過食や過食嘔吐の混乱と迷妄から回復する

2014166792968生きていくうえで誰しも感じる苦痛から気をそらすことで、あるいは気そらしの方略である食行動にしがみつくことで強迫的で嗜癖的なパターンが生み出されます。

そのパターンが繰り返されることで、摂食障害の行動と自分を同一視してしまうようになります。

 

何が起きるかわからない世界の中での当てになるもの、たとえば、冷蔵庫をあければいつも食べ物があるということで、かりそめの安心感と満足感を感じることができ、当てになるのは、自分の食行動だけになってしまうのです。

そして「自分は摂食障害だ」「私は過食症だ」と病気や症状がアイデンティティとして確立してしまうと、「わたし」と「わたし以外(健康な人)」が対立してしまいます。

三田こころの健康クリニックでの対人関係療法の導入時に説明する病気の3つの策略のうち「人と比べる」ということですよね。

 

摂食障害の人がよく口にする「過食症でない自分は自分ではない気がする」という考えは、自分を否定すると同時に、仮のアイデンティティである自分の行動(食行動)で自分を認めてほしい2つの相反する考えが、自分自身を分裂させているようです。

過食や過食嘔吐という苦痛からの回避手段としての感覚への逃避や、「自分は摂食障害だ」「私は過食症だ」など病気のアイデンティティでは、生きていくうえで誰しも感じる当たり前の苦痛は軽減されません。

そうなると、自分自身を惨めに感じることからも回避しようとして、過食の時期とダイエットや絶食の時期を繰り返すようになります。そして次第に対人関係や人生から部分的に身を引くようになってしまします。

生きていくこと、生きている世界が自分に対し敵意を持っていると感じ、自分の人生を積極的に生きようとする姿勢や他者との結びつきが失われ、表面的には社会と接しているものの、心の底では世界を否定する状態に引きこもらざるを得なくなります。

このような摂食障害行動への耽溺によってしだいに自己肯定感が低下し、かつてヒルデ・ブルックが「ゴールデン・ゲージ」と呼んだ自己牢獄の中で自己破壊パターンへの移行が起きてきます。

 

摂食障害のとても残念な側面は、精神的にいろいろ「狭くする」病気だと言うことです。
当事者の方は、一日中、食事のカロリーや体重や、あるいは勉強や仕事の失敗のことを考え、他の事が考えられなくなってしまいます。
そういう生活が何年も続くと、自分の意識が「摂食障害であること」以外に広がりにくくなります(そうでない方もいますので、これは一般論です)。
また、自分で安全と思える食事だけを食べる、自分で安全と思える店だけで外食する、自分で安全だと思える人だけに合う、という生活を続けると、生活圏もどんどん狭くなります。
西園マーハ文「推薦の言葉」 ジョンストン『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』星和書店

両親や周りの人からの働きかけは相手にされないか、猜疑心を持って歪んで受けとめられてしまうと同時に、苦悩に変わってしまった苦痛を感じないように狂ったように食行動異常に没入してしまうのです。

この時期には、出来事を具体的なひとまとまりのエピソードとして理解したり、語ったりすることが難しくなり、憶えていないということが多くなります。
さらに他者の言動は憶えているものの、その時自分がどうしていたか?という自己客観視が非常に困難になるのも特徴です。
(自分で愛着障害ではないかと感じられている人にも多分にこの傾向がありますよね)

 

この混乱と迷妄の状態から抜け出すには、『摂食障害から回復するための8つの秘訣』にある「秘訣1 回復への動機、忍耐、そして希望」によって

○挑戦につきものの一次的な感情に耐えること
○行動を変えていく必要があること
○行動を変えることができていなくても、前に進み続けているときもあることを忘れないこと

が大切です。

そしてかりそめのアイデンティティ(病気の部分)から、健康な部分を見つけ出すプロセスが必要になります。

 

「秘訣2 自分の中の摂食障害の部分を癒すのは健康な部分」にある

「摂食障害がそうさせた」ではなく、「私の中の摂食障害の部分がそうした」と表現してください。
摂食障害の部分にも自分で責任を持つということは、摂食障害があなたにしてくれていることに興味を持ち、耳を傾け、それを見つけ出すということでもあるのです。

が、それに相当します。

治療の面接に来る前に過食をしてしまい、急に治療意欲が失せてしまい、投げやりな気持ちになってしまいます。
治療を始めたばかりの人では、「過食や過食嘔吐を治療したいと思うのは、なぜなのか?」という自分自身の内面をふり返ることが最初の課題になるのはそのためなのです。

 

この時に、三田こころの健康クリニックでは、過食や過食嘔吐の患者さんに対して、「医学モデル」を適用しないことがあります。
「医学モデル」を適用してしまうと、病気の部分との和解どころか、病気は悪いもの、なんとしても症状をゼロにしたいという気持ちが強くなり、病気に対する敵対関係が続き、回復が遅れてしまうからなのです。

対人関係療法の効果が出るまでに6〜7年もの長い期間がかかるのは「関係性の本質である表象(自分の中のイメージ)」を扱わないだけでなく医学モデルを適用しすぎるからかもしれませんね。

摂食障害の部分を、「悪い」異物のように対峙する必要のあるものとは考えないでください。
クライエントさんたちと接していて、摂食障害の部分を敵と考えてしまうと、長い目で回復を考えたときに効果が出にくいと思うようになりました。

摂食障害の部分も(健康な)自分の心の一部であることを理解し、摂食障害の部分と健康な部分の和解(調和)をすすめることが「自分自身との関係を改善する」対人関係療法のすすめ方になります。

 

対人関係療法の効果発現を早め、効果を高めるために、自分を振り返り(内省)、嫌な部分を放棄するではなく、自分を支える力として変容させたり解放していくマインドフルネスやセルフ・コンパッションなど、「自己受容」が必要なのはこういう理由からなのですよね。

院長