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過食症状の意味に向き合う

[2018.12.03]

年末が近づいてくると、神経性過食症(食べ吐き)や過食性障害(むちゃ食い)の食行動症状を抱える人にとっては、すごく気の重い時期を迎えることになりますよね。

学生さんは試験や年明けに迫った受験のことで焦りがでてくる時期ですし、また、社会人の人にとっては、会食や飲酒の機会が増え苦手な人たちと顔を合わせ同席することに頭を悩ませる時期になりますよね。

この時期は、「乱れた食行動(摂食障害症状)に悩む女性たち」にとって、苦悩の季節といえるのかもしれません。

 

過食症の人たちは自分が病気になった原因としてさまざまなものを挙げることがあります。
最初に過食した具体的な理由も、その過食が結果としてどのように役だったのかも覚えているという人が大勢います。
やめられなくなるかもしれないと考えた人はほとんどいませんでした。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

「やめられなくなるかもしれない」と考えなかったのは、「状況判断をすることなくすぐに行動に移してしまう(性急自動衝動性)」「少ない報酬であっても少しでも早く得ようとする(衝動過敏性)」という特徴によって、その場限りの対処法にしか考えが向かず、中期・長期の影響を考慮できなかったことも関係しているのかもしれませんね。

 

甘い物を何気なく口にしたときの安堵感とストップできなくなったときの焦り。
クリスマス会や忘年会で食べすぎたと感じたときに思いついた自己誘発嘔吐という方法。

それらのさまざまな考えや気持ちを、過食症症状(食べ吐き)は帳消しにしてくれるように感じてしまうことで、乱れた食行動の悪循環が始まってしまいます。

 

いったん過食—代償行為の悪循環が始まってしまうと、そもそもの原因と、摂食障害行動に伴う罪悪感や羞恥心、秘密にしなければという思い、身体的副作用、苦痛な感情から逃げたいという気持ちなどがごちゃ混ぜになってしまうのです。

根本にある理由とは無関係に、過食症はさまざまな点で「役に立ち」ます。
過食は即時の安堵感を与えてくれますし、他のあらゆる活動、思考、感情の代わりとなってくれるのです。

心は食べ物のことと、どの食べ物をどのように食べようかということにしか向かわなくなります。感情は一時保留状態に置かれ、嘔吐でさえも、自分の身体との密接なかかわりを感じられる心地よいものとなります。

過食—嘔吐の一連の行為が修了すると、短時間ですが、過食症の人はコントロールを取り戻したように感じます。あれだけ多く食べたという罪悪感はもはやなくなり、出すものを出し切って、リラックスして、気分も高揚してくるのです。

しかし、すぐにこれらの感情は否定的なものへと移行し、この、苦痛で、衰弱、疲労の原因となる一連の行動が繰り返されるのです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

最初は体重・体型・外見を自分の理想通りにしたいと考えることから始まった「乱れた食行動」は、その支配領域を感情調整や対人関係にまで広げていき、少しずつ人生が狭められてしまい、「乱れた食行動」が自分の考えや価値観、そして人生までも支配してしまうのです。

それなら、すぐにでも過食(むちゃ食い)や過食嘔吐(食べ吐き)をやめればいいのか?というと、そんな簡単にはいかないのです。

 

過食嘔吐行動をやめるためにかかる時間は人によってさまざまです。

きっぱりと即座にやめられた人の話も聞いていますし、何カ月、何年もの時間をかけてゆっくりと過食の回数を減らした人の話も聞いています。

(中略)

思い出していただきたいのは、過食症には目的があるということです。つまり、何らかの点でその人の役に立ってくれている、たぶん、不安への対処や恐ろしい記憶の抑制を助けているということです。

このような対処法を取り上げて、回復へと向かうことを強要するのは、溺れかけた人に救命胴衣を脱いで岸まで泳ぐことを期待するようなものでしょう。

ほとんどの人は、治療の中で人生に対処するための新しい方法を学ぶことで、過食症を全面的に手放す準備がより整うのです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

神経性過食症(食べ吐き)や過食性障害(むちゃ食い)に伴う過食症症状は、感情を感じなくてすむという目的があるのです。

ですから「乱れた食行動(摂食障害症状)」を手放すためには、まず、感情や身体感覚を感じられるようになること、感じた感情や身体感覚を抱えておけるようになること、そして感情や身体感覚が伝えているニーズに応えること(情動調整・感情コントロール)、などの心のスキル(考え・感情・情動のコントロールについての気づき)を身につけることが最優先事項なのです。

 

とはいえ、どのような場合でも、この行動をやめるということは、一度開ければあらゆる他の問題が飛び出してくるというパンドラの箱を開けるようなところがあります。

箱の中には、過食症が始まって長く続いてしまった理由や、過食症が新たに生み出した問題なども入っていて、そのすべてが解決を必要としているのです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で行っている摂食障害の対人関係療法による治療でも、「治療初期には症状が増悪したようにみえる」ことがあることを「パンドラの箱」のたとえを使って説明していますよね。

 

治療の初期に「自分の気持ちをよく振り返ってみること(心の状態の変化についての気づき)」で自分との関係の改善に取り組んでいるときには、これまで過食症状を使って、なだめ、感じないように、麻痺させてきた心の空虚感と向き合うことになります。

空虚感や孤立感など「過食症が始まって長く続いてしまった理由や、過食症が新たに生み出した問題」と向き合うわけですから、一時的に症状が悪化したように感じるのは当然のことなのです。
(Akoさんの「摂食障害が教えてくれること」の「暴走。」を参照してみてくださいね)

 

逆に言えることは、「治療初期に症状が悪化したように感じられる」ことは、根底にある問題ときちんと向き合えて治療が進んでいる証拠でもあり、また、「乱れた食行動(摂食障害症状)に悩む女性たち」にとってその治療は効果があるということでもあるのです。

そして「治療初期に症状が悪化したように感じられること」を乗り越えるためには、〔行動変容を動機づける5段階(『8つの秘訣』P.24)〕のうち、変化の動機づけを維持できる「準備期」に達しておく必要があるということなのです。

 

院長

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