過食症の回復には発達段階に応じた愛着関係が必要

イギリスの国立医療技術評価機構が発行している2017年版NICEガイドラインでは、児童期〜青年期の子どもの親は「回復を達成するための最大の治療資源」であると見なされ、「神経性やせ症(拒食症)」「神経性過食症」ともに、家族療法(family-based treatment:FBT)が第一選択となっています。

 

過去にまことしやかに囁かれていた、親が子どもの自立をさまたげることで摂食障害を引き起こしている、あるいは親の関わり方が摂食障害の原因になっているという、いわゆる「母原病」的な考え方は「誤解」であり、親に病気の原因を求めることは反治療的とされているのです。

また、共感だけを頼りにした精神療法の限界も明らかで、摂食障害の治療には一般的な医療とは異なる治療方針が必要とされています。

 

しかしながら、共感的な支持的精神療法をベースとしていると謳う高名な先生は、いまだに「親が原因で摂食障害になった」「娘の摂食障害が治らないのは親の対応が悪いから」と40歳近い娘を擁護し、足の悪い70歳過ぎの母親に1日何度も過食食材の買い出しを指示されているそうです。にもかかわらず、最近は良くなったから終結を、と言われているそうです(!)。

 

近年の愛着理論や自己心理学の研究成果によれば、機能不全に陥っている愛着スタイルは対人関係から満足をえる能力を疎外し、それがさらに対人関係を悪化させてしまうような内的作業モデル(養育者との関係から生み出される自己や他者に対するイメージ)を本人に生み出してしまうという。

(中略)

年齢ごとに各発達段階で必要とされる心理的な欲求が満たされないまま年齢を重ねていった物質乱用者は、「心の中」に欠けているものの代わりとなるものを「心の外」に常に求め続けるしかないのだ。

フローレス『愛着障害としてのアディクション』日本評論社

 

おそらく上記の高名な先生は、発達段階の課題や愛着(アタッチメント)の動的成熟についてはまったくご存じないまま治療(?)を行っていらっしゃるのでしょう。

 

過食症:食べても食べても食べたくて』では、過食症は「思考障害」「感情調節障害」あるいは「関係障害」と呼ばれています。

三田こころの健康クリニックの対人関係療法/摂食障害の治療の専門外来では、「思考障害」「感情調節障害」としての過食症の根底に「関係障害」、つまり「アタッチメント(愛着)の問題」があると考えています。

ちょっとムズカシイですけれども、愛着障害としてのアディクション』から引用してみますね。

 

ボウルビィは、対象関係論から次のことを学んだ。

内面へと取り込まれた自己表象(自分自身に対するイメージ)と他者表象(他者に対するイメージ)は、内部に強い情動を抱えており、それら取り込まれた表象(イメージ)は、心の中で体験されたことを外部世界へと投影しやすい傾向をもたらす(Ogden, 1982)

投影同一視(自らの感情を他者に投影し、自分ではなく他者がそのような感情をもっていると見なす心のメカニズム)の力によって、人は、外界で出会う他者が、あたかも自分自身の心の中にある苦悩や期待感をもたらした原因であるかのように無意識に強制し、誘導し、刺激する。

フローレス『愛着障害としてのアディクション』日本評論社

 

「過食症」や「過食性障害」からの回復とは、日常生活の中で起きてくる出来事への対処や、自分の心の中でわき起こるさまざまな思考や感情と向き合うときに、過食(むちゃ食い)や過食嘔吐などの乱れた食行動を使わずに済むようになる「行動の仕方を変えていく」ことです。

環境が変わらないから、他者(親やパートナー)が変わってくれないから、自分は変われない(回復できない)と他責的に考えるのではなく、まず自分が変わること、自分の行動の仕方を変えていくことが回復への第一歩となるのです。

 

「行動の仕方を変えていく」ためには、2つの要素が必要です。

1つは「内的な構造変容を生み出す(自分との関係を改善する)」こと、つまり(1)「自分の思考・感情・身体感覚に気づいている」こと、(2)「誰しも感じる苦痛を苦悩に変えない(最適不満度に対する耐性を高める)」こと、そして(3)「自分への優しさ(セルフ・コンパッション)」です。

