過食症の対人関係療法での食事日記の位置づけ

医療の専門誌で、ある先生が「摂食障害の認知行動療法でもちいる食事日記を対人関係療法で使用する」と書いていらっしゃるのを読み、思わずう〜んと頭を抱えてしまいました。汗

そもそも摂食障害の認知行動療法による治療で用いる食事日記は、食べ物に関するとらえ方(認知)と、とらえ方にもとづく行動を少しずつ変えていくために用いられるものですが、上記の先生は、認知行動療法の理論と哲学を学んで統合しようとされているのではなく、技法のみを応用しようとされているようなのです。

そうであれば

・新しい問題に直面したときに別の技法が必要になる
・対人関係療法の技法の応用範囲が制限されてしまう
・非体系的に技法を適用することで治療に矛盾が生じる(両立しない)

などの3つの問題が生じてしまいます。

 

これらのことは一般の方には関係ないと感じられることかもしれませんが、治療者というスタンスで患者さんに向き合うときには、患者さんにとって最も適した治療法を選ぶという、対人関係療法で重視している「鑑別治療学」では非常に大切な考え方でもあるのです。

 

私が過食症の対人関係療法で食事日記を積極的に用いないのは、食べ物との関係がクローズアップされるのは治療の中盤以降であり、それも、「何を食べるか?」「何を食べたか?」ということではなく、「食べ物や食べるという行動にどんな意味づけをしているのか?」を先に明確にする必要があるからなのです。

摂食障害から回復するための8つの秘訣』でも「秘訣3 食べ物の問題ではありません」「秘訣5 やはり食べ物の問題なのです」と一見矛盾した内容になっているのは、上記のような理由からなのです。

 

対人関係療法は認知行動療法のように自己モニタリングを勧めたり促したりしないので、アサーションやコミュニケーショントレーニングのような自己効力感はそれなりに高まってくるものの、自己肯定感(自己受容)が伸びにくく、効果の発現が遅れるのかもしれません。

 

食事日記を自己モニタリングと考えると『8つの秘訣』では

○ 食べ物の決まり
○ 食べ物とのつきあい方
○「良い食べ物」と「悪い食べ物」のレッテル貼りをやめる
○ 意識した食べ方

の後に「食事日記」が出てきますから、食事や食べることをコントロールするために食事日記をつけるのではなく、食べ物とのつきあい方を客観的にみるために、空腹感/満腹感などの身体感覚、そのときに心の中にあった気持ち、食べ終えてから、嘔吐衝動があったかどうか/嘔吐したかどうか、などをみていきますよね。

 

そして秘訣6で「自分の行動を変えるということ」が出てきますから、「行動を変えようと思うなら変えようとしている行動をはっきりさせる」という観察課題(自己モニタリング)であることがわかりますよね。

 

ですから食事日記もたんなる技法としてではなく、目的(自己モニタリング)をはっきりさせて使わないと冒頭に書いたような治療法の齟齬が生まれてしまうのです。

8つの秘訣』をさっと一読しただけの患者さんの中には、過食や過食嘔吐を我慢する、みたいに読めてしまったとおっしゃる方がいらっしゃいます。

『8つの秘訣』は「秘訣1 回復への動機、忍耐、そして希望」と、変化の段階を進めるという土台のうえに、「秘訣2 自分の中の摂食障害の部分を癒すのは健康な部分」と、自分自身を振り返り自己内対話をすすめることで自分自身との折り合い(調和)を作っていくことがメインテーマになっていますよね。

 

過食症や過食性障害(むちゃ食い障害)の対人関係療法による治療では、食べ物との関係だけでなく、自分自身との関係、重要な他者との関係など、さまざまな「関係性」に目を向ける必要があると考えているので、対人関係の土台になる自分自身との関係に向き合ってもらうために『8つの秘訣』をワークブックとして使っているのですよ。

院長