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チューイング(噛み吐き行為)は摂食障害なのか

[2015.09.14]

「排出性障害」と「夜間摂食症候群」』や『排出性障害と回避・制限性食物摂取障害』でふれた「チューイング(噛み吐き行為)」は、食べものを口に入れてくりかえし噛み、飲み込まずに吐き出すという行動を主とし、正式には「チューイング&スピッティング・アウト(chewing & spitting out)」と呼ばれます。

ICDでは「非定型神経性過食[大食]症」とされており、DSM-5では「他の特定される食行動障害または摂食障害」の「排出性障害」とされることが多く、摂食障害の重症度と関連があると報告されています。

 

たしかに、「チューイング(噛み吐き行為)」は、体重増加を回避する行動とみなされることもあります。実際、チューイングを有する群では、過剰なカロリー制限や運動、絶食など、摂食障害を重症化する食行動異常を有意に認めたとする報告もあります。

 

「チューイング(噛み吐き行為)」は、実際には食べ物を飲み込んでいないために、以下の「過食(むちゃ食い:binge eating)」の定義を満たしません。

2時間以内などのはっきりした時間内に、ふつうの人なら食べられない大量の食物を食べる
むちゃ食いの最中に、食べることを制御できないという感覚を伴う

また「チューイング(噛み吐き行為)」は、「だらだら食い」もあるため、神経性過食症(嘔吐を伴う過食症)の診断には当てはまらないことも多いのです。

 

しかし実際には、大量の食物を噛んで吐き出すことが可能で、神経性過食症と同じように、食べものに出費がかさみますし、ときには過食(and/or 自己誘発嘔吐)、ときには噛み吐きという患者さんもいて、この場合は、「過食(むちゃ食い:binge eating)」があるため、「神経性過食症」か「神経性やせ症(拒食症)の過食排出型」と診断されることになります。

 

コヴァックス(ハンガリー語ではコヴァーチ)らは、拒食症、過食症、特定不能の摂食障害のいずれの群でも20〜24%でチューイングが見られ、制限型の拒食症でもチューイングが見られることから、過食や嘔吐とは関係がないのではないかと考察しており、摂食障害とは異なる病態である可能性が示唆されています。

 

三田こころの健康クリニックで診断したケースでも、チューイングだけというの患者さんは少なく、多くは、過食(むちゃ食い)や過食嘔吐、または過食のない自己誘発嘔吐のみ(排出性障害)を伴っており、ほぼ全例に前医で見落とされていた「強迫性障害」の合併を認めました。
(前医では、うつ病や気分変調性障害と誤診されていました!)

 

不確実性に対する気分耐性の低さ(気持ちを抱えられない)
ネガティブな感情に対する衝動的な気分解消行動

自己誘発嘔吐やチューイングなど「強迫スペクトラム」の衝動制御の障害は、余暇刺激や嫌悪刺激への過剰反応など、と位置づけられます。

 

ある患者さんは過去に処方された薬剤のうちフルボキサミンは効かなかったけど、パロキセチンでチューイングや排出性障害が減ったとおっしゃっていました。

抗うつ薬(SSRIs)は摂食障害の中核症状である肥満恐怖やボディイメージの歪みには無効ですが、強迫スペクトラム障害を背景にもつチューイングや排出性障害などでは有効に作用することもあるのです。

 

自己誘発嘔吐を繰り返す排出性障害も飢餓状態になると大食が起きますから、これまで神経性過食症の過食や自己誘発嘔吐に対してSSRIs(抗うつ薬)が有効だったという報告は、「強迫スペクトラム障害」を有する特定不能の摂食障害を神経性大食症とみなした結果なのかもしれませんね。

 

院長

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