 

回復への道を歩み始めたころ、私はそれが何を伝えようとしているのかを探り出すため、自分の毎回の過食行動を丹念に振り返ってみました。

私は、二度と再び誰にも嘘をつかないと誓いました。

ゆっくりと私の「安心毛布」[訳注:漫画「スヌーピー」の登場人物ライナス少年がいつも持っている毛布のように、安心感を与えてくれるもの]を手放す過程で、私は自分自身を大切にするため、過食嘔吐以外の他の対処方法について学びました。

ホール&コーン『過食症:食べても食べても食べたくて』星和書店

 

治療を始めたすぐの時期(準備期)や回復の道を歩き始める時(実行期)には、過食を我慢しようとしないでくださいね。過食を我慢してしまうと、「回復への動機の段階」が「熟考期」に戻りやすくなってしまいます。

 

治療の初期に必要な取り組みは、過食行動を引き起こす過食衝動が起きたとき、たとえば過食をするための食材を買おうと思ったときに、自分の心の中の動きを振り返ることです。

摂食障害から回復するための8つの秘訣』の「衝動の波に乗る(p.209)」の練習をしてくださいね。そのあと過食しても構いません。なかなか難しいのですが、過食をしているときも、心の状態がどう変化していくかを観察してみてください。

そして「過食を観察する」練習の中で、過食を無かったことにする「代償行為(これが安心毛布)」を手放すことを決心してください。

 

手放していく「安心毛布」は「移行対象」とも呼ばれ、乳幼児が不安に対処するために愛着関係を結ぶブランケット(毛布)やぬいぐるみなど、触覚的に柔らかい物のことです。

 

ハーロウ(Harlow, 1958)が1950年代に行った有名な研究は、ボウルビィが強調した愛着の重要性をさらに支持するものとなった。

(中略)

赤ん坊の猿に2つの代理母を選択する自由が与えられた時、猿は哺乳瓶がついているが金網でできた代理母よりも、柔らかい布製の代理母の方を好んだ。ストレスや恐怖を感じたとき、赤ん坊の猿は安心と保護を得る手段としていつも布製の代理母のもとへと走っていった。そして布製の代理母が取り去られると、赤ん坊の猿は部屋の片隅に一人で震えていたのである。

フローレス『愛着障害としてのアディクション』日本評論社

 

幼少期に親との関係の中で内在化された愛着スタイルは、成長するにつれて、教師や先輩、あるいは同級生や同僚(ピア)との関係を経て、対等で共感的・互恵的な相互関係(パートナー関係)に成熟していきます。

その過程で、一時的に安心を与えてくれていた移行対象(安心毛布や摂食障害症状)を手放し、現実の他者との関係に拓かれていくプロセスが、「行動の仕方を変えていく」ためのもう1つの要素である「他者との関係を改善する」ことです。

 

「過食症」や「むちゃ食い症」の治療で、青年期から成人期早期には「アイデンティティの確立」を目的として、「自分自身との関係」「二者関係(親友との関係の確立と養育者からの自立)」「集団との関係(友人関係や所属感)」の固有性、リンジーさんが書いている「誰にも嘘をつかない」、つまり「自分に正直になる(自分らしさ)」に焦点を当てます。

成人期早期から成人期中期では「自分自身との関係(アイデンティティ)」をベースにパートナー/夫婦関係などの「二者関係」に焦点を当てていきます。

このように「内的な構造変容を生み出す(自分との関係を改善する)」ことと「他者との関係を改善する」ことにとり組むことで、「過食症」や「むちゃ食い症」という「行動の仕方を変えていく」のです。

このような取り組みを通して、「心の中」に欠けているものの代わりとなるものを「心の外」に求めなくてすむようになることが「過食症」や「むちゃ食い症」からの回復なのですね。

 

院長

※おしらせ
日本摂食障害協会では「摂食障害患者の就労実態調査」をニュースで取り上げるべく、NHKの取材を進めているそうです。 就労経験のある方で取材への協力が可能な方は、以下のリンクから登録をお願いします。回答締め切りは2月13日(水)20:00です。
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