。 

この患者さんとジェニーさんに共通して起きていたことは、感情を伴わない認知的分析に陥っていたようです。

 

「練習:書き出してみよう」を全部やってみた患者さんは、アレキシサイミア(感情の自覚・認知、言語化表出が苦手)とアレキソミア(身体感覚への気づき困難)があり、思考と感情や情動との区別ができていませんでした。

そのため、クイズを解くように『8つの秘訣』の課題をやってみたけれども(専門用語では知性化とか合理化といいます)感情体験に触れられておらず、自分の都合のいい認識になってしまい、行動変容につながらなかったようです。

 

ジェニーさんは臨床心理士のトムさんの一言で感情が動いていますよね。

しかし前述の患者さんは、出来事をお聞きすると心理学の専門用語を駆使されるにもかかわらず、現実体験の表現が抽象的で具体性を欠き、また、感情が表情や態度で表出されず、深刻さを欠いたような印象がありました。

ようやく出来事の一つの場面を聞き出し、その時の感情を聞いても「特に何も感じなかった」と感情に触れることを避けていらっしゃるようでした。

 

たとえば、その患者さんが話してくれた1つが、上司の機嫌が悪く、上から目線で攻撃的に怒鳴られて理不尽さを感じたという出来事でした。

上司についての心理状態についての読み取りは優れていましたが、怒鳴られた瞬間の自分の感情については、「そういう人間性を持った上司だから、仕方がないので受け流しました」と自分の心理状態についての省察が困難なようでした。

 

「多くの人はそのような場合にはこのように感じるみたいですよ」とノーマライゼーションを試みても、「それも解釈の一つですよね。私は違う解釈をしただけです」と返されました。 

そのような会話を続けていると、突然、「出来事を話すことで、なぜ摂食障害が治るんですか?」「本にはスキルを身につけると書いてあります。どうしたら治るのか、そのスキルを教えてほしいんです」と反論されました。

出来事を、解釈ではなく具体的な事象として聞かれることや、体験の中核にある感情に触れられることが本当に嫌だったようです。

 

人生においてうまくいっていないことや、つらいことについて、また何かにどっぷりとはまり込んで身動きがとれない状態がどんな気分なのかということについては、たいていは簡単に説明できるものです。

しかし、代わりに自分がどうしたいのかについては、まったく説明できない場合がめずらしくありません。

自分が何を求めているのか、いくらかでも見極めて伝えられるようになるのは、とても重要なことです。 

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

摂食障害の治療で感情に焦点を当てるのには、理由があります。

 

感情(あるいは情動)を観察し、イメージや言葉と結びつけ、意味づけることで、行動することにつながり、感情を調整する力や行動主体の感覚を獲得できるようになることが目標なのです。

これがブルックのいう「内部から起こってくる衝動、感情、欲求に気づかせることによって、患者が自立心や自分で決定する力を獲得する」ということなのです。

 

そうなると、身体や心の中でうごめくわけのわからない感覚をなだめたり麻痺させて感じないようにしたり、無かったことにするために、過食や過食嘔吐などの摂食障害症状を使うことなく、感情(情動)に触れつつ一緒にいることができ、感情(情動)の指し示す方向を見極め、行動を変化させることができるようになるのですよ。

 

日本摂食障害協会のHPでは、コロナ対策、外出自粛が続く中での過ごし方のアイディアを募集されていますので、皆さんが工夫されていることをシェアしてみてくださいね。 

院長

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