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摂食障害(エド)とのお別れの先にある人生

[2020.10.26]

摂食障害症状、とくに過食やむちゃ食い、あるいは、過食嘔吐を主訴に一般のメンタルクリニック(精神科や心療内科)を受診すると、ほとんどの場合、うつ病あるいはうつ状態という診断が下されます。

そして、間違いなく抗うつ薬が処方されます。

 

うつ症状は、過食・むちゃ食い症状や自己誘発嘔吐を誘発しやすい重要な危険因子でもありますが、同時に、過食・むちゃ食い症状や自己誘発嘔吐の結果でもあるのです。

しかし、過食・むちゃ食い症状や自己誘発嘔吐の結果としてのうつ症状には、抗うつ薬は何の効果ももたらしません。それどころか、抗うつ薬の食欲増進作用によって、過食や体重増加がもたらされる場合も多いのです。

 

逆に、過食・むちゃ食い症状や自己誘発嘔吐などの摂食障害症状と不釣り合いなほど、うつ症状の回復が遅延するとき、あるいは、急速にうつ症状が再燃するとき、つまり、うつ症状が過食症やむちゃ食い症の誘発因子になっている場合には、抗うつ薬の服用を考えた方がいいかもしれません。

そうでなければ、抗うつ薬で過食嘔吐が治った人がいるかどうか、事実を調べてみるといいかもしれませんね。

 

実際に心療内科や精神科などで処方されたお薬を飲み続けている人に良くなった人を見たことがなかった」とAkoさんは『心療内科への通院を決めた理由』に書かれています。

 

皆さんの中でも、摂食障害で抗うつ薬を処方されている人もいらっしゃると思いますが、症状はよくなっていますか?何も変わらないか、あるいは逆に症状がひどくなって、薬の量が増えたという人はいらっしゃりますか?薬の量が増えても、症状がよくなった実感はありませんよね。

 

ジェニーさんは、何度も摂食障害思考(エド)の呪いのことばに巻き込まれ、症状の悪化(再燃)や落ち込みを経験されてきました。

その状態を乗り越えてきたジェニーさんの体験は、摂食障害からの回復を目指している皆さんを勇気づけてくれるはずです。

 

エドを追い出した後の人生は、とても価値があります。

回復の道をたどり続けていれば苦しいときもどうしたってありますが、頑張って乗り越えるだけの価値があると私は思っています。

回復するために、心理士さん、栄養士さん、お医者さんのところへと、何度も車で往復し続けるのは大変ですが、それだけの価値はあります。

苦しいときも、症状が再燃するときも、そして絶望する瞬間も必ずありますが、それをしっかり受け止めて前進していくだけの価値があると思うのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

摂食障害からの回復に向かう心の準備がまだ十分にできていない《熟考期》には、「本当に回復できるのだろうか?」「何回、あるいは、何ヶ月通院すれば治るのだろうか?」と考えてしまいますよね。

しかし、このように考えたとしても「回復までの道のりはなかなか大変そうだ」と思い至り、モチベーションは上がるどころか下がってしまい、また摂食障害思考(エド)の言いなりになることを繰り返してしまいますよね。

 

摂食障害から回復するためには、「どんなときに、どんなことを考えてどういう気持ちになって、摂食障害行動をするのか」、というパターンを自分で発見していくこと(これが「衝動の波に乗る」練習です)が必要なのです。

 

これほど大変な努力が必要なわけですから、エドとの離婚を選ぶ人が少ないという事実にも納得がいきます。

あなたにとっても、この本を読むのをやめて、摂食障害の行動を続けていく方が簡単かもしれません。

これからの人生、すべてエドの支配に委ねてしまうことも、ある意味では楽かもしれません。

何かを決めなければならないときにはすべてをエドに任せて、エドを利用して、向き合いたくない感情から逃げることは難しくありません。

つまり、回復への道を一度はたどり始めたとしても、何が何でもこの道を進むのだと強く思い続けることは、やはり並大抵なことではないのです。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

ジェニーさんが書いているような気持ちになったことのある人も多いのではないでしょうか

 

摂食障害からの回復は、山あり谷ありで決して平坦な道ではありません。

ですから、私たちのような摂食障害の治療を専門にする治療者(ガイド)が必要なのです。

 

エベレストのような険しい高い山を登るとき、登山者はガイドが必要になります。ガイドは道を教えることは出来ますが、あなたを背負って山を登ることは出来ません。

(中略)

あなたが辛いから動けないというなら、私は何もできません。でも辛い道を登って、山を越えたいと思うなら、私はずっとあなたの側でガイドします。

パーソナリティ障害・摂食障害』メジカルビュー社

 

摂食障害から回復するための治療は、山登りの準備をするところからはじまります。

ジェニーさんが書いている「何が何でもこの道を進むのだと強く思い続けること」が、[行動変容を動機づける5段階]のうち《準備期》から《実行期》に移行するのに必要な心構えになるのです。

 

回復とは、エドとの戦いにしっかりと向き合っていくということだけではありません。

自分自身の心の声に耳を傾けて、夢を追い続けようとする決意でもあるのです。

(中略)

あなたの夢は実現しないなんて、決して誰にも言わせないでください。あなたが歩みたい人生なんて不可能だ、などと、特にエドだけには間違っても言わせないでください。

エドが仕切っていれば、確かに不可能かもしれません。

でも、だったらエドを運転席から放り出せばいいのです。そうすれば、少しずつどんな夢も叶えられるものだということがわかるようになるでしょう。

シェーファー、ルートレッジ『私はこうして摂食障害(拒食・過食)から回復した』星和書店

 

そして、山を越えた向こう側にある「新しい生き方」、それは日常のなかで起きてくる様々な出来事や、いろいろな感情に対して摂食障害症状を使わずに対処し、人生の価値や目的を見出していくことです。

 

これを新しい対人関係療法による治療では、摂食障害から回復するための取り組みであり、同時に、生き方の方向性でもある「ライフ・ゴール」と呼んでいるのですよ。

 

院長

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