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さまざまな疾患による休職と職場復帰(リワーク)

[2019.10.23]

こころの健康クリニック芝大門の復職支援(リワーク)プログラムには、さまざまな診断で休職中の方が参加されています。 

休職にいたる疾患は、うつ病・うつ状態、あるいは適応障害(職場の人間関係のストレスも含む)だけでなく、双極性障害、パニック障害、混合性不安抑うつ障害、神経性過食症や過食性障害などさまざまですよね。

あるいは背景にある自閉スペクトラム症(発達障害)特性に伴う二次障害として、これらの疾患が表れている場合も多くみられます。

 

仕事に行けなくなったから「休職診断書」を書いて欲しいと申し出られることがあります。
そもそも休職しての治療が必要と判断する場合は、① 症状と葛藤が強く業務を継続することが困難な場合、② 業務の継続に新たなスキルが必要な場合、の2つです。

 

産業医としての休職の判断は、休職中の部署の人員配置や業務の振り分けをどうするかなどを考えざるを得ないので、非常に悩ましい問題です。 

主治医の立場では、こういうやり方をすれば、新たなスキルが獲得できて、同じ部署・同じ業務に戻っても仕事を続けられ、長期的に見て本人にも職場にもメリットになる、という先の見通しがある場合に限り、休職にGOサインを出しているのです。

 

ところが、精神科、心療内科、メンタルクリニックの主治医の先生方の中には、そのような長期的な治療方針をお持ちの方はごく稀のような印象があります。

多くの場合は、薬を出すだけの5分診察、通院間隔も2週間から1ヵ月で、漫然と休職させているだけで、挙げ句の果てには、転職や退職を勧めたりなど、ほんとうに患者さんの生活や人生まで思いを馳せていらっしゃるのか?と、悔しくなることも多いのです。

 

補則ですが、高校生や大学生の場合、病気の治療中であっても、可能な限り通学していただくことを原則にしています。(ただし成績は問わない)
学校を休みがちで出席日数が不足し、単位が取れないと必然的に留年になります。同じ学年に復学することが難しい場合、復学する時のハードルはさらに高くなります。
休学から復学しても、知り合いもほとんどいない孤立無援の環境で単位を取得するハードルの高さを考えると、よほどのことがない限り、こころの健康クリニックでは休学はお勧めしていません。

 

話は戻って、たとえばうつ病(大うつ病性障害)の場合は、精神運動制止(頭が働かない)ことで仕事のパフォーマンスが低下しているにもかかわらず、人に迷惑をかけてはいけないと、なんとしても仕事を続けようとしてしまいます。これが葛藤です。

 

葛藤はもともと神経症の特徴とされていました。

 

神経症とは、不安、恐怖、強迫、抑うつ、離人、心気、ヒステリーなどの症状があり、日常生活に支障をきたすような状態となっているもの。

精神病とは異なり、原則として幻覚や妄想は認められず、病識はあり、現実検討能力が保たれているもの。

平島『不安のありか』日本評論社

 

神経症の場合には、葛藤を減らし障害の程度を軽減するために休職診断書が出されるのです。

 

神経症と似た言葉に「心身症」があります。

心身症は、胃・十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、糖尿病、気管支喘息やアトピー性皮膚炎、狭心症や心筋梗塞など、発症や増悪・軽快に心理的な影響があるとされています。

しかし心身症は身体疾患ですから、心の不調や精神疾患に対する精神療法的なリハビリ治療の一環であるリワークプログラムの対象にはならないのです。

 

休職してある程度症状が改善してきて、生活リズム(睡眠覚醒リズム)が安定してきたら、職場復帰に向けてのリハビリ治療としてリワークプログラムが導入されます。

 

ほとんどのリワークプログラムは、うつ病・うつ状態、あるいは適応障害に限定して行われています。

それに対して、こころの健康クリニック芝大門のリワークプログラムは、気分変調症や双極性障害のうつ状態、女性に多いパニック障害、社交不安障害などの不安障害、摂食障害(神経性過食症、過食性障害)など、慢性的に経過した疾患も対象にしています。
また男性に多い過敏性腸症候群は、身体表現性自律神経機能不全とも診断されますから、こころの健康クリニック芝大門では、リワークの対象疾患に入れています。

 

もともと、リワークプログラムはうつ病(大うつ病性障害)や適応障害の多くの人にはマッチしますが、再発性のうつ病や、双極性障害や気分変調症など慢性的なうつ状態、何度も繰り返す適応障害にはうまくマッチしないことがあります。また、リワークプログラムは、社交不安症や強迫症との相性は良くない、とされていました。

こころの健康クリニック芝大門で行っているリワークプログラムは、他の多くのリワーク施設と何が違うのでしょうか?

 

これらの違いは、疾患モデルの考え方と介入法が異なるからなのです。

 

急性疾患としてのうつ病(大うつ病性障害)の回復過程で、症状の回復レベルと会社で要求される継続勤務レベルのギャップを埋めるためのリハビリテーションとしてリワークプログラムが考え出されました。

骨折した後に、以前のように歩いたり走ったりできるようになるために、負荷をかけて機能の回復を目指すリハビリと同じ考え方です。

 

一方、再発性のうつ病や、さまざまな要因によるうつ状態(双極性障害や気分変調症をふくむ)や、何度も繰り返す適応障害、あるいは背景にある自閉症スペクトラム(発達障害)、女性の方が多いと言われるパニック障害など不安障害、神経性過食症・過食性障害などの摂食障害などは、「慢性疾患モデル」で考える必要があるのです。

 

大雑把に説明すると、急性疾患モデルでは再燃・再発の防止が主なテーマになりますが、慢性疾患モデルでは再燃・再発は起きることを前提にして、そのときの対処法やスキルの獲得がメインテーマになるということです。

そのために、慢性疾患モデルでのリワークプログラムは、集団プログラムと個人プログラムの比率を変える必要がありますし、個人プログラムでの治療焦点も急性疾患モデルと違う取り組みが必要になるのです。

 

例として対人関係療法で考えてみましょう。

もともと急性疾患としての大うつ病性障害の治療法として作られた対人関係療法を、慢性のうつ状態である気分変調症や、病悩期間が長い神経性過食症、過食性障害に適用するためには、現実の対人関係だけでなく、個人内の心的過程を対人関係として扱うことができるように修正する必要がありました。
対人関係療法では個人内の心的過程を扱わないから治せません、と言っている場合ではなくなってきたのです。

 

慢性疾患のリワークプログラムは、通常の認知行動療法のように認知再構成をもとに状況に対する行動を変えていくやり方では十分な効果が上がらないことが多くあります。

こころの健康クリニック芝大門のリワークプログラムでは、セルフ・モニタリングを共通プログラムとして、内部感覚や注意制御などに焦点を当てるメタ認知や、通常の対人関係療法にメンタライジング能力やリフレクティブ・ファンクションのスキルを高める技法をプログラムに組み込んだことで、さまざまな疾患に対する復職支援が可能になったのです。

 

リワーク(職場復帰)プログラムと自分の考え方との向き合い方』で取り組み方を簡単に説明していますので参照してみてくださいね。

 

院長

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