過食や過食嘔吐から回復するプロセス

過食症(むちゃ食い・過食嘔吐)から回復するということは、過食症の真っ只中にいる人にとっては「本当に治るのだろうか?」「治ったらどんな自分になってしまうんだろう?」と、過食症から回復すること自体が信じ難いことかもしれません。

 

三田こころの健康クリニックで対人関係療法による治療にとり組んで、過食症から回復した患者さんたちがブログを書いていらっしゃいます。

梅こんぶの幸せごちそうさま』や『摂食障害が教えてくれること』、新しいところでは『摂食障害を乗り越えて』があります。(他にもいらっしゃるかもしれません)

 

これらのブログをお読みになると、同じ対人関係療法による治療でも、とり組まれた課題も、回復の道筋も、患者さんによって全然違うことに気づかれると思います。

治療者である私自身も、患者さんからいろいろと教えられることがたくさんあります。患者さんから教えてもらったことによって、患者さんごとに対人関係療法のすすめ方をアレンジしているのです。(『ドラゴンボール集めてます』を参照してみてくださいね)

 

三田こころの健康クリニックで行っている対人関係療法で過食症から回復した人たちに共通することは、皆さん、自分の心と向き合い、自分の心の声・身体の聲に耳を傾け、自分自身に正直になり、自分自身をいたわると同時に他者との関係を変えていくなど、「行動の仕方を変えていく」プロセスを進まれたのです。(重要な他者とのコミュニケーションに焦点を当てる対人関係療法とは治療焦点がかなり異なります)

 

最近の脳科学の進歩により、自分自身の精神状態を認識する領域と他者の精神状態を認識する領域は重なっていて、自分自身の精神状態を認識する領域の方が広いことがわかっています。
つまり、他者との対人関係を改善していくには、まず、自分自身との関係を改善する必要があるということなのです。

 

リンジーさんもいよいよ「行動の仕方を変えていく」段階に進まれました。

 

過去にそうであったように、うつと孤独感が蓄積していくことが感じられましたし、こんなにも激しい恋愛をしているのに、結局完全には治癒しないのだということにイライラしてもいました。

そのとき、簡単に脱出する方法はないのだとわかったのです。
過食症を克服するとしたら、これからの努力が大いに必要でしたし、まさにそのときその場で自分が主導権を握らなければ、依存状態に永遠に舞い戻ってしまう恐れがありました。
私は人生のあらゆる面が、リーとの最初の数週間のように、素晴らしく、愛情にあふれ、過食症から解放されたものであってほしかったのです。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

リンジーさんは過食症という状態を変えたいと認識して、実際に行動して、計画を立て、異なるやり方を試している「実行期」に移行しました。「これからの努力が大いに必要でした」というのがその表明ですよね。

むちゃ食いや過食嘔吐で紛らわすことなく感情をありのままに感じ、そして、その感情を心の中で抱えておけるようになることが、リンジーさんがとり組んだ課題でした。(『【治療記録5】感情を感じきる』も参照してみてくださいね)

 

リンジーさんもそうでしたが、過食症から回復するために「行動の仕方を変えていく」ことにとり組む時、2回、もしくは3回、過食がひどくなるピットフォール(落とし穴)があります。

この時に、自分の心と身体と向き合うことを続けられるか、あるいは、もう治らないと自分に言い聞かせて諦めてしまうか、どちらの人生を選ぶかを決めるのは「行動変容のための動機(『摂食障害から回復するための8つの秘訣』p.24〜29)」です。

ですから、これらの症状の増悪は本当は「落とし穴」ではなく「卒業試験」ですよ、と三田こころの健康クリニックでは説明していますよね。

 

症状がひどくなったように感じる最初の関門は、今までのやり方を変えようと決心した時です。
リンジーさんがコーネル大学のボスキン-ロダール博士に会いに行くことを決心した時に、1週間ものひどい過食がおきたときの心の状態をむちゃ食い・過食嘔吐が習慣化するメカニズム』で解説しましたよね。

 

そして2回目は、治療の途中で過食が減ってきたとき、どうしても早く治りたいという焦りの気持ちが出てきて過食や過食嘔吐を我慢してしまい、その反動で過食症症状がひどくなることがあります。

このような時には、『摂食障害から回復するための8つの秘訣』の「衝動の波に乗る」にあるように、「何を避けようとしているのだろう」「私が本当に必要としているのは何だろう」と自分へ問いかけ、自分自身の心の声、身体の言い分を、正直に受け止めることが必要になります。

 

そして3回目は、人にもよりますが、対人関係療法による過食症の治療の後半で、些細なきっかけによって過食症症状がひどくなるときに、幼少期からの「未解決の問題」「未完了の感情」にとり組む必要があるのです。

 

ある課題をこなし、それにより、私の価値観や信念が、私の両親、子ども時代、今の社会に影響されていることも明らかになりました。

これらすべてを考慮に入れてみることで、心の真実を発見することができ、そして、存在の最も深いレベルにおける自分自身の姿に調和した生き方ができるようになったのです。
これは私の心に本当の・・・栄養を与えてくれました。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

リンジーさんも幼少期からの「未解決の問題」にとり組むことで、「(自分自身の)心の真実」を発見しました。リンジーさんが発見した「心の真実」とは、『心の中で起きること、心で感じることは「反応」であって「実体」ではない』、ということです。

そしてリンジーさんは「心の真実」に気づくことで、「自分自身の姿に調和した生き方」すなわち、どんな自分も認めることができる「深い自己肯定感」によって、自分の心に自分自身で「本当の・・・栄養」を与えることができるようになったのです。

 

この「存在の最も深いレベルにおける自分自身の姿に調和した生き方」を生きるプロセスに必要なのが、自分の心に与える「本当の・・・栄養」である「セルフ・コンパッション」です。
このプロセスが過食症からの回復の最後のステップになると、三田こころの健康クリニックでは強調していますよね。

 

そして、「自分自身との関係の改善」「行動変容」にとり組まれたリンジーさんは、他者をモデルとすることと、両親との関係の位置づけという、「他者との関係の改善」にとり組まれました。

 

これらの人々の生き方に感銘を受け、自分自身と他人に対してもっと愛情を示せるように努力しました。

この流れに乗って、自分はよい人間であって、世話をされるに値するということを思い出せるように、ろうそくや花と一緒に自分の写真をドレッサーの上に置くことにしました。

(中略)

まず両親に、彼らと一緒にいるときにどのように感じるのかを伝えました。
私は自分の回復について描写しましたが、両親に多くの関与を求めず、それを期待もしませんでしたし、実際のところ、たいした反応もありませんでした。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

対人関係療法でも、重要な他者が変わってくれないときには、できることしかできない実物大の人として見ることができるように、自分が相手に向けている期待を下方修正することにとり組みますよね。
この過程で、「親の対応の問題」とか「育てられた環境の問題」など、「自分の価値観や信念」を手放していくのです。

リンジーさんも両親に対しては、求めても得られない源泉には賠償を求めないような仕方で自分自身の空虚感と向き合ったのですよね。(『私の人生は私がつくる』を参照してみてくださいね)

 

そして、「自分自身と他人に対してもっと愛情を示せるように」リンジーさん自身のアタッチメントの土台を強化していったのでした。

 

院長

※GWはブログはお休みです。次は連休明けの5月7日(火)にエントリーしますのでお楽しみに。