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アタッチメント(愛着)の泉の封印を解く

[2017.07.03]

患者さんの中には、「感情をコントロールできない」「感情をコントロールできるようになりたい」とおっしゃる方がいらっしゃいます。

摂食障害の患者さんの場合、「感情をコントロールできるようになりたい」との思いは、「過食をガマンできるようになりたい」「過食が起きないようにしたい」ことと等価であるようです。

 

「ストレス解消のための過食」は、ある出来事をストレスだと認識した結果、それに反応してネガティブな感情が生まれ、そのネガティブな感情をなだめ、麻痺させるために過食が起きていますよね。

過食をガマンしたとしても、ネガティブな感情が消えるわけではなく、さらに、出来事の認識の仕方も変わっていないので、何度も何度もよみがえってくる(反芻が起きる)のです。

感情は、認識(概念や思考)に対する反応ですから、抑えることはできません。海の波のような自然な反応を大きな板で抑えようとすれば、ますます波立ってしまうことになるのです。

 

心を開いて、感情の威力を正面から受け止めてはじめて、感情は乗り越えなければならない障害ではなく、英知や導きへの通り道であると理解するのです。そして、感情を抱かないようにするために、食べたり拒食したりする必要がなくなるのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

摂食障害から回復するために身につける必要があることは、感情を変化させるために認識の仕方を変えることではなく、感情との向き合い方です。

セルフ・コンパッション』では、苦悩や不完全さは、人間なら誰しも共通して経験するものの1つ、つまり、「私」にだけ起こったものではなく全ての人間が経験するもの、という認識が必要と表現されています。この時に必要な心の姿勢が、誰しも感じる「苦痛」を「苦悩」に変えない、心についてのマインドフルネスにもとづく「自慈心(セルフ・コンパッション)」です。

ところが発達課題、とくに思春期のアイデンティティの確立が十分でないと、愛着障害ではないかと思っている人と同じように、自分が感じている苦悩や不全感・空虚感は幼少期に他者からの庇護が十分でなかったためではないかと感じられてしまい、苦悩や不全感との闘いに躍起になってしまいますよね。

 

乱れた食行動で苦しむ女性たちが、お姫様のように実際に母親との別れを経験したわけではないとしても、理由は何であれ、彼女たちはインナーマザー(内なる母親)、つまり自分を慈しんでくれて、思いやりにあふれた導きを与えてくれる側面とのつながりを失ってしまっています。
感情を拒絶したり批判したりすることで、切望している導きやサポートを得ることができず、いつも栄養が足りていないように感じ、それを食べ物で補おうとするのです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

乱れた食行動(摂食障害症状)で苦しんでいる人は、自分自身の心とのつながりが断たれており、自分自身を癒やすことが難しくなっています。

何もすることがないとき、退屈を感じたときにダラダラ食いが起きるのは、心の空虚感や満たされなさを食べ物を使って埋め合わせようとする試みですよね。本来であれば、満たされなさを満たすのはインナーマザー(内なる母親)、つまり自分の心の中に内在化された「表象性の感覚」なのです。

ですから、成人期以降に他者にそれを求めることは問題なのです。

 

当然のことながら、自分に関する感じ方を変える上ですべてを他者に頼ることには問題がある。恋愛関係には終わりが訪れ、担当のセラピストが変更になったり費用が負担できなくなったりする場合もある。また、病気や落ち込み、仕事のストレスなど、私たちが必要としている人々もしばしば問題を抱えている。

幸い、自己に対する見方を変えるために他者に頼る必要はない。自分に愛情を込めた世話と理解を提供するとき、私たちは思いやりと受容が価値あるものだと感じるようになる。自分に対して共感と支援を提供する場合、私たちは救いの手がすぐそばにあると信じるようになる。自己に対する思いやりの腕で自分を包み込むとき、私たちは安全と安心を感じるのである。

ネフ『セルフ・コンパッション』金剛出版

 

「親が変わってくれないから自分は安心できない」「親が協力してくれないから愛着障害は克服できない」などと考えていらっしゃる方は、【自己に対する見方を変えるために他者に頼る必要はない】ことをしっかりと胸に刻んで、「いま辛いとしたら、自分がそういうとらえ方をした」ということと、「自分が辛くなるような選び方しか今はできないというプロセス」ということを、自分に対して認めてあげる必要があります。

 

彼女たちは、子どものことを過度に甘やかすのではなく、バランスよく愛情でもって世話ができる、より成熟したインナーマザーを育てる必要があります。
子どもが本当に必要としているものを見抜き、チョコレートを欲しがっているように見えても、その裏に潜んでいるニーズを理解し、本当の満足感を与えてあげられるようなインナーマザーです。
感情を批判するのではなくサポートしてくれ、何かを決めるときには直感と常識の両方を使い、今まで自覚していなかったことに気づかせてくれるようなインナーマザーです。

ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

 

過食症やむちゃ食い症から回復するためには、感情を含め自分の心との向き合い方を変えていくことと同時に、自分の心の中にある「慈しみの泉」の封印を解き、その部分とつながる必要があります。

素敵な物語』では説明してある「成熟したインナーマザー」を育てること、つまり自分の心の中にある情動調節機能を高め、自分自身に安定型の愛着を向けることができるようになることは、自らの「慈しみの泉」の封印を解くことなのです。

 

数年前に自分への愛は自分自身との絆を伴うという考え(Swanton, 2003)に触れたとき、私には、安定型の愛着を自分自身と関わるためのモデルと考えることもできるという考えが浮かんできました(Allen, 2005)
言い換えれば、人は、メンタライズすることとマインドフルであることによって———つまり、自分の感情に注意を向けること、それを受け入れること、その根底にあるものに興味を持つことによって———情緒的苦痛に対処することができるだろうということです。
このような態度で、人が他者を慰めるか他者からの慰めを受け取るのとちょうど同じように、人は自分自身を慰めることができるでしょう。

アレン『愛着関係とメンタライジングによるトラウマ治療』北大路書房

 

三田こころの健康クリニック新宿で行っている対人関係療法で強調する「自分との関係を改善する(心の状態の変化についての気づき)」は、治療の一番最初に取り組んでいく課題であると同時に、心を成熟させていくプロセスでもあるのですよね。

 

院長

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