過食症と過食性障害の3つのプロトタイプ

トンプソン-ブレナーは、摂食障害には診断を横断する「高機能・完全主義型」「感情調節不全型」「回避・抑うつ型(感情抑制型)」の3つの性格プロトタイプがあるとしています。

 

高機能・完全主義型」は、完璧主義傾向が強く頑固であるものの、社会的機能が高いとされ、「神経性やせ症・摂食制限型」の中核的なパーソナリティ特性とされています。
このタイプが有する強迫性の背景には、未解決な不安や曖昧さに耐えられない(変化に弱い)心理的脆弱性があると考えられています。
また従来から、不安の強い親による過剰支配的な養育スタイルとの関連も指摘されています。

 

感情調節不全型」は、情動調節不全および衝動性によって特徴づけられ、境界性パーソナリティ障害(BPD)や心的外傷後ストレス障害(PTSD)と関連が深いタイプとされていて、「多衝動性過食障害」との重複も見られるとされています。
このタイプは、内在化された「よそ者的自己(エイリアン・セルフ)」が存在し、自己内省(メンタライジング)能力と情動調整困難が特徴とされています。

 

回避・抑うつ型(感情抑制型)」は、対人関係の回避や感情の過剰な抑制が特徴とされています。
感情表出が十分でなかった生育環境の中で、自己の存在の不安定さを自分でなだめる手段として、過食(むちゃ食い)や過食嘔吐という「報酬」によって刹那的に補う行動様式を身に付けたようなタイプで、「不安障害(とくに全般性の社交不安障害)」の合併が多いタイプです。
リンジーさんはこのタイプに相当するみたいですね。

 

けれども、Psychology Todayという雑誌に掲載されていた「すごい量を食べてそれを嘔吐する」人々についての論文をたまたま目にしたのは、このときでした。これは現在、私たちが過食症と呼ぶものについて書かれた、まさに初の論文だったのです。

筆頭著者であるマーリン・ボスキン-ロダールは、彼女が「bulimianorexia(多食拒食症)」と命名したものは絶食で特徴づけられる神経性食欲不振症に関係してはいるが、過食と嘔吐の繰り返しを理由に、それとは別ものであるとみなしていました(Boskind-Lodahl,1977)

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

リンジーさんが引用している論文でも、「神経性やせ症」と「神経性過食症」「過食性障害(むちゃ食い症)」は、不食・絶食(断食)、過食嘔吐、むちゃ食いという症状の表現型の違いはあるものの、その症状を呈する患者さんのパーソナリティ背景には違いがあることが示唆されていますね。

 

高機能・完全主義型」では、「神経性やせ症・摂食制限型」、「神経性やせ症・過食嘔吐型」、「神経性過食症:」と診断されます。また神経性やせ症に似た、「食物回避性情緒障害」や「選択摂食」なども見られます。

過食嘔吐の特徴は強迫的・儀式的で、「排出性障害」や「チューイング」であることも多く、またその他の「強迫症状(適切な言葉、侵入思考、音過敏、対称性、抜毛、皮膚むしり、など)」の合併もよく見られます。

 

感情調節不全型」では、「神経性過食症」と「過食を伴う排出性障害」が主であり、ダイエットや不食・絶食から神経性やせ症に移行することは少なく、割と早期から過食衝動がメインとなるようです。

また自傷行為や自殺企図との合併も多く、万引き、窃盗、薬物乱用や依存、性的乱脈などの衝動性を示す「多衝動性過食症」の合併も見られます。

 

回避・抑うつ型(感情抑制型)」では、「神経性やせ症・過食嘔吐型」、「神経性過食症」、「過食性障害(むちゃ食い症)」、あるいは「ダラダラ食い」が多く見られます。

一般的なメンタルクリニックや心療内科を受診すると、うつ病やうつ状態と診断され、「不安(全般性不安障害や社交不安障害)」は見逃されてしまいます。抗うつ薬が処方されているケースがほとんどですが、多くの患者さんは自己中断しているようです。

 

各タイプが摂食障害患者に占める割合は、「高機能・完全主義型」が42%、「回避・抑うつ型(感情抑制型)」が31%、「感情調節不全型」が27%とされています。

過食症の治療を専門にしている三田こころの健康クリニックでは、「回避・抑うつ型(感情抑制型)」がもっとも多い印象があります。皆さんは自分はどのタイプに近いかわかりましたか?

 

さて、リンジーさんの体験談に戻りましょう。

 

帰宅すると、一週間はひどく過食をして、それからボスキン-ロダール博士に電話をすると、すぐに来るようにと言われました。

行く途中、私は嘔吐するために寄り道をしました。これが最後になるのではないかと怖れつつ。今日のうちにドクターが私を治してしまったらどうしよう?心の準備ができていませんでした!

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

ボスキン-ロダール博士のクリニックを受診し、紹介されたグループセラピーに通うことになったリンジーさんは、その時点ではまだ、「問題を抱えていることを自覚し、今の状態を変えたほうがいいと漠然と思っている」段階、つまり「熟考期」でした。(Tamikoさんの「【治療記録1】治療を受けようと思ったきっかけ」「【治療記録2】過食症と診断された!」などを参照してみてくださいね。)

 

リンジーさんも「心の準備ができていませんでした!」と書いていらっしゃるように、「行動変容を動機づける5段階」のうちの「熟考期」は、「摂食障害から回復する10の段階」のうち「4.変わりたいけど、どうしたらいいのかわからないし、怖い」という想いが強く、「5.変わろうとしたけど、できなかった」というプチ挫折で「良くなるなんて思えない」と、治療からドロップ・アウトしやすい危険があるのです。

 

医師のマーリンは、率直に発言する、感情を正直に認める、毎日書き留めるといった行動の大切さも強調しました。

私は日記を書き始め、数年続けたところ、このほんの些細なことが大きな違いを生みだしました。過食症で表現していたことを、言葉を使って表現するということを学んだのです。

一日か二日はむちゃ食いを延期できるようになり、よくなるだろうという確信を持ち始めました。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

「熟考期」の段階から、今の状態を変えたいという心の準備ができる「準備期」に移行するためには、リンジーさんが行ったように、「私自身が変わる必要がある」「これは私の問題」と受けいれる段階が必要です。(Tamikoさんの【治療記録3】治療に対する不安と過食衝動」を参照してみてくださいね

三田こころの健康クリニックで治療の前に『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』を読んでもらっているのは、本で説明してある内容を「これは私の問題」と心の底から納得できるプロセスをたどってもらうためで、これは「セルフモニタリング」の土台になるのです。

 

さらにリンジーさんのように、日記を書くことで「過食症で表現していたことを言葉を使って表現する」という小さな変化を積みかさねていくこともすごく大切ですよね。(Tamikoさんの「【治療記録2】過食症と診断された!」を参照してみてくださいね。)

摂食障害から回復するための8つの秘訣』の「秘訣1 回復への動機、忍耐、そして希望」に書かれているように、何度でも挑戦して、回復への動機を強化しなおす必要がありますよね。

 

院長