思考障害としての過食症症状

摂食障害、とくに過食症症状(むちゃ食いや過食嘔吐)は「感情障害」とも言われます。(厳密には「感情を感じられない障害」「感情への対処法の障害」です)

Akoさんが「摂食障害が教えてくれること」の「吐かないとこうなる」「撃沈。」「本当に大切なこと」などのエントリーで、摂食障害思考と向き合ったリアルな体験を書いてくださっています。

 

自分の感情を感じられない/感じないようにしているために、他者の感情を理解できなかったり、感情に対処できないために他者を遠ざけたりするので、摂食障害は「関係性の障害」という側面も持ちますよね。(『摂食障害からの回復には自分と他者の心の状態に気づくことが大切』『関係障害としての過食』参照)

また、対処できない感情を生み出しているのが摂食障害特有の「思考」であり、その意味で、摂食障害は「思考障害」とも言われます。

 

過食症は、患者さんが有害な思考パターンにとらわれてしまっているという点で「思考障害」とも言われます。

一例は、白か黒かという思考で、万事が極端に分類されます。食べ物は「よい」か「悪い」かのどちらかであり、身体は「太っている」か「痩せている」かのどちらかであり、あまりコントロールが効いていないということは完全にコントロール不能という意味になってしまいます。

他の例では、問題を肥大させてしまうこと、魔法を使えるかのような、極端な考え方、自己と他者を常に比較してしまうこと、他人からのコメントや今ある状況を過度に個人的に受け止めてしまうことなどがあります。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

思考障害としての「過食症症状」の特徴は、「頭の中の解釈」(例:太っているような気がすること≒ファット・フィーリング「肥満感」)と、「現実」(例:BMIが25以上の肥満状態であること)を混同していて、区別することが難しいことが特徴です。

専門的な言い方では、「認知的フュージョン」あるいは「心的等価モード」にあるといいます。
※認知的フュージョン:現実に即していないにもかかわらず、機能していない思い込みを認識できず、かつ訂正もできない状態。
※心的等価モード:自分の心にあるものをそのまま外的現実であると捉え、精神状態(内的現実)と外的現実を区別することができない状態。

そこから、白黒思考や、べき思考、過度の一般化、読心術(顔色の読み過ぎ)、自己関連づけなどの、さまざまな有害な思考や歪んだ信念が生まれてきます。

 

過食症患者さんの中には、人生に対して全般的に否定的な態度をとる人たちもいるように思われ、これは人としての経験のあらゆる側面に影響します。

ほとんどの患者さんは、自分には価値がなく、愛されていないと考えていて、身体のサイズがその証拠になっていると思い込んでいるのです。

過食症の患者さんの多くは、害のある結論を導くような思い込みを根深く抱えており、例えば、太っていることは悪いことであるという信念は、食べ物は悪であるという意味になり、身体が大きいことは失敗の印になり、好き勝手に食べることは弱さの印になるのです。

「私は悪い人である」という信念は、過食症患者さんの多くが真実であると考えていますが、「自分自身を大事にする理由などない」、「誰も私のことなど愛せない」のような思考を可能にしてしまいます。

これが価値と理想の全システムを構成してしまい、過食症患者さんはそれに基づいて自分自身やときには他人を常に観察し、判断するようになるのです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

自動思考は、慣れ親しんだ普段の体験の仕方でいると、なかなか自動思考だということに気づきません。

自動思考であることに気づかなければ、自動思考は現実であるかのように感じられてしまい、自動思考に巻き込まれてしまうのです。(『摂食障害からの回復には自分と他者の心の状態に気づくことが大切』参照)

「考えは事実と違う」ことを意識できるようになれば、考えそのものが変化しなくても「考え」との関わり方が変わり、「批判的な思考の群れ」や「摂食障害思考」に支配された行動を続けることから抜け出せるのです。(『摂食障害の考え方のクセと深い自己肯定感』参照)

 

患者さんの心の中では「スピニング」と呼ばれていること、つまり同じ否定的な思考を何度も何度も繰りかえる行為が起こっているのです。

心の中にあるこれらの際限なく自動的に繰り返される思考のせいで、過食症の人は他に何も聞こえなくなり、ましてや内なる知恵の声など聞こえなくなってしまうのです。

回復期には、これらの否定的な感情と考え方の傾向に気づき、面と向かって対処する必要があります。
これはときに、恐怖の気持ちを呼び起こしたり、子どものときに戻ったり、希望が持てたり、疲れきったり、自分のためになったりする経験なので、メンタルヘルスの専門家の指導に下に行うことが最善です。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

自動思考が不適切な(機能的ではない)対処行動につながってしまう原因の1つは、心配、反すう(上記の「スピニング」)、思考抑制などの思考プロセスを、意識的に選択、実行するため、と考えられています。
(『摂食障害の考え方のクセと深い自己肯定感』参照)

ですから、自動思考を含む自分の考えや、自動思考に反応した身体感覚(情動や感情)に気づけるように自己モニタリングを根気強く続け、習慣づけていくことが、乱れた食行動からの回復の第一歩になるのです。(『摂食障害からの回復には自分と他者の心の状態に気づくことが大切』参照)

 

「乱れた食行動(過食症状)」の治療を行っていると、その根底に幼少期の「アタッチメント関連の未完の感情(インナーチャイルド)」の問題が横たわっていることもあります。しかし、傷ついたインナーチャイルドを癒すプロセスは、従来の対人関係に焦点を当てるやり方では対応できないのです。

傷ついたインナーチャイルドを癒すにはいろんなやり方があるのですが、三田こころの健康クリニックの摂食障害/対人関係療法の専門外来で行っているやり方に興味がある方は、『インナーマザーと愛着(アタッチメント)の対人関係療法』『自分と向き合うことで力を取り戻す』『インナーチャイルドとインナーマザーの和解と統合』などを参照してみてくださいね。

 

院長