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休職から復職する際に必要なこと

[2023.10.16]

令和5年の夏は子どもを中心に、ヘルパンギーナ、A型溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎が流行しました。

 

メディアではほとんど放送されませんでしたが、8月から9月に書けての新型コロナウイルス感染症の第9波とともに、この季節には珍しく、インフルエンザが9月から大流行の兆しを見せており、学級閉鎖が相次いでいます。

 

お子さんがいらっしゃる働く女性の方たちは、「育児・介護休業法」にもとづく介護休業や看護休暇を取得したり、所定労働時間の短縮措置や時間外労働の制限など「仕事と家庭の両立支援」制度を利用された方も多いのではないかと思います。

 

職場復帰に必要な3つの要素

さまざまな要因で会社に行けなくなり、休職した人のほとんどは精神科やメンタルクリニックに通院中ですよね。

 

休職中の社員さんについて主治医から「復職可能」の診断書が提出されると、産業医面談が行われます。

 

ところが、ほとんどの精神科主治医は、「睡眠覚醒リズム」や「行動記録」などで生活状況を確認されていないため、産業医面談の前に2週間のあいだ、記録を付けてもらうことから始めなければなりません。

2週間の「生活リズム表」や「行動記録表」が記録できたら、それを参照し「定時起床」「疲労回復」「集中力の持続」が達成できているか、を評価します。

 

定時起床は「勤怠」に、疲労回復は「安全」に、そして集中力の持続は「パフォーマンス」に、それぞれ対応しています。

 

「定時起床」「疲労回復」「集中力の持続」がある程度達成できていれば、「通勤訓練」「リハビリ勤務」「試し出勤」(これらは休職中に行います)などの「職場復帰支援プラン」が指示され、産業医による「復職可否の判定」と、事業者による「職場復帰の決定」により、復職となります。

 

「通勤訓練」と「試し勤務」の問題点

職場産業医から指示される「通勤訓練」の多くは、朝出勤時間に合わせて職場近く(あるいは自宅近く)の図書館に行き、退勤時刻まで過ごす、というものです。

 

このトレーニングの目的は、通勤という身体負荷がかかっても大丈夫であるという「疲労回復」と、図書館での知的作業という「集中力の持続」の評価を目的とするものですよね。

 

しかし、ただ図書館に滞在して本を読んでいるだけだと、眠くなるだけで業務に必要な知的作業の回復訓練にはなりませんよね。

今は事務系のほとんどの人がパソコンでの作業になるため、パソコンや簡易電源、Wi-Fiを持参する必要があります。(東京都立図書館では無料Wi-Fiが使用できます)

 

心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』では、「通勤訓練での処遇や災害が発生した場合の対応、人事労務管理上の位置づけ等について、あらかじめ労使間で検討しておくとともに、一定のルールを定めておく必要がある」とされています。

 

労災(通勤訓練中の災害)について、掛け捨ての特別な保険に加入する事業所もありましたが、ほとんどの事業者では補償についてはノータッチのようです。

 

さらに、「作業について使用者が指示を与えたり、作業内容が業務(職務)に当たる場合などには、労働基準法等が適用される場合があることや賃金等について合理的な処遇を行うべきことに留意する必要がある」とされます。

 

しかし、図書館での作業内容等の指示を出した産業医や事業者は、上記のことについて留意されていることはほとんどなく、労働関連法規に抵触することがあるため、職場主体の復職トレーニングはすごく難しいようです。

 

仮に「試し勤務」制度を設けたとしても、休業したすべての労働者に職場復帰前に「試し勤務」を課すべきではありません

「試し勤務」制度を運用するためには、以下の3つの要件がすべて満たされている必要があるとされています。

    1. 本人が主体的に参加する意思を有していること。
    2. 主治医が理解をしていること。
    3. 産業医が関与していること。

廣『メンタルヘルス どう進める?職場復帰支援の実務』公益財団法人産業医学振興財団

 

