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解離構造から見たトラウマ治療と摂食障害治療

[2023.12.04]

「発達性トラウマ障害」や「複雑性PTSD」など、トラウマ関連障害の治療に関して、[ベンゾジアゼピン系抗不安薬]は常用量依存の問題に加えて、脱抑制に伴う気分の不安定と症状悪化を引き起こすのでガイドラインでは禁忌とされています。

また[抗うつ薬]も気分のアップダウンを大きくするので禁忌とされています。(『発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療』参照)

 

さらに[(傾聴型の受容的な)カウンセリング]も、「発達性トラウマ障害」や「複雑性PTSD」には禁忌と言われています。

その理由は、「傾聴、時間をかけた対応、枠が示されない対応、具体的な内容に欠ける抽象的なやりとり、このすべてが悪化を引き起こす。(中略)フラッシュバックの蓋が開いてしまい収集がつかなくなるからである」と説明されています(杉山『テキストブックTSプロトコール』日本評論社)

 

《「カウンセリングを受けて症状が悪化した。」「フラッシュバックがひどくなった。」これは、トラウマの影響を受けた内面の防衛機能がインナーチャイルド(内なる子ども)を護ろうとしている証拠なのです》と、『内的家族システム療法スキルトレーニングマニュアル』の案内に書いてありました。

 

防衛機制としての解離

心の防衛機制としての解離は、「トラウマ体験に関連する感情・感覚など」を閉じ込める箱として機能します。

 

この箱の蓋が時々開いて中身が出てくるフラッシュバックや、解離構造(箱)そのものの存在がPTSDや複雑性PTSDの症状を引き起こしている、と『解離とトラウマ症状(PTSDや複雑性PTSD)』で説明しました。

解離とトラウマ症状(PTSDや複雑性PTSD)

「複雑性PTSD」「発達性トラウマ障害」などの慢性のトラウマ関連障害の治療は、「強い恐怖、身体異常感覚、激しい情動の高まりを伴い、トラウマのまっただ中にいるように感じる」「解離性フラッシュバック(再体験症状)」の治療が中心になるのです。

 

構造的解離 慢性外傷の理解と治療』の中でヴァン・デア・ハートは、「解離は、多くの症状の一つとしてしか見なされず、症状の複合体の基礎をなす構造としては理解されていない」と述べています。

これは、トラウマや解離性障害の人格の構造について述べた内容ですが、解離を基盤としてPTSDや複雑性PTSDの症状の成立を考えると、すごく理解しやすいのです。

 

正常の解離は病気を引き起こすのか?

正常人にもみられる解離と病的な解離に関連して、長い間、「健康な部分」と「摂食障害の部分(エド)」との関係について考え続けていました。

 

「ダイエットしたい自分」と「思いっきりケーキを食べたい自分」の関係、つまり心の中に2つの部分があって戦っている葛藤は、健康な解離なのか?

 

あるいは、「健康な部分」がANP(あたかも正常に見える人格パート)で、「摂食障害の部分(エド)」や「べきモンスター」「完璧主義女史」などがEP(情動的な人格パーツ)で、第二次構造的解離が形成されているのか?(『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』参照)

 

「自分(生活担当人格)」と「摂食障害部分:ED(エド)」との関係は、対人関係療法でいう「役割期待の不一致(不和)」であり、現実の対人関係は「親密さの回避と対人関係の不足(対人関係の欠如)」であると『摂食障害(エド)との対人関係)』で説明したことがあります。

摂食障害(エド)との対人関係

 

こころの健康クリニック芝大門では、過食症(過食嘔吐)や過食性障害(むちゃ食い)の治療に対して、①自分との関係を改善する②行動の仕方を変えていく③他人との関係を改善する、というホロヴィッツの「自己-関係観察」を取り入れた対人関係療法を行っています。

 

①心の状態についての気づき、②感情・考え・情動のコントロールについての気づき、を使って、摂食障害の部分(エド)」や「べきモンスター」「完璧主義女史」などとの「役割期待の不一致(不和)」を解消していくこと、つまり、戦いを終わらせ和解しこころの平和をもたらすプロセスとして、『摂食障害から回復するための8つの秘訣』の秘訣1で「エドとの対話」を、そして、セルフモニタリングを使って秘訣6の「衝動の波に乗る」取り組みを進めています。

 

自分の中のパーツを変容させる

以前、解離症状を伴う「発達性トラウマ障害」の患者さんを、「内的家族システム療法」と「パーツワーク」を専門とする心理師さんとともに治療したことがあります。

私はUSPTベーシックレベルのトレーニングは終了していましたし、当時は『自我状態療法』も読んでいましたので、診察室で患者さんが話される葛藤の残滓に対してリフレーミング(捉え直し)の技法でサポートし、この患者さんは4ヶ月ほどで寛解に至り終結となったのでした。

 

その時に感じていたのは、USPTや自我状態療法でいうパーツは似ているのですが、内的家族システム療法ではパーツが担っている心的機能をパーツと呼んでいるのかな?、同じ言葉でも指し示すものがずいぶん違うみたいだなぁ、ということでした。

 

「内的家族システム療法」のパーツに対する向き合い方が役に立ちそうだなと思い、手にした『内的家族システム療法スキルトレーニングマニュアル』の訳者あとがきで、以下のようなフレーズを目にしたのです。

 

誰にでもある内的な葛藤をパーツとして捉えて取り組み、自分を苦しめてきた極端な信念、感情、感覚、そして衝動といったものにやさしさを与え、内側の批判(パーツ)をサポート的なものに変容させることを実践してきたのです。そして行き詰りの中にいた人が不全感を和らげることで、本人のSelfが癒しの主体になれるという経験を提供してきました。

個人がこのように“パーツ”の負荷を降ろしていくと、Selfという自分の一番尊いものにアクセスができるようになります。そうして、揺ぎ無く、自信があって、そして思いやりをもってSelfのリードのもと、生きられるようになるのです。

自分との関係性が良くなると他者との関係性にも自信と明晰さと創造性が生まれていきます。ですから、カップルセラピーや家族療法、グループ療法などにもこの技法は適用されています。

私たちは、関係性において、自分の負荷を負った防衛パーツが相手の幼い傷ついた追放者パーツを攻撃し、そして相手の防衛パーツを発動させ、自分の幼い追放者パーツが傷つけられる、という悪循環を繰り返しているのです。ですから本書にあるように、まずは自分の防衛パーツについて知り、その負荷を降ろしていくことが重要なのです。

アンダーソン、他『内的家族システム療法スキルトレーニングマニュアル』岩崎学術出版社(下線は院長)

 

内側の批判(パーツ)をサポート的なものに変容させること」。

このやり方をこころの健康クリニック芝大門で行っている対人関係療法に取り入れることで、摂食障害の部分(エド)との和解が進みやすくなるかもしれない、と考え、現在いろいろと試行錯誤中なのです。

 

院長

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