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青年期から成人期の過食や過食嘔吐の治療

[2019.11.21]

思春期・青年期の発達課題は「アイデンティティ(自我同一性)」の確立と言われます。
自分自身との関係、二者関係、集団や社会との関係の、自己固有性を確立していく時期です。

 

18歳未満の神経性やせ症・過食排出型の治療では、個人療法の効果が乏しく、家族をベースとする治療の効果が大きいことが報告されています。(『家族の力で拒食を乗り越える』参照)

 

アイデンティティの確立期という発達段階を考えると、小児期と成人期の狭間である思春期・青年期では、家族が心地よく過ごせること、「家庭を安心できる療養の場にする」ことを治療の土台にしていくことが必要不可欠だということですよね。

 

過食症:食べても食べても食べたくて』にも、「コミュニケーションの難しさや葛藤の解決方法など、家族の力学を探究していくと、肯定的な家族関係の基盤を新たに作り出せるかもしれません」と、摂食障害から回復するために家族関係に注目することを勧めています。

 

摂食障害からの回復では、家族が一番の協力者となり得ます。
あなたの年齢やあなた方の関係には関わりなく、家族はあなたの人生に、そしてある程度は過食症に、深刻な影響を与えているのです。

(中略)

あなたがまだ若くて親と同居しているのであれば、家族の方に回復のプロセスに参加してもらうことを強くお勧めします。

(中略)

親があなたの過食症について知らないのであれば、ぜひ率直に話をしてみましょう!
もしもすでに知っているのであれば、回復を目指していて、親に助けて欲しいと思っていることを伝えましょう。
率直に言いますが、親の知らないうちに過食症から回復するというのは、事実上不可能だと思います。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

すでにジェニーさんは成人していましたが、家族に自分の摂食障害を打ち明け、話をしたとき、ジェニーさんの両親は、精神的に支えたり、慰めたり、愛情を注いだりすることによって、治りたい気持ち(健康な部分)の味方になってくれました。

 

思春期・青年期では、アタッチメント対象であった両親からの庇護的な世話は減り、一人前の大人として認めてほしい対称性をめぐる争いが起きてきます。
このようなアタッチメントの対象との関係が変化する時期は、反抗期と呼ばれています。 

青年期後期から成人期初期、つまり大学生から社会人として働き始めるくらいの時期は、二者関係を拡張していく時期です。
アタッチメント対象が両親から恋愛パートナーに移行し、対称的(対等な関係)で、互恵的(ギブ&テイク)になっていきます。

 

明らかに、あなたが家族と住んでいるかどうか、あるいは誰かと恋愛関係、婚姻関係にあるかどうかによって、家族から得られる支援のレベルは変わってきます。

あなたがまだ若くて親と同居しているのであれば、家族の方に回復のプロセスに参加してもらうことを強くお勧めします。

また、独立して生活しているとしても、親きょうだいから助けてもらうことはできるでしょう。

最後に、誰かと真剣な恋愛・婚姻関係にあるのならば、その人が味方になってくれるはずです。

(中略)

ほとんどの人が助けを求めて家族に頼ることができますが、そうできない人も中にはいます。
親やきょうだいがあなたに悪影響を及ぼす、虐待的である、乗り気でないという状況では、家族の力を借りない方がうまくいくこともあるでしょう。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

私自身の臨床経験では、青年期後期から成人期初期では、「神経性過食症」「過食性障害」、あるいは「気分変調症(慢性うつ病)」の治療で、両親や交際相手との関係やコミュニケーションに焦点を当てる対人関係療法のすすめ方がうまくいかないことが多かったのです。

そのことをずいぶん悩み、対人関係療法の効果を高めるヒントを探して、いろんな文献を読み漁り、いろんなワークショップで学び、ました。

解決のヒントを示してくれたのが、『吉本隆明「心的現象論」の読み方』という本と、クリッテンデン先生の「アタッチメントの動的−成熟モデル」のワークショップでした。

折しも『摂食障害から回復するための8つの秘訣』が出版され、食い入るように読んでいるときに気づいたのですが、「自分との関係」「行動の仕方」「他者との関係」を改善していくことが「むちゃ食い症(過食性障害)」から回復する課題であると『グループ対人関係療法』に書いてあったことに思い至り、灯台下暗しだったなぁと感じ入ったんです。

 

上に書いたように、青年期後期から成人期初期ではアタッチメント対象は両親から交際相手に移行します。

しかし「神経性過食症」「過食性障害」あるいは「気分変調症(慢性うつ病)」では、思春期・青年期の発達課題のうち「自分自身との関係」「集団や社会との関係」の「自己固有性(アイデンティティ)」の確立が未達成なので、アタッチメントの動的成熟モデルの観点から、この部分(発達の最近接領域)に焦点を当てる必要があったのです。

 

いずれにしても、親がどのようにあなたの回復に関わってくれるかに関係なく、今の生活にまで影響を及ぼしている可能性のある、生まれ育った家族の信念や習慣について、自分なりに考えてみましょう。
例えば、あなたはずっと昔に教え込まれた家族の決まりに、いまだに縛られているかもしれません。

(中略)

これらの決まりや思い込みは、昔はそれなりに意味があったのかもしれませんが、家族と離れて暮らすようになった現在、本当のあなた自身を見つける過程では、必ずしも役に立つものではありません。
食べ物や体重についての思い込み、あなたの判断基準、完璧主義的な性格、自尊心の低さなどについて探究し、それらがどのように家族に影響されたものなのか、考えてみてください。

(中略)

家族に回復のプロセスに参加してもらうにせよ、してもらわないにせよ、家族の影響を改めて見つめ直してみるのは、とても役に立つことです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

リンジーさんが勧めているとおり、ジェニーさんは「生まれ育った家族の信念や習慣」「食べ物や体重についての思い込み」にエドと名前をつけ、エドとの「役割期待の不一致(不和)」を終わらせるために「自分自身との関係(自己内対話)」にとり組みました。
その上で、摂食障害のグループセラピーの中で、集団や社会との関係を見直していったのです。

 

ジェニーさんが行ったように、自分と他者の心の状態に思いを馳せる能力である、「メンタライジング能力」の回復することによって、対人関係上の機能不全を修正することが可能なのです。

 

気分変調症(慢性うつ病)の治療でも同じ取り組み方ができるのです。

過食や過食嘔吐を治したい、もしかしたら性格の問題かもしれないけれど生きづらさを何とかしたと考えていらっしゃる方は、こころの健康クリニック芝大門に相談してみてくださいね。

 

院長

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