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身体にあらわれる心のストレス

[2023.05.08]

1982年に起きた日航機墜落事故で、事故を起こした機長が「うつ状態または心身症」と診断されていたことから、「心身症」が異常な精神状態を引き起こすかのような誤解が生まれてしまったことがありました。日本航空350便墜落事故-Wikipedia

 

一般の人にはそれほど馴染みがなかった「心身症」という言葉は、『身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう』と日本心身医学会で定義されています。

つまり、症状の発現や悪化に心理的要因や対人関係の問題など、ストレス要因が大きく関わっている身体疾患を「心身症」と呼ばれるということです。

 

心身症の病前性格

「心身症」の背景には、空想が貧弱で、葛藤の言語化ができず、情動の体験と表現が制限され、事実を詳細に述べるが感情を伴わない、コミュニケーション困難、などの特徴があるとされます。

この特徴は「アレキシサイミア(失感情症、感情言語化症)」と呼ばれ、メンタライジング・アプローチの言い方では、もっとも原始的な心のありようである「目的論的モード」と呼び、心身医学的には発達の未分化による一過性の心身反応と考えられています。

 

日本で初めて「心療内科」を開設された池見酉次郎先生は、心身症の患者はアレキシサイミア傾向だけでなく、身体のホメオスターシスの維持に必要な空腹感や疲労感など、身体感覚への気づきが鈍い傾向があるとして、これを「失体感症(アレキシソミア)」と呼ばれました。

 

さらに心身症の患者では、社会適応という面からは、感情調節障害」や「対人関係の困難」あるいは「過剰適応」の傾向がみられるとされています。

 

「アレキシサイミア」「失体感症(アレキシソミア)」「感情調節障害」「対人関係の困難」「過剰適応」などの特徴は、発達障害特性と密接な関係がありそうです。

 

心身症とは

【心身医学の新しい診療指針】(日本心身医学会教育研修委員会. 心身医 31(7): 537-573. 1991)には、「心身医学的な配慮が特に必要な疾患(いわゆる心身症とその周辺疾患)」として、ほぼすべての慢性疾患があげられています。

これらの疾患すべてが心身症というわけではありませんが、代表的な疾患をピックアップしてみると、以下のようになります。

いずれも症状が表れている器官(臓器)を扱う身体科での治療が主となります。

 

呼吸器系:気管支喘息(咳喘息を含む)、過換気症候群**、慢性閉塞性肺疾患、など

循環器系:本態性高血圧症、起立性調節障害、冠動脈疾患、不整脈など

消化器系:胃・十二指腸潰瘍、急性・慢性胃炎、逆流性食道炎、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、呑気症(空気嚥下症)、など

内分泌・代謝系:神経性やせ症*、神経性過食症**、Pseudo-Bartter症候群、甲状腺機能亢進症、心因性多飲症、糖尿病、反応性低血糖、など

神経・筋肉系:筋緊張性頭痛、片頭痛、疼痛性障害、痙性斜頸、自律神経失調症、チック、など

小児科領域:起立性調節障害、夜尿症、夜驚症、抜毛、周期性嘔吐症、心因性発熱、など

皮膚科領域:アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、円形脱毛症、血管神経性浮腫、など

外科領域:腹部手術後愁訴(いわゆる腸管癒着症、ダンピング症候群)など

整形外科領域:肩こり、頸肩腕症候群、全身性筋痛症、など

泌尿・生殖器系:心因性頻尿(過活動膀胱)、心因性インポテンス、など

産婦人科領域:更年期障害、月経前症候群*、月経困難症、外陰部異常感症、など

眼科領域:本態性眼瞼けいれん、眼精疲労、など

耳鼻咽喉科領域:耳鳴り、眩暈症(メニエル症候群)、心因性難聴、咽喉頭異常感症、心因性失声、など

歯科・口腔外科領域:顎関節症、特発性舌痛症、口腔異常感症、など

 

【心身医学の新しい診療指針】では上記の「心身症」の定義に続いて、『ただし、神経症やうつ病など、他の精神疾患に伴う身体症状は除外する』とされています。

つまり、器質的・機能的異常を伴う身体疾患(心身症)は心療内科で治療し、精神疾患は精神科で扱う、ということです。

 

心療内科と精神科の違い

心身症の場合、身体症状が前景にでていることから、一般の身体疾患にもまして、徹底した検査が必要であると言われています。

症状が一般的な治療に反応しない場合や、再発・再燃を繰り返して慢性化している場合、あるいは、心理社会的ストレス要因に反応して症状が起きやすい場合など、心身症が疑われる場合には心療内科的な治療が行われます。

 

上記の一覧でをつけた、過換気症候群、摂食障害、自律神経失調症、月経前症候群などが、本来、心療内科での治療対象の疾患と言われます。

 

過換気症候群はパニック障害の一部分症の場合もあり、逆にパニック障害の半数に過呼吸がみられるとされており、心療内科あるいは精神科での治療が必要になることがあります。

 

摂食障害のうち、神経性やせ症は、小児科、内科、心療内科での身体的治療が行われます。単科精神科で診ることはほとんどありません。

こころの健康クリニック芝大門で過食症の対人関係療法による治療を行っているように、神経性過食症は心療内科以外では精神科でも精神療法を行います。

 

