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「適応障害」「神経症性抑うつ」と睡眠障害

[2021.03.08]

「神経症性抑うつ」と「性格と間違われやすい気分変調症」』で、「神経症性抑うつ」の鑑別に挙げられる「軽症内因性うつ病」の特徴は「心身の本質的なリズムの失調」であることを説明しました。

 

「軽症内因性うつ病」の睡眠の特徴は「夜いったん眠りについたものの、途中で何度も目がさめるという中途覚醒の頻発」です。

 

そもそも気分障害に睡眠障害を合併する頻度は86.6%と非常に高く、「大うつ病性障害」に特徴的な早朝覚醒を初めとして、入眠困難、中途覚醒、熟眠困難などのいわゆる「不眠症」だけでなく、覚醒困難(過眠)、日中の眠気など全ての型がみられます。

 

さらに、入眠困難や中途覚醒による浅眠、起床困難などの不眠症や、概日リズム障害、睡眠時随伴症や周期性四肢運動障害などの睡眠障害は、自閉症スペクトラムや注意欠如多動障害などの発達障害で健常発達者よりも合併頻度が高いことも知られています。

 

しかしながら、「睡眠障害=不眠=薬物療法で何とかなる、という治療者側の単純化された認識のために、他に打つ手があるにもかかわらず検討されていないケースが非常に多い」と指摘されています。(北島: 睡眠障害との関連. 精神科治療学 27: 363-372. 2012)

 

抗うつ薬のSSRIやセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬は中途覚醒をむしろ増加させ、不眠を生じることがある。

睡眠を改善させる目的で用いた薬物が睡眠を結果的に悪化させる場合がある。

ベンゾジアゼピン系薬物は筋弛緩作用で睡眠時無呼吸症候群を悪化させる。

抗うつ薬や非定型構成病薬はしばしばむずむず脚症候群を増悪させ、また睡眠導入剤をはじめとする各種向精神薬は睡眠時随伴症を引き起こすことがある。

北島: 睡眠障害との関連. 精神科治療学 27: 363-372. 2012.

 

実際、「反応性抑うつ(適応障害)」や「神経症性抑うつ」の診断で抗うつ薬や睡眠導入剤を処方されているケースでは、「睡眠障害が悪化し、薬の量が増える」という悪循環に陥っているケースにもしばしば遭遇します。

 

また「特に睡眠導入剤(非ベンゾジアゼピン系を含む)や鎮静系の抗うつ薬などによって夜間の記憶のない行動(摂食など)がしばしば誘発される。これらは原因薬物の中止で消失することにより、解離などと鑑別できる」とあります。(北島: 睡眠障害との関連. 精神科治療学 27: 363-372. 2012)

睡眠導入剤によって「いわゆる寝ぼけ過食」と呼ばれる睡眠随伴症を引き起こされることも、よく見かけるケースです。

 

こころの健康クリニック芝大門の「リワーク」に通っていらしゃる人たちのうち、とくに「神経症性抑うつ」の「個人的素質あるいは脆弱性」として「発達障害的特性」がある人には、「睡眠覚醒リズム障害(概日リズム睡眠障害)」がしばしば見られます。

「睡眠覚醒リズム障害(概日リズム睡眠障害)」のうち、「睡眠相後退症候群」と「非24時間睡眠覚醒症候群」では、抑うつ症状を伴う頻度が非常に高いことも知られています。

 

睡眠覚醒リズム障害(概日リズム睡眠障害)は、体内リズムを外界の望ましい社会スケジュール(多くの場合は昼夜の明暗リズム)に同調させることができず、入眠困難・起床困難・日中の眠気・種々の身体症状などを生じるものである。

しばしば学校や仕事に遅刻・欠席を続けるなど深刻な社会不適応を生じる。

(中略)

気分障害に睡眠覚醒リズムの乱れが伴う要因は多岐にわたると考えられている。

意欲の低下による起床困難・日中臥床傾向、自宅閉居による社会的同調因子および光曝露の減少、睡眠の質の低下による睡眠時間の延長・分断化、逆にリズムの乱れから社会不適応、あるいは学業・仕事などのパフォーマンスの低下が自己評価の低下につながって、悪循環をきたすなどである。

併存するパーソナリティの問題あるいは発達障害が双方に対して増悪因子となっている場合もある。

北島: 睡眠障害との関連. 精神科治療学 27: 363-372. 2012.

