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双極性障害と自閉症スペクトラム障害

[2013.04.08]

アスペルガー障害や高機能自閉症、あるいは特定不能の広汎性発達障害など、「自閉症スペクトラム障害」者が、気分症状を言語化できるかどうか?という問題はあるものの、自閉症スペクトラム障害の10~37%にうつ病性障害などの気分障害を合併しやすいという報告があります。(不安障害の合併は40~55%)

また双極性性障害では、家族集積性があると言われていますが、自閉症スペクトラム障害の親族でも不安障害(社交恐怖)と大うつ病が多いと言われています。

しかし自閉症スペクトラム障害と双極性障害の合併については、今のところハッキリした研究がないようです。
それは「うつ病相を呈する患者は大うつ病性障害か、あるいは、躁あるいは軽躁病相が現れるまで診断されない双極性障害のいずれかである」というフィードロヴィッツ(Fiedorowicz)の記載通り、気分障害は経過の中で診断される病気だからですよね。

2013年に改訂される予定のDSM-5での躁状態・軽躁状態は、

気分が以上かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的で、活動あるいは気力が以上かつ持続的に増加したいつもと異なった期間が、[躁病;ほとんど一日中、ほとんど毎日存在し、]少なくとも[躁病:1週間、軽躁病:4日間]存在する。

とされています。

また躁状態・軽躁状態の症状は、

気分の障害と気力あるいは活動の増加の期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)が存在しており(気分が単に易怒的な場合は4つ)、日常の行動からのあきらかな変化を示し、はっきりと認められる程度に存在している。
(1)自尊心の肥大、または誇大
(2)睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけでよく休めたと感じる)
(3)普段よりも多弁であるか、喋り続けようとする心迫
(4)観念奔逸、またはいくつもの考えが競い合っているという主観的な体験
(5)注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないかまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)
(6)目的志向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加、または精神運動性の焦燥
(7)まずい結果になる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御の聴かない買いあさり、性的無分別、またはばかげた商売への投資などに専念すること)

とされています。

この中で、

易刺激性(イライラ感)
多弁
活力の増大
注意散漫

は、双極性障害にもADHDにも高頻度で見られることを『双極性障害とADHD(注意欠陥多動障害)と対人関係社会リズム療法』で指摘しました。

また双極性障害の躁病エピソードに特異的にみられ、ADHDにはほとんどみられない症状として

○高揚気分
○誇大性(誇大妄想)
○観念奔逸/考えの競い合い
○睡眠欲求の減少

を挙げましたが、自閉症スペクトラム障害者の中にはショート・スリーパー(短時間睡眠者)もいるため、病相(エピソード性)の同定が必要になります。

 

「観念奔逸/考えの競い合い」については、自閉症スペクトラム障害では、頭の内外で知覚像や表象像がひしめき合うように断片的にわき上がり、ごちゃごちゃと混乱し、周囲の会話や音が混ざり、人の会話と自分の会話の区別が付かなくなるなど、むしろ「思考促迫」のように「考えたくないのに考えてしまう」という形で体験されることを『自閉症スペクトラム障害にともなうトラウマ関連障害』で指摘しましたよね。

 

冒頭で指摘したように、自閉症スペクトラム障害では、気分症状の言語化が困難という問題がありますから(診断のための構造化面接での質問に答えられないことが多い)、いつもと違う「過活動(反復的活動)」を捉えたのち、「気分高揚」や「誇大感(自我肥大)」の有無を検討する必要がありますよね。

また、意に沿わないことや衝撃を受けたためにイライラし、癇癪を起こして物に当たって大声を上げたり、自傷行為などがある場合は、それが躁状態の症状なのか、自閉症スペクトラム障害の情動面の不穏なのかについて鑑別する必要があります。

双極性障害でみられるような「爽快躁病」や共感性と比べ、自閉症スペクトラム障害では、自己中心性や固執性が高まり、自分のこだわりを押し通そうとして周囲と摩擦を起こす「易刺激性」が目立つことが特徴です。

 

病前性格(気質)も、双極性障害の特徴的気質とされる感情面が優位で共感性が特徴の「循環気質」に比べ、自閉症スペクトラム障害では、他者への関心の乏しさや集団行動が苦手など「統合失調質(スキゾイド)」や、過剰な模範意識や融通の利かなさなど欲動優位の「執着気質」がみられることが違いとしてあげられます。

病前性格(気質)と対人関係パターンを主軸として、双極スペクトラム(双極I型・双極II型)と、大うつ病、気分変調性障害(慢性うつ病性障害)、そして発達障害(自閉症スペクトラム障害)の二次障害を図に表してみると、以下のような関係になりそうです。

また双極性障害などの気分障害は、時間経過に沿って始めと終わりがある「病相性(エピソード性)」が認められるのが原則ですから、三田こころの健康クリニックで行っているように経過図を書くことにより鑑別は容易になると思います。

 

こうやって見てくると、双極性障害とADHDや自閉症スペクトラム障害の鑑別は、病前性格(気質)と症状の的確な把握、および病相エピソード性(経過)に注目することで可能になり、過剰診断はある程度避けられそうですよね。

院長

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