乱れた食行動に隠された本当の問題とは
こんにちは。
こころの健康クリニック芝大門で、受診相談と摂食障害の対人関係療法を担当している精神保健福祉士・公認心理師のウエハタです。
これまでのブログで、食べ物や体型へのとらわれは、「本当の問題を隠すための目くらましです」とお伝えしていました。
では、本当の問題とはいったい何なのでしょう。
『自分の中の摂食障害(エド)との関係を改善する』で登場していただいたBさんを例に考えてみたいと思います。
Bさんはご主人が自分の期待通りに食器を洗ってくれないと、「私のことを大切にしてくれていない」と思ってしまうのでしたね。
自分の中の摂食障害(エド)との関係を改善する
このような、相手の気持ちを相手の行動や物でのみで判断する、行動とは別の独立した精神状態が存在することを認められない状態のことを「目的論的モード」といいます。
「目的論的モード」は、相手の気持ちに物や行動で応じることも指します。
誠意を見せるために土下座するとか、慰謝料のようなものもこれに該当するそうです。やむを得ない場合には用いることもあるようですね。
ですが、「土下座していないから悪いと思っていない」ということになるとどうでしょう?
何かちょっと違いますよね?こういった捉え方を「目的論的モード」と呼ぶのです。
このように、「目的論的モード」では目に見えるものが全てという思考パターン、感情に物で対処する行動パターンになります。
『摂食障害からの回復を妨げていること』で、過食には「心が求める過食」と「体が起こす過食」の二種類があることを以前お伝えしましたね。
摂食障害からの回復を妨げていること
「体が起こす過食」は飢餓過食ですが、「心が求める過食」は様々な感情や満たされない気持ちなどに対してそれを麻痺させたり、解消しようとして起こる過食です。
不安や悲しみ、怒りなどの感情に対して、食べ物という物質的なもので対処する。このように過食や嘔吐の症状もこの「目的論的モード」です。
「目的論的モード」で応じたときには、一時的には気分が晴れた気がするのですが、長期的な(本当の)目的や価値にはつながらない対応になっていたり、気づかれなかった感情がくすぶったまま残っています。
そのため、いつまでも何か満たされない気持ちや、すっきりしない気持ちを抱えることになってしまいますよね。
『自分の中の摂食障害(エド)との関係を改善する』で紹介したBさんに、「ご主人が完璧に食器を洗ってくれるようになったら納得できそうですか?」と尋ねた時に、Bさんが「他のことが気になりだすと思う」とおっしゃいました。
このように、Bさんは食器を洗うという行動でBさんの、“まだ特定されていない何らかの感情”、あるいは、“感じないように避けている何らかの感情”、に対処しようとしていたようです。
そして、食器を完璧に洗ってもらえないと、今度はその何らかの感情を食べ物で解消する「目的論的モード」を繰り返すことになっていったのです。
さらにBさんは、例えばご主人の帰宅が遅いと「私のことはどうでもいいから遅く帰ってくるんだ」と「目的論的モード」で捉えてしまい、仕事で悩んでいても「どうせわかってくれないから相談はしない」と一人で抱え込み、結果的にご主人と距離をとるようになっていらっしゃいました。
「どうせわかってくれない」のように、“自分の想像や考えを現実と思い込んでいる状態”のことを「心的等価モード」といいます。
乱れた食行動に苦しむ方たちは、自分自身に対してのネガティブな評価を下してしまいがちです。
「私には価値がない」「私は愛されない」「私は問題を乗り越えられない」などなど。
そして、こうした評価を本当のことだと信じてしまう。
他にも、「私は変なのではないか」「嫌われているのではないか」「失敗するのではないか」など、もともとは想像や空想、未来の予測などが、いつの間にか「本当のこと(本当に起こること)」のように錯覚してしまうのです。
想像や考えを真実だと信じ込んでしまうと、価値がないとか愛されないと感じる可能性がある場面では、人間関係から距離を置こうとするかもしれません。
「心的等価モード」によって、ダメな自分がばれることを恐れて、あらゆる手段を講じるかもしれません。
それは、「完璧でなければならない」とか、「褒められたい」「尊敬されたい」と思ったり、「特別な存在であろう」とすることかもしれません。
「痩せていればすべてがうまくいく」という考えや完璧主義、べき思考に振り回される状態かもしれません。
「目的論的モード」も「心的等価モード」も、「空想=現実」となっている点ではちがいがありません。
そのときに、現実(行動)が空想を飲み込んで行動と一体化すると「目的論的モード」、空想が外向きに広がり現実を飲み込んでしまうと「心的等価モード」と呼ぶのです。
これらは、空想(頭の中の考え)と現実とが適切な距離を持てていない、ということで「こころの原始的モード」と呼ばれます。
『素敵な物語』に、【ファットアタック】という言葉ができてきます。
ファットアタックというのはまるで一晩で十キロも体重が増えたかのように、突然すごく太ったような感覚に陥ることです。(中略)
ファットアタックに陥っているときというのは、何か他に、あなたの気分を害することが起こっているサインなのです。
お母さんが言ったことに腹を立ってていませんか?デートを控えて緊張していますか?職場の上司にイライラしていませんか? 友達に言ってしまったことを後悔しているとか?
(中略)
ファットアタックからくる感情はとてもリアルに感じられますが、現実に基づいて起こるものではありません。そして、まるでそれは苦痛の種のように思えますが、実際は本当の悩みの鏡像でしかないのです。
アニータ・ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店
つまり、【ファットアタック】とは、腹を立てていたり、緊張、イライラ、後悔などの感情や気持ちが、「太っている気がする」という考えに飲み込まれてしまい、それが真実であると思いこむという「心的等価モード」なのです。
そして、その思い込んだ真実に、ダイエットや体型へのこだわりなど、「目的論的モード」(行動)で対処せざるをえない状態に飲み込まれてしまっているのです。
「本当に向き合うべき問題」から目をそらすことに一役も二役も買っているこの「心的等価モード」と「目的論的モード」。
これら「こころの原始的モード」に飲み込まれてしまうことが、「乱れた食行動」の根本にある「本当の問題」なのです。
対人関係療法では、自分の感情を指針に自分の期待を明確にし、他者と交渉などのコミュニケーションを行うことで病気を治していきます。
その時に、自分の感情が何に反応して起こっているのかを正確に特定できないと、「本当に向き合うべき問題」はわからないままです。
それだけでなく、自分が本当は何を必要としているのかもわからないままだと、「こころの原始的モード」に閉じ込められた状態から抜け出すことが難しくなってしまいますよね。
そして、ずっと空虚な満たされない気持ちを持ち続けることにつながってしまうのです。
ですから、こころの健康クリニック芝大門で行っている過食症の対人関係療法による治療では、「心的等価モード」と「目的論的モード」から抜け出すために、まず「自分の考えや気持ちに気づけるようになること」「考えと現実を区別できるようになること」から取り組んで、こころの機能をはぐくんでいくのですよ。
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