 

こころの健康クリニック芝大門の「メンタルヘルス外来」、あるいは「リワーク」を紹介されて受診した若い方の中には、夜にスマートフォンでインターネットや動画を見たりして、睡眠覚醒リズムを悪化させている「睡眠相後退症候群」や「非24時間睡眠覚醒症候群」などの「睡眠覚醒リズム障害(概日リズム睡眠障害)」の人も多くいらっしゃいます。

また、新型コロナウイルス感染症の蔓延による在宅勤務・テレワークの影響で「社会的同調因子および光曝露の減少」で、意欲の低下がみられたり、睡眠覚醒リズムが乱れ、休職になってしまった人も少なくありません。

 

このような体内リズムの乱れが著しい場合、睡眠導入剤の効果は乏しい場合が多いにもかかわらず、2種類以上の睡眠導入剤が漫然と投与されているケースがほとんどのようです。

その結果、日中の眠気につながり、パフォーマンス低下が引き起こされている状態を「過眠」とみなされ、アリピプラゾールなどの抗精神病薬が投与され、さらに睡眠覚醒リズムが乱れてしまうケースも多いのです。

 

日中の眠気がある場合、抗うつ薬や睡眠導入剤の翌日への影響(持ち越し)の他に、「睡眠時無呼吸症候群」や「周期性四肢運動障害/むずむず脚症候群」の合併を疑う必要があります。

 

睡眠時無呼吸症候群」は、「活動低下・過食・向精神薬による体重増加、ベンゾジアゼピン系薬物や飲酒による筋弛緩作用、睡眠時無呼吸症候群による認知機能の低下や眠気から仕事や学業に影響が生じ、二次的に抑うつを生じる(前掲論文)とされています。

 

また「周期性四肢運動障害/むずむず脚症候群」は、「抗精神病薬などによる錐体外路系副作用であるアカシジアと区別が困難であるが、選択的セロトニン再取り込み阻害薬をはじめとする抗うつ薬もむずむず脚症候群/周期性四肢運動障害を増強することが示されている(前掲論文)ため、注意が必要なのです。

 

生活リズムや睡眠覚醒リズムの安定は、「生活の質(QOL)」を高める上で欠かすことはできません。

こころの健康クリニック芝大門のリワークプログラムで行っている「社会リズム療法」では、光や運動が刺激になるサーカディアン・リズムと、社会的刺激や食事が刺激となるホメオスターシス・リズムの2つの同調因子を調節していきますよね。

さらに、復職後に在宅勤務・テレワークになった場合でも、生活リズムを保ちながら働き続けるためのコツを教えています。

抗うつ薬を2種類、睡眠導入剤を2種類投与されているにもかかわらず改善がみられない人は、一度、こころの健康クリニックの「メンタルヘルス外来」に相談してみてくださいね。

 

また、休職中の方は復職を成功させる要因として、ワーキングメモリの働きがいいこと睡眠導入剤や抗不安薬が少ないことが知られています。

睡眠導入剤や抗不安薬などのベンゾジアゼピン系薬剤や抗うつ薬は、ワーキングメモリを低下させることが知られています。こころの健康クリニック芝大門のリワークプログラムでは、抗うつ薬や抗不安薬を減薬しワーキングメモリの機能が回復した状態での職場復帰を目指しています。

 

復職に対して不安をお持ちの休職中の方は、こころの健康クリニックの「リワーク外来」にお問い合わせくださいね。

 

院長

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