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生きづらさと反応性抑うつ状態(適応障害)

[2022.04.25]

精神疾患は、大きく3つに分けて考えられています。

 

まず、①「身体因性精神疾患」

この中には脳腫瘍やてんかんに伴う「器質的精神病」、バセドウ病や橋本病、甲状腺機能低下症などの甲状腺疾患に伴う精神症状などがよく知られています。

 

他にも、嘔吐を伴う摂食障害や選択摂食(いわゆる偏食)、チューイングなどによる栄養の偏り・脳の低栄養状態、あるいは、過食嘔吐あるいは排出性障害に伴う自己誘発嘔吐や熱中症でみられる電解質異常、副腎機能不全(俗にいう副腎疲労症候群)など、身体疾患にともなう「症状精神病」、違法薬物による「薬物性精神病」などが「身体因性精神疾患」に含まれます。

 

「身体因性精神疾患」がある場合、②「内因性精神疾患」に含まれる統合失調症の症状やうつ病の症状、③「心因性精神疾患」に含まれるPTSD症状などが現れることもあります。

新型コロナ時代の不安や抑うつ〜(1)奇妙な神経衰弱』で解説した、在宅勤務やテレワークによる閉じこもり生活によって身体機能の低下が引き起こされ、「孤立感や無力感、絶望感」とあいまって「フレイル」に似た認知機能の低下を伴う「神経衰弱(精神疲労)」が引き起こされていたケースも「身体因性精神疾患」に相当しますよね。

 

スマホやインターネット、ゲームやSNSにのめり込み、昼夜逆転した生活をしている人が、気分が晴れない、やる気が起きない、などの訴えで診療を申し込まれることがあります。

生活リズム、あるいは睡眠覚醒リズムの撹乱とともに、ドーパミンが依存症的に反応していることが気分低迷や意欲の低下を引き起こしていますので、アルコールや薬物依存と同じく、「身体因性精神疾患」に該当すると考えられます。

 

「身体因性精神疾患」であれば、まず身体的な治療が優先されることは明らかですよね。

たとえば、摂食障害の対人関係療法による治療を希望される方には、まず、シリアルやプロテイン飲料ではなく、三食の食事摂取ができるなど栄養状態が改善し、睡眠覚醒リズムなど身体の状態が安定してからでないと、心理的治療を始めることは難しいです、とお伝えしていますよね。

 

次に、器質的疾患や身体疾患、薬剤性による精神症状が否定されたなら、統合失調症や非定型精神病、双極性障害やうつ病など、遺伝的な背景を元に起きてくる、さまざまな脳機能の変化による精神疾患である②「内因性精神疾患」を考えます。

 

そして、③「心因性精神疾患」。心理社会的要因によって引き起こされる精神疾患です。

たとえば、適応障害やPTSD、あるいは、かつて神経症あるいはノイローゼと呼ばれていた病態や、パーソナリティの偏りなど、外的な出来事に反応した状態を考えます。

 

外的な出来事に反応した急性ストレス反応や適応障害、PTSDやノイローゼなどは環境調整が必要になります。

出来事への反応の後遺症であるPTSDは、安全な環境が確保されたのちに、フラックシュバックや過覚醒症状などの危機反応を徐々に減じていくことが治療になります。

 

「適応障害」は、簡単に言ってしまうと「反応性の抑うつ状態」と考えることができます。

 

「反応性の抑うつ状態」と呼ばれるものがあります。

試験に落ちたり、リストラにあったり、恋愛が破綻したり、そうした気落ちする出来事に直面すれば誰だって「うつ」っぽくなる。身体の病気を患っても、症状のつらさや経過に対する懸念から「うつ」に陥りやすい。

こうした経緯は分かりやすい。納得がいく。でも、(反応性の)うつ状態になるのは決して不自然ではないが、だからといってそれがそのまま「うつ病」のレベルにまで発展するとは限らない。大概は一過性のうつ状態で終わってしまうものでしょう。

