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「排出障害」と「夜間摂食症候群」

[2013.07.22]

摂食障害は「やせ願望」と「肥満恐怖」という特徴的な精神病理を伴う食行動・食習慣の障害ですが、摂食障害と似たような症状を示しながらも摂食障害と診断されない病態があります。

 

たとえば『多衝動性過食症』もその一つですし、『制限性/回避性食物摂取障害』も「やせ願望」「肥満恐怖」や著しい「ボディイメージの障害」を伴いません。

「むちゃ食い障害(BED)」も「やせ願望」「肥満恐怖」は認めないのですが、その精神病理については『むちゃ食い症候群』や『「むちゃ食い性障害(BED)」は摂食障害なのか?』で触れましたよね。

 

『過食嘔吐症候群』で少しだけ触れた摂食障害の定義にある「むちゃ食い」を欠く習慣性嘔吐に対して、「排出障害(purging disorder)」という概念が提唱されています。

噛み吐き(チューイング)」や「反芻性障害」などと同様、「特定不能の栄養摂取または摂食障害」や「他に分類出来ない栄養摂取または摂食障害」に分類されることが多いのですが、この「排出障害」と「過食症(BN)」、とくに自己誘発嘔吐などの代償行為を伴う「過食症・排出型(BN-P)」との関係は不明瞭です。

 

「排出障害」の患者さんは自己誘発嘔吐を行いますが、典型的な摂食障害の発症の仕方とは異なり、ダイエットからの発症やストレス過食から始まったわけではなく、食後に吐いたことがきっかけで自己誘発嘔吐が習慣化し(これを非代償性排出と呼びます)、次第に吐くための過食が起きてくるようです。

しかし「排出障害」の「むちゃ食い/過食」は、「過食症(BN)」や「むちゃ食い障害(BED)」の定義にある「むちゃ食い/過食」には相当せず、あくまでも「自覚的な過食」であることが特徴で、自己誘発嘔吐をしやすくするための量の多い食事といったところです。

 

さて、この「排出障害」は、アスペルガー症候群や広汎性発達障害など自閉症スペクトラム障害(ASD)の二次障害として見られることがほとんどで(時には注意欠陥/多動性障害(ADHD)の併存症としてみられることもあります)、小学校低~中学年頃に発症することが多く(前青年期にもみられる)、「排出障害」のような食習慣・食行動異常の他に、さまざまな不適応やこだわり、常同行為を伴いますし、時には「嘔吐恐怖症」のため摂食が出来なくなり、拒食症に似た症状を呈することもあり、「回避性/制限性食物摂取障害」と診断されるケースもあります。

また「排出障害」は、「特定不能の摂食障害(ED-NOS)」や「過食症(BN)」のように、誘発因子や維持因子が不明瞭ですし、診断が治療や予後と結びつくエビデンスがありませんから、摂食障害に分類するよりも「嗜癖(アディクション)」の一表現型と分類するか、あるいは、「習慣および衝動の障害」として分類した方が理に適っていると考えられますよね。

 

同じように摂食障害と診断することの妥当性が疑問視されている病態に、『対人関係療法による摂食障害の治療8~むちゃ食い障害』で触れた「夜間摂食症候群(night eating syndrome)」があります。

これは文字どおり、夜間に「むちゃ食い/過食」する状態なのですが、睡眠時に過食する「睡眠関連摂食障害(SRED)」とは異なり、覚醒状態での過食がおきますし、典型的には日中の食事量が少なく、夜だけ過食しますから、「過食症・非排出型(BN-NP)」や「むちゃ食い障害(BED)」と紛らわしいことがあります。

しかしこの「夜間摂食症候群(NES)」は正式に認められた診断名ではなく、精神病理も拒食症や過食症、特定不能の摂食障害とはまったく異なり、生活習慣の異常とみなすほかなさそうですよね。

 

これらの「排出障害」と「夜間摂食症候群」は、「習慣」と関連した食行動の異常ですから、治療は、行動療法的なアプローチが主になりそうですよね。

 

院長

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