大企業のほとんどで休職から復職する社員全員に通勤訓練や試し勤務が義務づけられています。

しかし、必要性の検討が行われていないことと、産業医が経過をチェックするなどの関与を行っていないことは大問題です。

 

たとえば冒頭に書いた「育児・介護休業法」にもとづく介護休業は法律で認められているにも関わらず、「通勤訓練や試し勤務中は欠席は一日たりとも認めない」と、杓子定規にルールを適用しようとする産業医や事業者もあるのです。

 

あるいは、通勤訓練や試し勤務の効果判定(復職可否の判定)は産業医の業務なのですが、通勤訓練や試し勤務の後で「もう一度、復職可能の診断書を提出して欲しい」、と言ってくる職場もあるのです。

 

 

産業医の募集では「未経験者可」とする業者もあるため、産業医が通勤訓練や試し勤務に関与しない名ばかり産業医が多くなってしまうのでしょう。

そのような経験の乏しい産業医を雇用した会社は気の毒ですが、復職の判断を主治医に丸投げしてこられても困ってしまいます。

 

職場復帰支援プログラム(リワーク)後の「就労型試し勤務」とは

こころの健康クリニック芝大門の職場復帰支援プログラム(リワーク)では、毎月「復職準備性評価スケール」を行い、復職可能診断書とともに産業医宛に診療情報提供書を送付しています。

懇意にしていただいている産業医がいらっしゃる会社では、こころの健康クリニック芝大門で行っているリワークプログラムの効果と実績をご存じなので、復職可能の診断書を提出するとすぐに復職可と判断され、産業医面談から2週間ほどで現場復帰が可能です。

 

逆に、精神科産業医として企業の他の産業医の先生方と話をすると、「あそこのリワークは信用ならない」と、リワーク後に「試し勤務」を指示する場合がほとんどです。

地域障害者職業センターで行われている「職リハリワーク」だけでなく、悲しいことに「医療リワーク」の信頼も失墜しつつあるようです。

 

判断基準の中の「業務に必要な作業ができる」という項目があり、いわゆる「業務遂行能力」を評価する必要があります。

しかし、業務遂行能力を復職前に完全に評価することはできないでしょう。

復職に向けて、模擬的に作業を行ったり、緊張度合いの高い作業を自宅や図書館で行ったり、リワークプログラムを行うことで、業務遂行能力を評価することはできますが、結局の所最後は、「やってみないとわからない」という限界も知っておく必要があります。

五十嵐.『産業医のピットフォール』中外医学社

 

ちなみに私が精神科産業医として、信用ならないリワークを卒業された社員さんの職場復帰を図る際には、「就労型の試し勤務」と「一時的配慮型の慣らし勤務」のハイブリッドを適用しています。

 

まず、産業医面談で「全般性不安尺度(GAD-7)」や「患者健康調査票(PHQ-9)」などで不安や抑うつ状態の評価を行い、また「シーハン障害尺度(SDS)」で現在の状態をチェックし、復職可と判断した場合は、6時間勤務を2週間、7時間勤務を2週間続けてもらうことを指示します。

 

その間、上司から毎週、当該社員さんの様子について報告をもらい、1ヶ月後に再度、産業医面談を行い、「疲労蓄積度」のチェックと疾患の悪化があるかどうかをアセスメントし、8時間の労務に耐えられるかどうかを判断するのです。

悪化があれば、もちろん、休職期間を延長し、軽減業務(一時的配慮)のまま「慣らし勤務(リハビリ勤務)」を続けてもらいます。

 

このやり方であれば、賃金や通勤費の支払い、労働災害・通勤災害の適用、安全配慮等の民事責任も負うため、職場主導のリハビリ勤務としては、理想的と思います。

 

今回のブログで書いたように、メンタル不調に明るい精神科産業医はごく少数であり、事業者から信用されていない職場復帰支援プログラム(リワーク)もあります。

休職中の方が通院先やリワークを選ぶ際は、実務経験が豊富な精神科産業医がリワークプログラムを行っている精神科やメンタルクリニックを選ぶようにしてくださいね。

 

院長

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