「不安型気分変調症/性格スペクトラム障害」の治療

薬を飲んでいるけれどもなかなか治らない慢性の抑うつ状態を呈する疾患

・反復性うつ病性障害
・双極うつ病(とくに双極性障害・II型)
・トラウマ関連障害(いわゆるトラウマうつ病)
・持続性気分障害(気分循環症・気分変調性障害/持続性抑うつ障害)
・遷延性抑うつ反応(適応障害)

などが挙げられます。

とくに、いわゆる「トラウマうつ病」と「気分変調性障害/持続性抑うつ障害」のなかの「不安型気分変調症/性格スペクトラム障害」は、オーバーラップする部分が多いのが特徴です。
(『さまざまな「慢性うつ病性障害」3』参照)

 

慢性うつ病の精神療法』の著者であるマカロゥが呈示した気分変調性障害は、メランコリー気質をもつ内因性の慢性うつ病ではなく、対象関係因性の「神経症性抑うつ(抑うつ神経症)」(不安型気分変調症/性格スペクトラム障害)と考えられています。

マカロゥによると

(1)「前操作的」思考のもとに読唇術(読心術)的に他者の思惑を読み取り、自己否定的な結論を出す
(2) 特別な認知の枠組み・世界観が岩盤のように固い確信としてある
(3) 上記の確信にふれる出来事に反応し、思考が「前操作的」になり抑うつ状態に陥るなど変動性がある
(4) 確信が実現するように、自己あるいは他者に対し、無意識に圧力をかけている

などの特徴が挙げられています。

 

難しいので、少し解説すると、「前操作的思考」とは、たとえば「用事があるのに、上司からの依頼を断れずに引き受けてしまった」などの日常的な出来事に対して、「自分が嫌われているから、仕事を押しつけられた」と他人が何を考え、何を感じ、何をしようとしているのかについて憶測する「読心術的解釈」から、「自分はダメだ」「何をやっても失敗する」など自己否定的な解釈に短絡的に結びつける思考パターンのことです。

このような「自己否定」という自己中心性は

「他人は自分を傷つけるものだ」という、小児期の体験によって凝り固まった感受性が、現在の対人関係に幼少期のそれを重ね合わせ、過去を再現する前操作的な思考を作り出す。
この前操作的な世界観こそ、自分の言動が周囲の世界に特定の結果をもたらしていることへの気づきを困難にしているのである。
鈴木茂『青年期の外傷的記憶を想起する境界例成人に対する形式操作的アプローチ』臨床精神病理 28: 159-174, 2007

というトラウマ(傷つき)関連の体験から

個物と類(一般)概念との混同や、判断における必然性/可能性/現実性の混同などが頻繁に見られて、彼らの日常生活と対人関係を混乱させる。
鈴木茂『青年期の外傷的記憶を想起する境界例成人に対する形式操作的アプローチ』臨床精神病理 28: 159-174, 2007

など「過去を再現する」傾向もあるようです。

Pは、質問へ向かうはじめの一歩が出ないという。
しかし、このPの躊躇がすでに、周囲の人に、Pが傷つかないような応答をするように暗に圧迫をかけているのである。
この関係性が、「コーアーション coercion」というタームで呼ばれるものである。
(「コーアーション coercion」とは、圧迫・強制・無理強いといった意味)
津田均・著『気分障害は、いま』誠信書房

ということですから、タルボットらが幼少期のトラウマを持つ人たちの対人関係療法の治療焦点として「対人パターン」 を提唱し

・慢性的な恥の感覚
・慢性的な社会的引きこもり
愛着関係を作ることの回避
・親しい関係において慢性的に要求が多く、安心を求める
・持続する対人不信
・パートナーからの暴力など深刻な不和のくり返し
・親しい関係を突然やめることのくりかえし

を挙げていますが、「パートナーからの暴力など深刻な不和のくり返し」や「親しい関係を突然やめることのくりかえし」という「再演」が「「過去を再現する」傾向」や「コーアーション coercion」であり、これらのパターンは、発達段階で身につけるべきだった課題がトラウマのために妨げられた結果として認識されています。(水島広子・著『対人関係療法でなおす トラウマ・PTSD』創元社 参照)

 

また「愛着トラウマ(愛着障害・脱抑制型も含む)」や「複雑性PTSD」の患者さんは警戒心が強いにもかかわらず、つい病気のことを話してしまう、という矛盾した行動のため、さらに傷つき体験を重ねることも多いのです。(「トラウマ症状がトラウマ体験を招く」)

「気分変調性障害」の対人関係療法による治療では、「治療による役割の変化」として疾患教育と
症状への気づきを強調して進めていきますよね。

しかし同じ「気分変調性障害」に分類される「不安型気分変調症/性格スペクトラム障害」では、個別性の高い生活史や社会的背景条件の把握が重要ですから、三田こころの健康クリニックで行っているようにライフチャートを用いて治療を導入する必要があるんですよ。

 

その上で「不安型気分変調症/性格スペクトラム障害」の治療では、形式操作段階の問題解決能力と、共感的反応性を促進していくこと、つまり感情を指標に周囲との関係を変化させていくことが求められます。
トラウマのために未達成だった対人関係スキルを身につけていくプロセスで、「修正情動体験」や「アタッチメントの修正体験」をしていくことが「対人学習」ということですよね。

ですから、治療を中心に考えた場合は、「気分変調性障害/持続性うつ病性障害」とザックリした診断では足りず詳細な病型分類が必要ですよね。

 

また「不安型気分変調症/性格スペクトラム障害」では、月経前不快気分障害(PMDD)や月経前症候群(PMS)の合併も多く、抗うつ薬ではなく、漢方薬が著効する場合もあります。

このように、詳細な診断が適切な治療に結びつきますので、なかなか治らないうつ病がおありの方は、三田こころの健康クリニックに相談してみて下さいね。

院長