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摂食障害の娘のサポーターのアタッチメント

[2020.04.16]

新型コロナウイスル感染症が爆発的に流行しています。

外出自粛や緊急事態が発出されても、摂食障害の病状は家族関係に影響を与え続けますよね。

 

モーズレイ・モデルによる家族のための摂食障害こころのケア』には、摂食障害のお子さんの「摂食障害トーク」に巻き込まれないように、と注意を促してありますね。

 

「摂食障害トーク」に巻き込まれないこと、これが「とにかく話を聞く」ときの注意点です。

ご家族がお子さんの「摂食障害トーク」に乗ってしまうと、「ミイラ取りがミイラになる」のことわざ通り、食べ物をグラム単位で測ってあげたり、過食食材の買い出しをしてあげたり、お子さんの摂食障害症状を助長させてしまうのです。

 

思春期・青年期の摂食障害のお子さんは、自分自身を客観的に観察することが難しいようです。摂食障害の部分と健康な部分を区別できず、摂食障害の部分が本当の自分だと思い込んでいたりします。

さらに、BMIが16.5未満の低体重(中等度以上)だったり、3度の食事をきちんと摂れていないなど、脳の栄養状態が不良のときは、自分自身を客観視することが非常にむずかしくなっています。

 

そのため、サポーターであるご家族が「摂食障害トーク」に乗ってくれなかったり、「それは摂食障害の部分の考え方かもしれないね」と指摘したりすると、摂食障害のお子さんの脳は混乱状態に陥ってしまいます。

その結果、円滑なコミュニケーションが妨害されてしまいます。

 

生物-心理-社会モデルを使って説明しているように、摂食障害の治療では、まず身体の栄養状態の改善が何よりも不可欠なのです。

 

価値観や目標にわずかな相違がみられただけで混乱状態に陥ってしまった摂食障害のお子さんと、サポーターであるご両親との間で、神経的および認知的な不協和が高まった状態になると、双方に「思い通りにならない怒り」反応が起きます。

対人関係療法的にいうと「役割期待の不一致(不和)」です。

対人関係療法で「役割期待の不一致(不和)」を解決するには「期待の整理」という方法を使います。

 

まず、サポーターであるご両親は、摂食障害のお子さんにどういうことを期待しているのか、それは相手にとって実現可能な期待なのか、について内省(リフレクト)します。

同時に、摂食障害のお子さんはサポーターである自分にどういうことを期待しているのかも明確にして、相手からの期待は、自分にとって問題なく受け入れられるかどうかについても、内省(リフレクト)するのです。

 

そして、サポーターとしてのご両親の期待は、摂食障害のお子さんにきちんと伝わっていたか、摂食障害のお子さんがほんとうにそれを期待していると確認したか、について、思いこみを回避するために、コミュニケーションを介して相手に質問を投げかけるのです。

トラブルにならない聴き方や伝え方については、こころの健康クリニックで親面接のときに教えていますよね。

 

しかし、摂食障害のお子さんに、我を忘れるような「思い通りにならない怒り」反応が出ているとき、サポーターであるご家族は、怒りを鎮めることに腐心してしまいますよね。

 

ご家族のサポートは、摂食障害のお子さんの怖れや心的苦痛を和らげる働きがあると同時に、摂食障害思考によって引き起こされた問題を見つめ取り組む必要があるため、ご家族自身のアタッチメントシステムも活性化し、怖れは高まります。

 

良好な、安定した支援関係のうえで、解決の処方が行われるのではない。むしろ不穏な、危機的な支援の関係への取り組みそのものが、解決の処方となることがある。
(中略)
恐れや心的苦痛が高まり、アタッチメントシステムが活性化するときには、どの治療や支援の局面であれ、私たちは潜在的に敏感なケアを求められている。

変化や解決をもたらす取り組みを外側から、あるいは下から支える安心の基地としての機能と、むしろ変化や解決に至る私たちとの間に展開する問題に対処する安心の基地としての機能と、支援者としての私たちは、その異なる2つの機能を時折果たしているのだといえる。

工藤『支援のための臨床的アタッチメント論』ミネルヴァ書房

 

摂食障害思考に囚われているお子さんは、物理的なケアなしで安心を得るだけの能力が育っていません。安心すると食べてもらえるのではなく、食べるからこそ安心が得られるのです。

そのためサポーターであるご両親がどんなに支援したとしても、摂食障害のお子さんにとっては、サポーターであるご両親は安心の基地になり得なることは非常に難しくなります。

 

このようなとき、ご家族は、サポートを投げ出して治療者に丸投げしてしまいたくなったり、逆に、自己犠牲的にお子さんの摂食障害思考の言いなりになったりすることが起こるのです。

だからといって、お子さんに無理やり治療を受けるように強要したりしないでくださいね。

 

支援におけるケアを、それぞれの問題行動や精神病理に特有のケアとさまざまな問題に共通するケアに大きく分けるとすれば、支援者のアタッチメントの質および敏感性は後者に関わっている。
(中略)
それによって生み出されるケアの質の違いは、神経メカニズムの働きとして、内在化された手続き的記憶にもとづいて、被支援者の心的苦痛を前にした自分自身の恐れと心的苦痛の情動制御として、あるいはその状況の認知的、表象的解釈の結果として、また獲得された行動パターンにもとづいて、導き出される。

工藤『支援のための臨床的アタッチメント論』ミネルヴァ書房

 

ちょっと難しくなってきましたね。

サポーターであるご両親は、自分自身のアタッチメントの質、つまりさまざまな問題に関わるときのパターンや、安心感のケアを提供するときのクセについて理解しておく必要があります。

 

上の引用にある「内在化」は、意識的操作を超えて自動的な反応を引き起こすものですから、サポーターであるご両親が自分自身でそれに気づくことができません。

 

私たちは、自分の提供する安心基地の機能の偏りについて、他者とともに学ぶことができる。

自らのアタッチメントの質を簡単に変えることはできないけれども、ケアについて振り返り、検討することを通して、支援者としての質を高めていくことはできる。

工藤『支援のための臨床的アタッチメント論』ミネルヴァ書房

 

こころの健康クリニックでは、大学生までの摂食障害のお子さんをお持ちのご家族との面接で、このようなことを行っています。

親面接を希望される方は、対人関係療法外来摂食障害の一般外来、どちらでもお受けしていますので、こころの健康クリニックに相談してみてくださいね。

 

院長

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