過食症からの回復のゴール

これまで『8つの秘訣』で見てきたように、過食(むちゃ食い)の根底には「気持ちを感じられないアレキシサイミアや身体感覚を感じられないアレキシソミア」があり、思考に反応した心の動きや身体からのシグナルを得体の知れないモノと捉えてしまうことが精神病理として横たわっていることが見えてきました。

その状態に耐えられない感情不耐・気分不耐のために

・過食という行動を使って気持ちや身体感覚を感じないようにする
・嘔吐という方法を使って、気持ちや身体感情をなかったことにする

などの気そらしや気散じなどの回避・解消行動が、過食症やむちゃ食いの悪循環を維持させている因子ですよね。

 

それらと向き合うために『8つの秘訣』では

秘訣1:回復への動機、忍耐、そして希望
秘訣2:自分の中の摂食障害の部分を癒すのは健康な部分
秘訣3:食べものの問題ではありません
秘訣4:気持ちを感じて、自分の考えに抵抗してみよう
秘訣5:やはり食べものの問題なのです
秘訣6:自分の行動を変えるということ
秘訣7:摂食障害にではなく人々に助けを求めよう

という秘訣を通じて、変化を起こすことに取り組みますよね。

 

7つめの秘訣までは、回復するにあたり、どんな状態から抜け出そうとしているのかについて考えてきました。
やめたい行動として、食べ物の制限・嘔吐・過食、自分の身体を嫌って受け入れない、根底の問題に対処しようとして自分にとって有害な方法を使ってしまう、周囲の人に助けを求めないといった問題を見てきました。
8つめの秘訣では、方向を変えて、回復するにあたってどのような状態へ向かう必要があるのかということを考えてみます。
最後の秘訣では、ただ単に症状を消すことを超えて、より深いところにある人生の意味と目的を見つけに出かけてみましょう。
摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

三田こころの健康クリニックで対人関係療法の初期に行っている「主体性の土台作り」で、「自分の人生は自分が主人公」ということをお話しますよね。

これは対人関係療法による過食症の治療のプロセスの中で

対人関係のストレスが軽くなり、自分のコミュニケーションにどうにか自信がついてきて、まず精神的に楽になります。
その後、だんだんと食行動が正常化してきます。
拒食症・過食症を対人関係療法で治す』紀伊國屋書店

精神的に楽になり、だんだんと食行動が正常化するプロセスで取り組んでいく課題が、「自分の身体と対話する」ことも含まれる「自分の人生は自分が主人公」ということなのです。

 

形はなんでもかまいませんが、目的を持って情熱を傾けているという充実感を日常レベルで得られる活動を見つけることは、回復し、またその回復した状態を維持するためにはとても重要なことです。
ただ、それとはまた別なレベルで、精神性により深く関連した、人生の意味と目的というものがあります。
8つめの秘訣では、このより深いレベルでの意味と目的というものがテーマになります。
摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

似たようなことが

過食症状のある人でも、何かに熱中したり楽しんだりしているときには、不思議と過食の衝動はなくなるものです。

と『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』にも書いてありますよね。

 

拒食症・過食症を対人関係療法で治す』に書いてあるのは、過食に代わる気そらし・気散じの方法(回避行動)としての熱中や楽しみなので、その行為が終わったあとは、また過食に戻ってしまいますよね。

一方『8つの秘訣』に書いてあることは、精神性に深く関連した生きる意味や人生の目的であり、たとえこの2つが同じ行為や行動であったとしても、行為の主体である自分の意図(心の状態)が異なるので、その次元や意義、得られる結果がまったく違ってくるのです。

この2つの区別は、「自分にとって心から大切だと感じられているか」「自分にとって意味があるか」などの「価値」を重視した行動の選択ですし、その結果「人生の質が向上したかどうか」ということで考えていけばいいでしょう。

 

拒食症・過食症を対人関係療法で治す』には、「病気をきっかけに人生の質を向上させる」という項目があり、自分の人生は自分が主人公という意味の自己決定ができることを挙げてあります。

残念ながら具体的に何がどうなれば、人生の質が向上したといえるのかについては触れられておらず、またその方法についても『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』には書いてありませんが、これは過食症やむちゃ食い障害からの回復で過食がゼロになることを目指したゴール周辺の光景でもあり、再発することはないと確信できた瞬間の感覚ですから、「自分と向き合う」プロセスに進むことで見えてくるものなのです。

 

これから過食症の治療を受けたいと思っている方も、すでに対人関係療法に取り組んでいらっしゃる方も、知っておく必要のあることですし、治療の途中でも回復への道のりから逸脱していないかどうかをわかる方法でもありますよね。

院長