上記のような落第、失業、失恋、身体疾患といった状況が解決さえすれば、うつ状態も改善するのが普通ですから、ならば治療ではなく困難状況への取り組みを優先させるべきです。

たとえ困難状況の解決が難しい場合でも、時の流れが癒してくれる場合が多い。我慢が可能な範疇であるならば、さしあたっては医療の対象外ということになる。

春日武彦『はじめての精神科』医学書院

 

③「心因性精神疾患」に含まれる「適応障害」は、出来事に対する馴化の過程で、適応的あるは不適応的な心理的・行動的な反応が起きている状態です。

 

例えば、進学、就職、昇進や異動や転職、結婚や離婚など、それまでの生活パターンの「変化」に伴うものです。

多くの場合は一過性で終わるのですが、そこに②「内因性精神疾患」の遺伝的素因があると、うつ病が発症することもあります。

 

ど真ん中の従来型うつ病で、治療や療養が適切になされていれば、その多くは1年以内には改善するようです。しかし実際には、年単位で延々と通院しているケースが非常に多い

症状はよくなっているが、再発を防ぐために長期間の抗うつ薬投与となっている場合は結構あり、理想的には薬剤の「漸減→オフ」なのですが、それを試みるとどうしても再発するケースがでてしまい、また当人(あるいは家族)も再発を恐れて減薬や服薬終了を嫌がり、結果的になかなか治療終結に至らない症例はめずらしくない。

(中略)

《「うつ」が抗うつ薬で改善するのだったら、今の自分は薬によって救われるかもしれないと思う人が予想以上にたくさんいた》−−ということなのでした。

そして「うつ病」というキーワードないしは「落としどころ」を知ってしまったがゆえに、「気分がふさいだら、うつ病」「つらかったりやる気が起きなかったら、うつ病」「自分らしく生きられなかったら、うつ病」などと考えるようになった。

春日武彦『はじめての精神科』医学書院

 

うつ病であっても、稀に難治化・遷延化することもありますが、多くは1年ほどで軽快・改善していきます。

 

2種類以上の抗うつ薬や抗不安薬が投与されていて、治らないから、よくならないからと、こころの健康クリニックに転院を希望される患者さんが後を絶ちません。

申し訳ありませんが、こころの健康クリニックでは、多剤/大量投与(複数の抗うつ薬や抗不安薬)を受けていらっしゃる方は、お引き受けしていないのです。

 

断っている医療機関は、ある意味健全です。複数のベンゾジアゼピン系薬物を含む数種類以上の向精神薬の多剤併用の害を承知していて、そのような処方は出さないと決めているところでしょう。

原井『うつ・不安・不眠の薬の減らし方』秀和システム

 

離脱症状が出ないようにしながら、また再発しないように注意しながら、抗うつ薬1種類を減薬中止するのに約4〜6ヶ月かかります。減薬の苦労をご存じない先生方に恨み言をいいたい気分になることもしばしばです。

それと同時に、減薬の苦しさに耐えてくださっている患者さんがいらっしゃるからこそ、こころの健康クリニック芝大門でしかできない臨床を続けようと思う原動力にもなっているのです。

 

さて「適応障害」に話を戻しましょう。

 

「適応障害」は「反応性の抑うつ状態」、つまり『ストレスチェックと「適応障害」の治療の周辺』で触れた「②ストレス因もストレス反応も高い人」に相当します。

 

一方、「③ストレス反応だけが高い人」は、かつて神経症あるいはノイローゼと呼ばれていた病態や、パーソナリティの偏りのような「精神的な不調」、あるいは「生きづらさ」を抱えて引きこもり状態になっている「発達障害(神経発達症)特性」を有する人たちが該当すると考えられます。

 

