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摂食障害から回復する変化を起こすには

[2023.02.02]

はじめまして。

こころの健康クリニック芝大門で、受診相談と摂食障害の対人関係療法を担当している精神保健福祉士・公認心理師のウエハタと申します。

これから、摂食障害や対人関係療法、その他クリニックのお知らせなどについてこちらでご案内していきます。

どうぞよろしくお願いします。

 

今回ブログを書くことになり、どんなことからお伝えしていこうかとあれこれ悩んでいました。

そんな折に、私が担当している患者さん(Aさん)が大きな変化を起こされ、私は強く心を打たれ思わず感涙してしまいました。

 

これまでたくさんの患者さんとお話ししてきたこともあり、摂食障害で苦しんでいる方たちにとって、変化を起こすことがとても怖く感じられるということがよくわかっていました。行動を変化させることで何が起こるかわかりませんし、それにうまくできないかもしれないなどと思われるようです。

ですからAさんの報告にとても驚きましたし、とてもうれしく思いました。

そして改めて、「治療を始めることも、治療を続けることも、回復することも変化なのだ」と再確認することができました。

 

そこで、今回は摂食障害の専門的な治療を受けようか迷われている方や治療に取り組まれている方に少しでも回復へのイメージを持っていただければという想いから、Aさんの治療について私なりに振り返ってたことも合わせて書いてみたいと思います。(内容は個人が特定されないように匿名加工しております)

 

Aさんは、数年前に過食嘔吐を主訴に、対人関係療法による治療を希望して受診されました。当時は現在のように治療開始時点で栄養状態の改善の必要性について強調していなかったこともあり、治療開始当初は食事を抜いたり、低カロリー食、夜は必ず過食嘔吐するという毎日でした。

 

そのような状態で家族とのコミュニケーションや職場での出来事を扱おうとしても、「嫌われているのではないか」「仲間外れにされているに違いない」などの考えを信じて疑わず、そして「少しでも変じゃないようにしないといけない」と、太ることや人と違うことへの嫌悪や恐怖を語られるのでした。

 

しばらくはネガティブな自己評価に裏付けられた出来事の解釈やべき思考などにとらわれて、現実の出来事やコミュニケーションを扱うことが難しい状況が続きました。

 

それでも、飢餓状態が過食につながることの理解と、「家族と一緒に普通の食事を摂れるようになりたい」というAさんの想いと取り組みもあり、次第に朝昼は通常の食事が摂れるようになっていきました。

 

栄養状態が少しずつ改善する中で、どのような出来事があるとどのように解釈してしまうのかというAさんのパターンを共有しました。そしてさらに、Aさんが本当に必要としているものについても確認、検討しながら面接を重ねていくなかで、Aさんの自己理解は進んでいきました。

ただどうしても、夜の過食嘔吐だけはやめられませんでした。「習慣のようになった(することになっている)」過食嘔吐をして、「過食嘔吐をしている自分を責めて自己評価を下げる」という悪循環から抜け出すことが難しい状況が続きました。

 

私は、なかなか進展を見せないAさんの治療をどう進めていこうかと、面接が終わるたびに頭を抱えていました。

 

そんなある日、Aさんは恋人と同棲することを話題に出されました。それまでは恋人と生活を共にしたいと思っても、症状をはじめ様々なことを理由に先延ばしにしていたのですが、自分の本当に求めていることに向き合い始めたのです。

 

それからAさんは、不安を抱えながらも同棲に向けて少しずつ着実に行動を起こしていきました。

そして、同棲後は夕食が一人になることがあっても一食分を用意し、それを味わうことができているとおっしゃいます。

 

Aさんはこうおっしゃいました。

「時間があると過食になるかも?と思うと、前は行動に移していました。先生に『(過食するかもと)思っても、しない』ことを選べる(考えることと行動することは別)というのを聞いていたのを思い出して、自分に対して『過食しない。自分のしたいようにしよう』と自分に言いきかせて、過食せずにすみました」

 

「今までは過食したいと思ったらどうしよう?というのが怖くて。でも今は過食を思い出したとしても焦るとかなくて、思い出しているけど取り消さなくていいと思えただけで別世界」

 

つまり、Aさんは、「過食したい、したくなるかも」という考えがあっても、その考えを否定したり修正することなく、「過食をしないこと(自分のしたいことをすること)」を選択できたということですよね。

 

同棲することに纏わる様々な予測から起こる不安に向き合い、その不安を抱えたまま、本当に必要としていることのために行動を選択することができた。

このことによる自信が、「夜になると過食嘔吐してしまうのではないか?」という考えから起こる不安に向き合うこと、そしてその不安を抱えたまま、「夜の時間を過食嘔吐ではなく自分のために使う」行動を選択することにつながったのではないかと思います。

 

それから一か月後、Aさんは会食などが重なり「太ったかも?」と思っても、「年末年始は誰にでも起こることだよね」と自分に声をかけて、またいつもの生活に戻れているとおっしゃいます。

 

今では、これまで取り組んできた自分自身への理解を通して、恋人の気持ちにも思いをはせることができるようになっていらっしゃいます。

とはいえ、何かのタイミングで過食したくなったり、過食してしまうことははまだあります。

それはAさんがまだ出会っていなかった新しい課題に直面したというサインなのです。

 

いかがでしょうか。回復へのイメージを少しでも持っていただけたでしょうか。

 

こころの健康クリニック芝大門の対人関係療法は実行期に入る準備が整ってからスタートします。

 

Aさんの場合は、同棲を決意されたころから実行期に入る準備が整い(回復の6段階目)、数カ月で一気に回復の8段階目まで進みました。

※回復の段階とは「摂食障害から回復するための8つの秘訣」に書かれている10段階のことです。

 

一つの変化を起こしたことで、栄養状態の改善にも取り組むことできるようになり、自信と生物学的な安定を取り戻しました。そして摂食障害の声ではなく、健康な自分の声にも耳を傾けることができるようになっていったのです。

 

回復の段階をどのように進んでいくかは患者さんそれぞれで異なりますが、実行期に入る準備が整うためには、回復の妨げになっていること(Aさんであれば、食事制限や心の伴わない習慣化した過食、いつでも過食できる環境など)に気づき、変化を起こし始めることが必要です。

 

次回は、この「回復の妨げになっていること」について書いてみたいと思います。

 

最後に…

一見すると変化しているようには見えなかったAさんの症状でしたが、今思えばAさんの中では少しずつ少しずつ変化が起こっていたのだと思います。

もしかすると、その変化は気づくことができたのかもしれません。私自身が、Aさんの治療を「うまく進まない(できない)」という考えを通してみていたために、気づけなかっただけなのではないかと、今では思います。

そのことに気づかせてもらったAさんにありがとうの気持ちを伝えたいです。

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