「気分変調性障害/持続性抑うつ障害」の混乱

「気分変調性障害/持続性抑うつ障害」の最新事情』で、「DSM-5では、「気分変調性障害」と「慢性大うつ病性障害」が統合されなんとなく周辺がぼやけた印象を受けます」と書きました。

従来診断でいう「内因性うつ病」やその「慢性軽症型(気分変調症)」と、「神経症性うつ病」「抑うつ神経症」が同一疾患とみなされたことにその混乱の原因があるようです。

 

気分変調(ディスチミア)」とは、通常から偏った気分異常で、広義には爽快、抑うつを含むあらゆる気分の変化を指し、狭義には、刺激的で不機嫌な「気分不快(ディスフォリア)」を指します。

アキスカルらは、「気分変調症」や刺激性気質など、うつ病としては非典型的な気質がある場合や、不安障害が併存している場合(アキスカルらはこれらを感情病気質と命名しています)、「双極スペクトラム」の延長として、明らかな躁状態がなくても双極性として治療を行った方がうまくいくとし「ソフト・バイポーラー(軽微な双極性障害)」と命名しています。

 

うつ病の典型的な気質とは、テレンバッハのメランコリー型性格や下田の執着気質などが知られていますよね。
執着気質とは、簡単に言うと、責任感が強く、頑張り屋の完璧主義者で、何ごとも徹底的にやるタイプであり、うつ病になっても「わかりっこない」と依存的態度を拒否することも臨床的に病態解明の鍵になることが多いことが知られています。

一方、”広義”の「気分変調」に相当するのがクレッチマーのいう循環気質であり、まわりからよく見られたいという願望が強く、社交的で多くの人と仲良くして、人に囲まれていたいタイプです。

メランコリー型性格や執着気質あるいは循環気質など、気分障害の根底には「同調性(ジントニー)」があると考えられ、強迫性と同調性の共存が内因性気分障害の典型と考えられています。

 

一方の「神経症性うつ病」「抑うつ神経症」は、幼児期の葛藤による神経症的性格を基盤に生じるうつ状態を指しますが、「反応性抑うつ(遷延性抑うつ反応)」との間には症候学的な差はないとされています。

 

これらの議論から考えられることは、どうも「気分変調性障害/持続性抑うつ障害」には

・「同調性」を基盤に執着気質や循環気質をもつ「慢性軽症うつ病症候群」(いわゆる気分変調性障害の中核群)
・対象関係因性の葛藤や不安を伴う性格神経症的な「慢性の抑うつ症候群」(不安型気分変調症/性格スペクトラム障害)
・ストレス因が解決されず慢性に経過した適応障害タイプの「遷延性抑うつ反応」(無力型気分変調症/準感情病性気分変調症)

の3つが含まれているようで「気分変調性障害/持続性抑うつ障害」は、裾野が広い疾患(症候群)のようです。

 

とくに最近よく診る機会が多いのは、ストレス因が解決されず慢性に経過した適応障害タイプの「遷延性抑うつ反応」で、何でもかんでも「うつ病」と診断された結果、抗うつ薬や休職(あるいは休養)により、達成課題が先延ばしされ遷延化したのではないかというケースです。
(『適応障害と気分変調性障害』参照)

また「月経前症候群(PMS)」「月経前不快気分症候群(PMDD)」に伴う気分変調も、気分障害として抗うつ薬を処方されていることが多いのですが、実際の臨床では、漢方薬なので月経前の身体の調子を整えることで著しい改善がみられることもよくあります。

 

さらに水島先生も『対人関係療法でなおす 気分変調性障害』に

一回聞いたくらいで「なるほど、そういう病気にかかっているのだとしたら楽でいいや」とすっきり思える人は、逆に、別の診断を考えた方がいいかもしれません。
気分変調性障害にかかっているのであれば、そんなに前向きな受け止め方ができないはずだからです。
水島広子・著『対人関係療法でなおす 気分変調性障害』創元社

とあるように「病気(診断)」をアイデンティティとして取り入れるタイプの「気分変調性障害」と類似した症候を呈する状態も鑑別する必要がありそうです。(「無力型気分変調症/準感情病性気分変調症」でこのような傾向がよく見られます)

 

さらに、

最終的に治療につながったという意味では「よかった」ということになりますが、実際には「結果」である併存障害の方だけが治療されることも少なくないのです。
何年間も摂食障害とだけ診断されてきた人に、それよりも先行して発症していた気分変調性障害をみつけることも、実際の臨床では多いものです。
水島広子・著『対人関係療法でなおす 気分変調性障害』創元社

と書かれているように、実際、他の医療機関で摂食障害の対人関係療法(?)による治療を受けた患者さんの中には、治療終結時に「気分変調性障害」が明らかになり、「ここでは治療できない」と言われた人もいらっしゃるのです。

 

「気分変調性障害/持続性抑うつ障害」は見逃されているだけでなく、適切な治療を行うことのできる医療機関はほとんどありませんし、とくに「不安型気分変調症/性格スペクトラム障害」では背景に「トラウマ」があることが多いこともわかっており、「摂食障害」や「うつ病」「双極性障害」と診断されている方は「気分変調性障害/持続性抑うつ障害」かもしれないという観点で、三田こころの健康クリニックに相談してみて下さいね。

院長