自律神経失調症は不定愁訴症候群とも呼ばれ、更年期障害ともオーバーラップします。

眩暈感、動悸、息切れ、頭重、下痢、痺れ、痛みなど、さまざまな身体症状を呈しますが、明らかな器質的・機能的異常が認められないことが多く、そのような場合は身体表現性障害と診断されることもあり、精神科ではなく心療内科での治療が必要になります。

 

月経前症候群は月経前1週間の黄体期後期にさまざまな自律神経症状と抑うつや不安などの精神症状を呈する病態で、婦人科で低用量ピルを処方されていることが多いのですが、それでも精神症状が改善しない時に、精神科を受診されることが多いようです。

 

1996年から「心療内科」の標榜が認められましたが、心身医学を修められた内科の先生が心療内科を標榜されている場合(本来の心療内科)と、かかりやすい精神科という意味での心療内科とが混淆しているのが現状です。

 

ちなみに、こころの健康クリニック芝大門も、精神科・心療内科を標榜しています。

院長である私は精神科に転向する前は消化器内科が専門で、神経疾患、内分泌・代謝疾患などの治療も行い、また、外科や産婦人科、皮膚科からのコンサルテーションも受けていました。また、当時は心身医学会、心療内科学会にも入会していました。

 

上記の疾患の中で、こころの健康クリニック芝大門で治療を行っているのは、神経性過食症と過換気症候群の一部(パニック障害)ということになります。

こころの健康クリニック芝大門は、対人関係療法などの精神療法(精神科専門療法)が可能で、内科や心療内科での身体的な検査や治療の必要性について判断することができる、さらに、過食症(過食嘔吐)や過食性障害(むちゃ食い症)の治療を行っている、という意味で、精神科・心療内科を標榜しているのです。

 

こころの健康クリニック芝大門では、血液検査やレントゲン検査、心電図や超音波検査、内視鏡検査や脳波検査など身体の検査ができませんし、注射薬や点滴は常備していないし、また、心身症の治療で行われる自律訓練法などは行っていないため。ストレス反応に伴う身体症状(吐き気や下痢、動悸や過呼吸など)の治療は、お受けできないのです。

 

治療を申し込まれる前に、よく確認してみてくださいね。

 

院長

 

【追記】

精神科病院に心療内科医として勤務していたときには、神科通院中の患者さんでも身体愁訴がある場合は私の外来に回され、血液検査はもとより、レントゲン検査、CT検査、上部消化管内視鏡検査、超音波検査などさまざまな検査を行い、器質的な異常が見出せなければいわゆる心身症として治療をしていました。

 

ところが最近では、たとえば過敏性腸症候群とか胃食道逆流症のように器質的な病気がなければ機能障害があっても精神科での治療と考えられる先生が多いようです。場合によっては体重が増えてきた、ストレスがあるからだ!と精神科を受診されることもあります。体重が増えるのは、単純性肥満だけでなく糖尿病予備軍や高血圧、高脂血症などの生活習慣病や、クッシング症候群、甲状腺機能低下症、多嚢胞生卵巣症候群などさまざまな内科疾患が隠れている場合が多いのです。

 

【身体症状症および関連症群】というカテゴリーがあります。

【身体症状症】の症状には、疼痛症状(頭痛,腰痛,背部痛,関節痛等)、全身症状(疲労・倦怠感等)、消化器症状(嘔気,腹部膨満感,腹痛,下痢等)、循環器症状(胸痛,動悸等),呼吸器症状(息苦しさ等)、神経症状(めまい,しびれ,ほてり等)、などの症状が挙げられています。

 

DSM-5での診断基準は以下のようなものであり、基準Bで示された内容は『心気症』と呼ばれている強迫観念(強迫反芻)の一部とオーバーラップしています。

 

基準A:1つまたはそれ以上の苦痛を伴う、または日常生活に意味のある混乱を引き起こす身体症状。

基準B:身体症状,またはそれに伴う健康への懸念に関連した過度な思考、感情。または行動で、以下のうち少なくとも1つによって顕在化する。

 (1)  自分の症状の深刻さについての不釣り合いかつ持続する思考。

 (2)  健康または症状についての持続する強い不安。

 (3)  これらの症状または健康への懸念に費やされる過度の時間と労力。

基準C:身体症状はどれひとつとして持続的に存在していないかもしれないが、症状のある状態は持続している(典型的には6カ月以上)。

 

また、身体症状症を診断する客観的な指標はなく、パーソナリティ障害や知的障害を含む、他の精神疾患の合併の可能性を念頭に置いて診断を行う必要があるとされています。

 

治療の導入にあたって、まず、睡眠障害、乱れた食生活、過重労働、薬剤、喫煙、飲酒等の身体症状を引き起こす可能性のある要因の除去や軽減を行う。全ての薬物が症状を悪化させる可能性や副作用を引き起こす可能性があるため、初診時に患者が服用している処方薬、市販薬、サプリメント、カフェインの全てをチェックすることが重要である。

吉原, 須藤. 身体症状症. 日本内科学会雑: 107(8), 1558-1565. 2018

 

上記のように《身体に現れる心のストレス》は、生活習慣の見直しとともに、内科あるいは心療内科で扱っていく疾患なのです。

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