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中期から慢性期の過食や過食嘔吐の治療

[2019.04.08]

「摂食障害における嗜癖性の臨床的意義」(精神科治療学 33(11): 1321-1325, 2018)の中で、摂食障害の経過が3段階で考察されていました。

その3段階とは、さまざまなストレスに対して反応性に拒食や過食が生じる発症後1、2年までの「初期」、症状が持続して数年が経過し摂食障害患者特有の自己中心性(自己愛性)が前面に現れる「中期」、そして、摂食障害の病理としての自己中心性に加えて嗜癖性が大きくなってくる発症後7年から10年以上が経過した「慢性期」です。

 

「摂食障害症状はストレスの表れ」という考え方は、「手近なストレス軽減手段(気分解消行動)」が反応性に起きる「初期」の状態ということです。
重要な他者とのコミュニケーションに焦点を当てる従来の対人関係療法が有効なのは、発症後3年以内のごく初期に限られるかもしれないということですね。

 

過食や過食嘔吐などの気分解消行動を「衝動的」に繰り返すことでストレス耐性が低くなると、他人からの評価が気になるようになってきます。
その結果、ネガティブな感情を引き起こす可能性のある対人関係やストレスを感じそうな状況を避けたりすることで、自己評価がますます下がってしまいます。
これが「中期」の「自己中心性(過敏型自己愛性)」です。

 

上記論文の著者である野間先生は「摂食障害が単なる嗜癖疾患ではないというのは、摂食障害特有の自己中心性を伴っているためなのだろう」と考察されています。

リンジーさんも食べ物との関係に自己中心性を感じたようです。

 

私は新しい方法で食べ物にアプローチすることにしました。
実際、食べ物が私の教師となったのです。なぜなら、私が食べ物を扱う方法は、自分自身の扱い方にとても似ていたからです。
私は、食べ物は重要なものではなく、使い捨てで、大切に扱うだけの価値はないと感じ、私自身に対しても同じように考えていました。

そこで、食べ物に「よい」または「悪い」とレッテルを貼れば、食べ物に私を支配させてしまうので、それはやめることにし、何でも——怖がらずに——食べられるようになろうと思いました。

(中略)

とらわれていた監獄からは、どの・・監獄からであっても、釈放されたかったのです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

リンジーさんは、「私が食べ物を扱う方法は、自分自身の扱い方にとても似ていた」と食べ物との関係が自分自身との関係を反映していることに気づきました。

摂食障害から回復するための8つの秘訣』でも「食べ物との関係と人間関係は似ている(p.102)」と、自分の特性がどのように行動に影響しているか?、食べ物との関係と人間関係がどんな関係にあるか?、を振り返る練習がありますよね。

 

衝動的な気分解消行動は、「性急自動衝動性(状況判断なしにすぐに行動してしまう:過食衝動性)」と「報酬感受性(早く報酬を得られるならば少なくてもかまわない:摂食嗜癖行動の習慣性)」が関連していることを何度か説明しましたよね。

過食や過食嘔吐という衝動的な気分解消行動が繰り返されることで、「摂食行動嗜癖(イーティング・アディクション)」がメインになってきます。
そうなると、過食や過食嘔吐という嗜癖行動を手放すことへの恐怖から、嗜癖であることを否認すると同時に、自分がこうあるべきという理想を掲げる「強迫性」も強くなってしまいます。

 

九年間もの間食べ吐き(過食嘔吐)を続けていたリンジーさんは、まず、食べ物に対する「良い」「悪い」あるいは「安全」「危険」という「評価(レッテル貼り)」と向き合いました。

食べ物にレッテルを貼ることで「食べ物に自分を支配させてしまう」という非常に大切なこと(!)に気づいたのですよね。

 

脱線しますが、同じことが人間関係(対人関係)にも当てはまります。

他者に対して「良い」「悪い」と「レッテル貼り」をすること、つまり他者を主語にした内語(決めつけ)によって、頭の中の思考に過ぎなかった「評価(ジャッジメント)」が現実のように感じられてしまうと同時に、他罰的・他責的になり、自分自身の主体性が損なわれてしまうのです。

うつ病の治療法を過食症に適用した古典的な対人関係療法で行われてきたように、重要な他者である親を責めたり、病気を盾に強制的に従わせたりすることは反治療的とされています。(『日本では、摂食障害は親の愛情不足が原因と言われる?』『罪を憎んで親を憎まず』『自分の行動は自分で選ぶ!』『そうは言っても(昨日の続き)』なども参照してくださいね)

対人関係の改善という継続的な外的行動変容を起こすためには、まず「自分自身が変わること」、つまり「内的な構造変容を生み出すこと」が必要なのです。

〜閑話休題〜

 

またリンジーさんは、「空腹を感じるまでは食べない」、「体重計に別れの手紙を書いた後で金槌で壊し」、「数字には支配されない」と自分自身に誓い、空腹感という身体感覚を頼りに、衝動性・強迫性という「行動の仕方を変えていく」ことで、「自分自身との関係」を改善していったのです。(『摂食障害の月経前症候群と月(身体)のリズム』『気持ちに気づくことが摂食障害からの回復の第一歩』参照)

「今、この瞬間の体験(この場合は空腹感)に意図的に意識を向け、 評価(レッテル貼り)をせずに、とらわれのない状態(怖がらずに食べる)」はマインドフルな状態と呼ばれますよね。

 

私は、嘔吐はしないと心に決めて、過食を計画し、一日中その計画通り、過食をしたのです。私は、心の奥底から、私は何でも食べられる、食べ物をコントロールできるということを確かめたかったのです。

(中略)

毎日、一日三食と、食間に少量の間食をとるという約束を守ることにしました。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

このような取り組み方は、摂食障害の認知行動療法(CBT-E)ではステージ1の「セルフモニタリング」、および「体重・体重測定と体重への懸念」「規則正しい食生活」でとり組む内容と全く同じですよね。

摂食障害の認知行動療法では心理教育が入りますが、リンジーさんはリーさんの助けを借りながら、CBT-Eのステージ1と同じような課題に独力でとり組まれたわけです。

 

一人だったら絶対に試さなかったような挑戦を行い、それは私に大きな自信を与えてくれました。

しかし、過食症から回復中の人は・・・・・・・・・・・誰かの支援と見守りなしにこのようなことはしない方がいいでしょう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

「中期」から「慢性期」の過食や過食嘔吐の治療では、治療者との関係性の中で、食行動の修正にとり組んでいくと同時に、患者さんのパーソナリティ傾向や背景にも目を向け、「社会性(二者関係や集団との関係)」にも焦点を当てながら、「生きづらさ(自分自身との関係)」を解消していく新しい対人関係療法(IPT-ED)のすすめ方が必要になりますよね。(『治療を受けて楽になった理由』を参照してみてくださいね)

 

院長

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