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摂食障害からの回復に必要な体験の仕方の選択

[2018.07.09]

行動の仕方を改善する(心の状態の変化についての気づき)」に取り組む前に、「考え・感情・情動のコントロールに対する気づき(自分との関係を改善する)」が必要になります。

三田こころの健康クリニック新宿の専門外来で対人関係療法による摂食障害の治療を導入するときに、「自分の選択に自覚と責任をもつ」の中で「体験の仕方を選択する」という表現をしますよね。

どういうことかというと、「何が起きたのか?」という出来事の内容ではなく、「その出来事をどう体験したのか?」という体験の仕方が重要だということです。

「乱れた食行動で悩む女性(摂食障害の患者さん)たち」の多くは、〔いま・ここ〕で起きている出来事を体験しているのではなく、「こうにちがいない」と頭の中で「過去の体験にもとづくパターン化した解釈をあれこれ考えていること(脳内劇場)」を体験していることが問題なのです。

 

『思春期・青年期の発達課題とアタッチメント』で「特定の表情が浮かんでいない真顔を悪意ある怒りの表情と誤って知覚する」患者さんの例を挙げたことがあります。

「体験の仕方を選択する」とは、他者の表情や言行から何を読み取りどう解釈するか、あるいは自分はいかに応答するかといったことに関わる対人的な情報処理過程をどのように内省(メンタライズ)することができるか、という能力にかかっているのです。

 

人間は単純に生物学的に強化された随伴性や、生得的動因や、過去の体験だけによって決定されているわけではない。人間には創造性と主体性があり、気づきを得て選択することができる。

個人は社会という場における相互作用のなかで意志と目標をもつ行為主体であり、気づきと選択と文脈が最終的な行動の決定因となる。

グリーンバーグ『エモーション・フォーカスト・セラピー入門』金剛出版

 

上記の引用の「気づきを得て選択する」や、対人関係療法の取り組みの「考え・感情・情動のコントロールに対する気づき(自分との関係を改善する)」で「気づき」という言葉を使っているのは、「内省(メンタライズ)する」ことの重要性を表しているのです。

上記の例でいうと、特定の表情が浮かんでいない真顔を、悪意ある怒りの表情との解釈を選択するのか、考え事など相手の心の中で何かのプロセスが起きている状態との解釈を選択するのか、どちらでも主体的に選ぶことができるということです。

 

しかしながら「乱れた食行動で悩む女性(摂食障害の患者さん)たち」の多くは、特定の表情が浮かんでいない真顔という刺激を自分に関連づけ、自動的に悪意ある怒りの表情だという解釈を選択してしまいます。

そしてその解釈(思考)の選択によって反応(ネガティブな感情)が生じ、その感情を無くさなければという切迫感によって、過食あるいは嘔吐という「過剰に学習された衝動的な不適応な気分調節行動」を使ってしまうのです。

 

いろいろと狭くする「乱れた食行動(摂食障害症状)」から抜け出したい、摂食障害症状を解消したいと願うことにも注意が必要です。
そこには回避機制が働くからです。感情を受容する場合に比べて過食衝動を抑制するとますます感情から逃れられない状態を招いてしまうからなのです。(『摂食障害から回復するために回避されてきた気持ちに向き合う』参照)

 

このように思考や気分を抑制すると、それらが一層頭から離れず、自らをかき乱す存在となってしまう。
笑いをこらえようとすればするほど、かえって笑いたくなってしまう理由もここにある。同様に、怒りを抑制しようとすればするほど、生理学的な反応も上昇する。
このような逆説的な効果から、抑制は一般的に不適応的な感情制御方略として考えられている。

(中略)

しかしながら、常に適応的、あるいは不適応的である方略は存在しない。
すなわち、方略が適応的か否かは、状況や文脈、目標達成、その方略がいかに用いられるかなど、様々な要因に依存して規定される。

感情の抑制は、不適応的な方略の典型例としてよく取り上げられる。
しかし、ある状況を乗り切る上で、たとえ最善の方略ではなくとも、抑制が適応的な方略となりうる状況は数多く想定される。たとえば、険悪なムードにおける怒りの抑制や、親族・友人の葬儀における笑いの抑制は、極めて適応的なものである。

その一方、意図せず逆効果へとつながる場合には、抑制は不適応的な方略となりうる。
たとえば、感情の抑制は生理学的反応を覚醒させる。反対に、感情を変化させたり、避けようとしたりせず、それを受容する態度を取る場合、困難な状況における粘り強さの上昇や、主観的な苦痛の軽減がもたらされる。

ホフマン『心の治療における感情』北大路書房

 

三田こころの健康クリニック新宿の専門外来では、対人関係療法による摂食障害の治療の一番最初に「自分の反応や気持ちをはっきりつかみ、コントロールし、表現することを学べば、自分を落ち着かせたり、慰めたりするために、食べ物に走らないですむようになります(『グループ対人関係療法』)」を引用し、感情との向き合い方として抑制受容再評価という心の使い方の違いを体験的に教えていますよね。

 

 

 

 

 

「気質」と「性格」を知ることが摂食障害の治療に役立つ』で「乱れた食行動で悩む女性(摂食障害の患者さん)たち」の行動特性として以下の2つがわかっていることを説明しました。

(1) 少ない報酬であっても、少しでも早く得ようとする(衝動過敏性≒固執)
(2) 状況判断することなく、すぐに行動に移してしまう(性急自動衝動性≒新奇性追求)

「乱れた食行動で悩む女性(摂食障害の患者さん)たち」にとって、状況や文脈、目標達成に対して「抑制」という方略は不適応的反応であることが多いのは、上記の「少ない報酬であっても、少しでも早く得ようとする」ことと関連しています。

これが「過剰に学習された衝動的な不適応な気分調節行動」ということなのです。

 

「乱れた食行動(摂食障害症状)」から回復するときには、「気づきと選択と文脈」に対して「行動の仕方を変えていく(心の状態の変化についての気づき)」ことに取り組む必要があり、その土台が「考え・感情・情動のコントロールに対する気づき(自分との関係を改善する)」ですよね。

 

院長

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