過食衝動の波に乗る準備

このところ「乱れた食行動(摂食障害)」をアディクション(嗜癖行動あるいは習慣行動)の文脈で考えていますよね。
心的苦痛に対する気分解消行動である「乱れた食行動」を、「やめようとしてもやめられず、それによって日常生活が支配されている状態」とみると、摂食障害のアディクションの様相が明確になってくるのです。

 

アルコールや薬物依存と同じで、過食&嘔吐(食べ吐き)のような嗜癖行動は「やめよう」と意識すればするほど内的な衝動(渇望)が高まりやすく、また、失敗時の罪悪感からさらなる嗜癖行動が誘発されてしまいやすいことが知られています。

 

依存症を持つ人は自分の感情に気づくのが苦手であると言われており、苦痛を伴う感情(怒り、抑うつ、不安など)を一次的に緩和するために物質使用という行動を選択しているとも言われる。

また、極端に偏った思考パターンから、ネガティブな感情が生まれ、物質使用につながることがある。全か無か思考、結論への飛躍、すべき思考などの認知の歪みは多くの人に見られる。

髙野「渇望に襲われたらどうすればいいの?——引き金と対処、スケジュール」in 『やさしいみんなのアディクション』金剛出版

 

上記ではアルコール依存症や薬物依存症の説明ですが、依存症を「摂食障害」、物質使用を「食べる行動」と読み替えても、十分意味が通じますよね。

 

8つの秘訣』のp.124には「バランスの悪い歪んだ考え方」として、「1. 全か無か思考」「2. 一般化のしすぎ(結論への飛躍)」「9. べき思考」など、何かに対して最初に頭に浮かぶ考え(自動思考)が挙げられていますよね。

p.151「◎ときにはただ自分を気遣うだけでよいのです」には、ネガティブな気持ちへの対処法も説明してありますね。

 

欲求が出たときに冷静に感情に気づけるようになるには、事前に感情や思考パターンについて支援者と一緒に考えておく必要がある。
感情や思考パターンと行動(物質使用)が強く結びついていることがわかったら、これまでとは違ったやり方で感情を表現する方法や、別の考え方ができないかを考える。

(中略)

対処法は考えるだけでなく、事前に練習し、繰り返し実行する必要がある。
いざ欲求が出てから対処法を実行しようと思っても失敗に終わることが多い。

髙野「渇望に襲われたらどうすればいいの?——引き金と対処、スケジュール」in 『やさしいみんなのアディクション』金剛出版

 

「乱れた食行動で悩む女性たち」の多くは、ぶっつけ本番でやって上手くいかなかったら「この方法は役に立たない(過度の一般化)」と考えてしまう傾向があります。

上記の引用にもあるように、対処法は普段から練習をしておく必要があるのです。

 

さらに、「乱れた食行動」から回復するには、生活リズムを安定させることは必須条件になります。

部屋に引きこもり昼夜逆転の生活をしていたり、あるいは朝食と昼食を食べない生活だったりして、過食・嘔吐を止めたいと願ってもそれはほとんど不可能な願いですよね。なぜなら、気分の安定は生物学的な安定の上に成り立つものですから。

とくにこの時期、夏の間に身体の欲求を無視したダイエットに取り組んできた人たちは、「回復期(リバウンド)大食」が起きやすい時期です。「回復期(リバウンド)大食」は身体が飢餓という危険な状態に陥らないように、生物学的に安定しようとしている状態なのです。

 

「神経性やせ症(拒食症)」に対する治療として、1960年代から行われている「行動制限療法」は非人道的と悪評が高いのですが、治療の意味を考えると生物学的な安定が最優先される理由がよくわかると思います。

表面的には食行動の矯正と体重増加という、彼女らにとっては横暴で半ば強制的な治療と受け取られるかもしれない。それでも、さまざまな葛藤に晒されるにはまだ幼い彼女らの心理的負荷や侵襲が最小限度に抑えられる、初期ケースには安全な治療法なのであろう。

(中略)

心に深くは触れずとも、根本的には食欲という本能にしたがって食べ物を摂取するだけで、健康的な思考と体力は取り戻せることをこの治療法は証明していると言える。

武田「摂食障害に対するアディクション・アプローチ」in 『やさしいみんなのアディクション』金剛出版

 

生物学的な安定の上に心理学的な安定があり、それらを土台にして社会機能・対人関係が展開していくという考え方を、「Bio(セルフマネジメント機能)-Psycho(心理的機能)-Social(社会的機能・対人関係)」モデルといいます。

このモデルでは、まず生活リズム(睡眠・覚醒の時間)を安定させ、3度の食事をきちんと摂ることから始めます。

三田こころの健康クリニック新宿のリワーク(復職支援)でもこのモデルにそって復職支援を行っていますよね。

 

何もすることがない暇な時間、これまで物質をよく使用していた曜日や時間帯は、引き金に遭遇しやすい「危険な時間」である。

髙野「渇望に襲われたらどうすればいいの?——引き金と対処、スケジュール」in 『やさしいみんなのアディクション』金剛出版

ここでも物質を「食べる行動」と読み替えると、多くの「乱れた食行動で悩む女性たち」は何もすることがない暇な時間、一日の終わり(夜)、週末など、過食衝動が高まりやすい「危険な時間」であることが実感できると思います。

 

「過食(あるいは摂食障害症状)はストレスを表すもの」と考えていたのでは、「何もすることがない暇な時間」に摂食障害症状のスイッチが入ることが説明できませんよね。
ですから、食行動障害および摂食障害の治療では、アディクション(嗜癖行動や習慣行動)の視点が必要になるのですよ。

 

そのため、専門外来で行っているように、行動記録をつける(手帳やスマートフォンに記録する)、起きる時間と寝る時間をなるべく一定にする、予定を詰め込み過ぎない、何もすることがない時間(自由時間)を何時間も作らない、趣味や休息時間も作る、一人の時間と誰かと一緒にいる時間のバランスをとる、何とか実行できそうな現実的なスケジュールにするなど、試行錯誤しながら自分に合ったスケジュールを考えていく必要がありますよね。

 

院長