このような人たちの特徴は、「ゲームやSNSに没頭し、食生活や睡眠などの生活リズムも大きく乱れ、そのため活力がわかず、さらに抑うつ状態を悪化させてしまうといった悪循環がみられる」とされています。(栗原, 大江, 渡邊. 成人うつ病患者の背景に潜む神経発達症のインパクト─対応を含めて─. 精神科治療学 37(1): 41-46. 2022)

 

性格の次元ですべてが低く、未熟な人といえます。自分の行動の行動の基軸もなく頼れるものがないので、何事においても消極的になってしまいがちです。うつ状態になりやすい、というよりも、慢性的にうつ状態になりやすいといえます。

クロニンジャー理論では、生理的な原因によるうつ状態と、この意気消沈タイプのように非生理的なうつ状態は分けて考えるべきであるとしています。この意気消沈タイプの人に、気分を改善させるような向精神薬を与えても、ほとんど何の解決にもならないでしょう。

自分の人生に目的がないのであれば、積極的に生きようとすることもないでしょうし、消極的で友人も少ないのであれば、簡単にうつ状態になってしまうのは、むしろ当然なことと考えられます。

もし、うつ状態がこの性格の問題が原因であれば、投薬治療ではなく、「自己志向性」と「協調性」を高められるようなカウンセリングが望ましいといえるのです。

木島『クロニンジャーのパーソナリティ理論入門』北大路書房

 

上記のような非生理的なうつ状態(意気消沈)の人たちは、「やる気が起きないから」「気持ちが晴れないから」「生きていく意味がわからないから」、などと訴えられること多いようです。

前掲のテキストには、[「自己志向性」と「協調性」を高められるようなカウンセリングが望ましい]とされていますが、気分に関わらず行動する「行動活性化」が必要なことが多いようです。

 

さまざまな依存症傾向のある人に、この傾向が高いような印象があります。

「◇◇だから、△△できない」という言い方は、社会と関わりが持てずに引きこもっている理由を訴えられているのでしょうが、「発達障害(神経発達症)特性」に特徴的な回避の理由づけになっていることに気づく必要がありますよね。(『アレキシサイミアと回避を支える理由づけの文脈』参照)

さらに、回避の理由づけは、同時に、自己正当化(他責性)と責任回避(疾病利得)を産み出す温床にもなっているのです。

 

そもそも精神的な不調や生きづらさは、昔から、その時代に応じてはやったキーワードと関連づけて本人も周囲も(安易に)理解を図ろうとする傾向にありました

たとえばヒステリー、ノイローゼ、神経衰弱、さらにはAC(アダルトチルドレン)、解離、トラウマ等々ですね。そのような一連のキーワードのひとつとして「うつ病」という言葉が現在世間に流通している(次の流行は「発達障害」のようです)。

(中略)

病気というほどではないが、空気が読めなかったり、対人スキルがあまりにもぎこちなかったり、協調性を欠いたり、いやに忘れ物やミスが多いなど、明らかに違和感を覚えさせる人たちがたしかに一定数存在していて、そうした傾向の持ち主はどうやらおとなの発達障害らしい……という知識が世間に浸透してきました。

春日武彦『はじめての精神科』医学書院

 

「自閉スペクトラム症(ASD)」や「注意欠如/多動症(ADHD))などの「発達障害(神経発達症)特性」は生来的なものですから、①「身体因性精神疾患」に相当すると考えられます。

そのため「発達障害(神経発達症)特性」に、②「内因性精神疾患」(双極性障害やうつ病など)や、③「心因性精神疾患」(適応障害やPTSDなど)を発症した場合、「病像が非典型的なものとなって診断や治療が難しく」なります。

 

ある意味、「発達障害(神経発達症)特性」が背景にあると「臨床像は何でもありであり、診断カテゴリーをまたぐ」という子ども虐待の後遺症(発達性トラウマ障害)と「発達障害(神経発達症)特性」がオーバーラップしやすい理由の1つでもあると考えられます。

 

院長

※5月2日のブログはお休みです。次は5月9日にエントリーしますのでお楽しみに。

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