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トラウマによる自分の中のパーツとの関係療法

[2023.08.14]

トラウマと身体』の著者であるパット・オグデンは、①適応的な自己調整と関係性を通して調整していくスキルを学んでいく、②調節不能な活性化を少しずつ調整していく、③状態から状態へと移行できる能力と柔軟性を構築していく、の3つを通して「闘争-逃走反応」の活性化を調節していくことを強調しています。

 

調整の仕方には、認知処理が中心のトップダウン、身体へのアプローチを優先するボトムアップの2種類があります。

トップダウンは身体が安全を感じているときに効果がみられやすいことが知られており、各機能が独立に動作するのではなく、両者の間に状態依存的な相互作用が存在することが示されています。

 

正しいフラッシュバック反応のコントロール:ニューロセプション

最後の課題は、正しいフラッシュバック反応のコントロールができるようになることである。

正しいフラッシュバックとは、防衛的フラッシュバックと言い換えてもよいだろう。本来危害を避けるために生体に生じる反応がフラッシュバックである。

杉山『TSプロトコールの臨床』日本評論社

 

典型的な例では強い恐怖、身体の異常感覚、激しい情動の高まりを伴い、鮮明な侵入的記憶、悪夢の形で、トラウマが今起きているように感じ、1つまたは複数の感覚が反応して起こる「侵入症状」あるいは「再体験症状」として知られる「解離性フラッシュバック」と、杉山先生がおっしゃる「フラッシュバック反応」や「防衛的フラッシュバック」は異なるようです。

 

症例2のクライエント(註:このクライエントは男性から言い寄られるのを避けるために肥満体を維持していた)が痩せることに著しい抵抗が生じるのは、反応としては正しい防衛反応であるが、健康な生活のうえでは支障になってしまう。

同様に、複雑性PTSDのクライエントが威嚇的な大声をあげる人を避けるのは正しい反応であるが、フリーズしてしまうのではなく、社会的な行動をとることができるようになってはじめて、フラッシュバックの克服になるのだと思う。

杉山『TSプロトコールの臨床』日本評論社

 

「フラッシュバック反応」や「防衛的フラッシュバック」は、外的刺激にたいして安全の合図と捉えるか?、危険の合図と捉えるか?、小さな変化を脅威として受け取る神経系である「ニューロセプション」が関与しているようです。

 

例えば、患者の心の中に「イライラする自分」と「子に優しくしたい自分」の両者が存在している。あるいは、「好きなだけ食べたい部分」と「ダイエットしたい部分」や、「電車で過呼吸に苦しむ部分」と「過呼吸を起こす自分にダメ出し・・・・・する部分」の双方に別れている。

こういった分離は、程度の差こそあれ、多くの人に見られるものであろう。

新谷, 小栗. USPT. in あたらしい日本の心理療法. 遠見書房

 

たとえば、「友人がヘアサロンに行ってきた」という出来事を、自分の中の「自動思考担当:Aさん」は、「○○ばかりキレイになってズルイ!(危険の合図)」ととらえます。

一方、自分の中の「適応的・合理的思考担当:Bさん」は、「なんてかわいいんだろう!(安全の合図)」ととらえるかもしれません。

 

このような直観的な認知が「ニューロセプション」です。

 

対話型思考記録とメタ認知を用いた「自己内対話」

複雑性PTSDと摂食障害の自己イメージの回復』で、自分の中の「健康な部分」と「摂食障害部分:ED(エド)」の戦いを終わらせて和解し、統合していくというプロセスを説明しました。

 

自分の中の「自動思考」と「適応的・合理的思考」の対立があるときには、おなじようなやり方が適用できるのです。

 

このやり方は、原田メンタルクリニック・東京認知行動療法研究所の原田先生が、【「対話型思考記録」(別名:「Aさん〜Bさん」欲張り・思考記録)】という方法で、『精神療法の現状に「活」を入れる. 精神療法40(1).2014』で発表されています。

 

気持ちの整理が難しい際、患者に3項目を記してもらう。

  1. 出来事
  2. 「Aさん」の受け止め方
  3. 「Bさん」の受け止め方
      1. 共感、労い
      2. 別の受け止め方(=従来の「合理的・適応的思考」)
      3. 悪循環の指摘(=「Aさんも損ですよ」)
      4. 提案(=当面とる方針の提案)

 

「対話型思考記録」はさらに、メタ認知を使って「Aさん:自動思考」「Bさん:適応的・合理的思考」双方の考え方を止揚していくことができます。

 

タッピングによる潜在意識下人格の統合:USPT】で行うのは、メタ認知を用いた認知的な「内的対話(イン-サイト)」と言ってもいいかもしれません。

 

その際に、「子に優しくしたい気持ちは大切だよね」「でも、子にあんな態度をとられたらイライラしても当然だよね」と両者がお互いを尊重しあえたとすれば、イライラには歯止めがかかり、重篤にならないだろう。

だが、両者の“折り合いのつかなさ”の程度が高くなると、前者のパートと後者のパートの紛争が激化し、順に易怒性、過食、パニック発作といった症状として発現してしまうことになる。

新谷, 小栗. USPT. in あたらしい日本の心理療法. 遠見書房

 

こころの健康クリニック芝大門で行っている、「複雑性PTSD」「発達性トラウマ障害」などの慢性のトラウマ関連障害の治療では、まずフラッシュバックの頻度と強度を軽減することからスタートします。

そして、内在性解離が顕著な人に対してはUSPTによる治療を勧めています。

 

こころの健康クリニック芝大門で行っているトラウマ関連障害の治療によって、多くの人がトラウマ関連障害の症状に圧倒される状態から解放されていきます。

 

しかし、「4.自己イメージの回復:他者との関わりが必要」と「5 正しいフラッシュバック反応(防衛的フラッシュバック)のコントロールができる:ニューロセプションのコントロール」は、もう大丈夫だと思えるまで引き続き取り組んでいく必要があるのです。

 

院長

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