身体感覚を通して感情を「受容」する方法

三田こころの健康クリニック新宿の〔専門外来〕で行っている神経性過食症(食べ吐き)や、過食性障害(むちゃ食い、ダラダラ食い)の対人関係療法による治療では、「自分の気持ちをよく振り返り、言葉にしてみる(心の状態の変化についての気づき)」に取り組むことから治療を進めていきますよね。

私たちの気持ちや身体感覚(情動)は考え(解釈やイメージ)に反応していますから、「自分の気持ちをよく振り返り、言葉にしてみる」時に大切なことは、『8つの秘訣』にある「あなたの身体は、彼の言葉自体と、あなたがどのようにそれを解釈したかということに大いに影響を受けます。(中略)身体が思考に反応して、気持ちとそれに伴う感情を生み出すと言えるのです」をしっかり理解できるようになることです。

 

では、あなたが怒りを感じているときに、あなたの身体は厳密には何を感じているのでしょう。
「怒り」という言葉は、身体の中で起きている状態を本当に説明しているでしょうか。
答えは、「いいえ」です。

怒りは感情を表現するときに誰もが使う便利な言葉ですが、身体が本当に体験している感覚をよく描写しているとは言えません。怒りには、実はたくさんの感覚が関連しています。

怒りを感じているときの状態を考えてみてください。身体にはどんな感覚が生じているでしょう。

手がじっとりと汗ばんでいますか。顔や首のあたりがほてっていますか。心臓がドキドキしていますか。

身体の中にあるそうした様々な感覚に素直に気づき、それを表現するだけでも、怒りを解消して心を落ち着かせる効果があります。
自分の身体の中に湧き上がってくる感覚を認識し、ここで述べていることを参考にすると、自分の中の感情を自分自身から区別しやすくなるでしょう。

コスティン、グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

上記の引用のように気持ちを直接に身体感覚として感じてみると、気持ちを押しのけようとしたり、感じないようしたりなど、気持ちと闘わなくなっていることがわかると思います。

8つの秘訣』には、「気持ちに気づいてそれについて話すと、そうした気持ちをより上手にコントロールし、調整し、そのままにして、対処しやすくなるのです」と書いてあるように、身体感覚で感じてみるとこのプロセスがよくわかると思います。

 

「怒り」についていくら話しても思考レベルにとどまったままですから、抑制や放棄(ガマン)が生じてしまい、「怒り」と名づけたさまざまな身体感覚を無視することになってしまします。

そうではなく、身体感覚を話してみましょう。

たとえば、「淋しい」と表現するのではなく、「秋風が吹いてススキの穂がそよいでいる小高い丘の上で風に向かって一人で立っていて、胸にぽっかりと穴が空いたような感じ」、と。

たくさんのススキに囲まれて立っている一人の自分、風になびいているススキの穂と風に逆らってしっかり立っている自分、胸に開いた穴を通る風の感覚、肌に感じる風の冷たさと自分の体温の温度差。

「淋しい」と表現した言葉の中には、ほんのちょっと爽やかな感じと、大地に足を踏ん張った力強さ、そんな芳醇な体験が含まれているのです。

 

目標は、気持ちと身体の感覚を自分自身から切り離し、身体を中立の状態に戻せるようになることです。
そうすれば、気持ちを客観的にとらえることができ、圧倒されたり支配されたりすることをくい止めることができるようになります。
中立の状態に戻れば、はっきりと考えることができ、何を言うべきか、また適当な行動が見極めやすくなります。
身体の中にある気持ちを認識し、表現して、自分自身から区別できるようになると、気持ちに支配されなくなり、過剰に反応しないですむようになるのです。

コスティン、グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

気持ちを身体感覚として十分に感じることなく名前をつけてしまうと、その名前(考え)に反応してしまい、気持ちとの間で「闘うか逃げるか」反応が強くなります。そして気持ちがさらに大きく感じられてしまいます。それだけでなく、頭の中の解釈(考え)を現実と感じてしまうようになるのです。

そのため、ますます気持ちを感じないようにしようとしてしまい、「乱れた食行動(摂食障害行動)」という気分解消行動を使ってしまう事態につながってしまいますよね。

むちゃ食いや大食やダラダラ食い、過食嘔吐(食べ吐き)、自己誘発嘔吐(吐き戻し)などの「乱れた食行動(摂食障害行動)をやめる」ことだけにこだわると、その背景にある「気持ちを感じること」「気持ちを感じたままでいること」など、「乱れた食行動(摂食障害行動)」を引き起こす「より根源的な問題」に焦点を当てることが回避されてしまうからです。

 

一方、気持ちを身体感覚で感じてみて、それを表現することは、『摂食障害からの回復に必要な体験の仕方の選択』で説明した「受容」のやり方なのです。

「受容」のプロセスでは、「闘うか逃げるか」反応が起きないので、「客観的にとらえることができ、圧倒されたり支配されたりすることをくい止める」ことができるのです。

それだけでなく、気持ちを身体感覚として表現することで、気持ちを名づけることで生じた言葉への囚われ(例:淋しい→孤独→虚無感→孤立→絶望感)の悪循環からも抜け出すことができるのです。

中立の状態に戻れば……適当な行動が見極めやすくなります」という、気持ち(感情)が指し示すニーズを理解して、それに応えることが情動調節(感情コントロール)」なのです。
(『気持ちに気づくことが摂食障害からの回復の第一歩』参照)

 

対人関係療法による食べ吐きや過食の治療では、出来事と気持ちの関係を見ていきますよね。

しかし、ネガティブな考えや気分を感じないですむように「乱れた食行動(摂食障害行動)」を使っている患者さんたちは、何を考えて、どんな気持ちになったかのセルフモニタリングは難しいと感じますよね。

ですから、まず最初は、「出来事(客観的な情報)」について、それがいつ、どこで、具体的にどんなシチュエーションだったかを具体的に詳細に(時系列に沿って客観的に)再現していく必要があります。
詳細に再現してみると、その時の状況を再体験しているので、その時どんな思考(解釈やイメージ)があって、どんな気持ちになって身体にはどんな感覚があったのかは、思い出さなくても自然に出てきますよね。

 

根底にある問題を探っていくと、自分の深いところへの気づきも広がりますが、摂食障害から本当に回復するためには、理解を深めるだけでは足りません。

大切なのは、何が起きているかではなくて、何かが起きたときにそれにどう対処するかということです。

回復するためには、心の奥にある思考や気持ちにもっと健康的な方法で対処できるようになる必要があります。

コスティン、グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

つまり、予定をギュウギュウ詰めこんだり、一人になる時間をなるべく減らしたり、あるいは普通の食事を抜いたりして「乱れた食行動(摂食障害行動)をやめる」ことに躍起になっていたのでは、「乱れた食行動(摂食障害行動)」からの回復はますます難しくなります。

「乱れた食行動(摂食障害行動)」というネガティブに感じる症状から逃避したり回避したりするのではなく、「どのような食べ方をすれば、心の奥にある思考や気持ちにもっと健康的な方法で〔対処(コーピング)〕できるようになるのか?」について考えていく必要があるということですよね。

 

院長