自己志向と協調性を高め摂食障害から回復する

摂食障害の対人関係療法による治療では、「維持因子(摂食障害症状を続けさせている要因)」に注目しますよね。

「何でも食べられるようになりたい」「過食や過食嘔吐を止めたい」という主訴に注目するだけでなく、起こりうる問題や、自分の中のどうしようもない感情への対処の仕方を身につけていくことで、「摂食障害行動を使って、日常のほかの問題に対処したり、問題を避けたりする必要はなくなる」ことを目指していきますよね。

 

「気分解消行動」としての摂食障害行動の役割に注目し、問題を維持させている要因を「個人的要因」「対人関係要因」「環境要因」という視点から見ていくときに役に立つ検査の1つに、摂食障害調査票(EDI)があります。

EDIは、「やせ願望」「体型への不満」「過食」「精神内界の混乱」「対人交流不全」「否定的自己像」「達成への強迫的願望」「衝動統制の困難さ」「成熟恐怖」という下位因子に注目することで、介入モデルの選択に役立てることができます。

EDIでは「自己の知覚と理解」については注目しますが、「他者の知覚と理解」や「社会的コミュニケーション」などの「対人関係(協調性)要因」や「集団との関係(環境要因)」についての評価には向いていないようです。

 

ロンドン大学のナザリーらは、5つの研究領域基準の次元の1つで、「親和と愛着」「自己の知覚と理解」「社会的コミュニケーション」「他者の知覚と理解」からなる【社会的プロセス・システム】に焦点化して、摂食障害の社会・情緒的問題についてのメタ分析の結果を報告しました。

親和と愛着:全般的な不全・親からのケアの不足・親による過保護
自己の知覚と理解:行動や思考の主体としての自己の不全・ネガティブな自己評価・アレキシサイミア
社会的コミュニケーション:表情からの感情理解の不全・表情による感情表出の不全・対面の回避
他者の知覚と理解:他者の精神状態の理解の不全

社会的プロセス・システム】については『対人関係療法とは?』でもちょっとだけ触れています。
摂食障害という病気のこころの中で起きていることについて、ちょっと難しくなるかもしれませんが、解説してみますね。

 

「神経性やせ症(拒食症)」「神経性過食症(過食症)」「過食性障害(むちゃ食い症)」に共通する社会・情緒的問題として、以下の3つが影響していることが示されています。

①「自己の知覚と理解」のうち、自己認識の不全(ネガティブな自己評価とアレキシサイミア)
②「親和と愛着」のうち、親からのケアの不足
③集団に対する帰属意識と支配欲求の低さ

 

自己の知覚と理解】の問題として、「行動や思考の主体としての自己の認識の不全」と「ネガティブな自己評価」「アレキシサイミア」が挙げられています。

「アレキシサイミア」は、内省する(自分の心をふりかえる)ことができず、自分の感情への気づきや言語化が苦手で、その結果、身体症状として出現しやすいという特徴で、これが摂食障害全般に共通する要因のようです。

前意識(気持ち・感覚)を意識化することが難しいため、表現されなかった気持ちや感覚は無意識の領域(寝ているときの夢、または、起きている時の身体症状や気分解消行動)に表出される、と三田こころの健康クリニック新宿では説明していますよね。

【自己の知覚と理解】の問題から考えられることは、「自分に対するダメ出し(自己非難)」が、「ネガティブな自己評価」や「行動や思考の主体性の不全」につながり、「行動や思考の主体としての自己の認識の不全」から、親や治療者のせいにしたり、取り組むべき問題から目をそらしたりすると同時に、「アレキシサイミア」のためネガティブな感情を心の中で抱えておくことができず、感じなくしたり、無かったことにしたりすることに摂食障害行動が使われているようです。

 

親和と愛着】の問題としては、「全般的な不全」「親からのケア不足」「親による過保護」の項目があり、拒食症・過食症ともに「全般的な不全」がみられ、過食症では「親からのケア不足」が、制限型の拒食症では「過保護」が影響量として大きかったことが示されています。

「親からのケア不足」や「過保護」より影響量は小さいのですが、拒食症・過食症ともに【他者の知覚と理解(他者の精神状態の理解の不全)】がみられています。

【親和と愛着】の問題があるとしても、摂食障害は育て方・育てられ方の問題ではありません。(←重要!)

家族にも患者さんと同じような【他者の知覚と理解(他者の精神状態の理解の不全)】にもとづく「不安に対する耐性の低さ」と「情緒応答性(双方向性の至適応答性)の不全」があり、子どもに向き合うときに「積極的努力(過保護)」や「ケア不足(感情の抑圧・回避)」の2つの方略を使うことが多かった、ということのようです。

そして【他者の知覚と理解(他者の精神状態の理解の不全)】「不安に対する耐性の低さ」と「情緒応答性の不全」が摂食障害になりやすい要素を持った子どもに伝達された(愛着方略の世代間伝達)、と推測されますよね。

ご家族が摂食障害の娘さんとの向き合い方を変えることが大きなサポートになります。三田こころの健康クリニック新宿では新宿御苑前カウンセリングセンターと連携して、ご家族の対応やコミュニケーションの仕方に関しての『ケア・カウンセリング』を行っています。

 

集団に対する帰属意識と支配欲求の低さ】は、【自己認識の不全(アレキシサイミアとネガティブな自己評価)】により、自分の心を介して他者の精神状態を理解することが難しく(メンタライジング不全)、自分へのダメ出しと同じような評価を他者から受けるかもしれないことを怖れ(評価への過敏性)、集団への帰属意識が低くなっていると考えられますよね。

さらに拒食症では、自閉症スペクトラムと似た【社会的コミュニケーションの問題(表情による感情表出の不全、対面の回避、表情からの感情理解の不全)】も示されていて、これも【集団に対する帰属意識と支配欲求の低さ】に関与しているようです。

 

これらの結果から摂食障害の維持因子を考えると、内省する(自分の心をふり返る)ことが難しい、感情に対して直面化・言語化することが難しい(感情体験の回避)、考えを現実と思い込み自己評価が低い(ネガティブな自己評価)が「個人的要因(自分自身との関係)」の中核にあることが考えられます。

その上に、他者の精神状態の理解が難しい(メンタライジング不全)、拒食症では表情による感情表出も感情読み取りが困難という「対人関係要因(協調性)」が加味され、状況の回避(責任転嫁や逃避)が加わることで、「環境要因(集団との関係)」として集団への帰属意識の乏しさが表れているようです。

 

これらをまとめると、摂食障害の社会・情緒的問題として以下のことが言えそうです。

①内省する(自分の心をふり返る)ことが苦手(アレキシサイミア)
②感情の言語化が難しく(アレキシサイミア)、感情の直面化を避ける(感情体験の回避)
③自己評価が低い(ネガティブな自己評価)
④考えを現実を思い込み、とらわれてしまう(認知フュージョン)
⑤ネガティブな考えや感情を引き起こす対人関係状況を回避する(状況の回避)
⑥人間関係の形成・維持そのものに魅力を感じない(他者の精神状態の理解が難しい)

対人関係療法による治療では、これらに取り組み、【自己志向(自己の次元における成長)】と【協調性(関係性の次元における成長)】を高め、バランスを取っていくことで、機能的でない摂食障害行動を使わずに済むことを目指していきますよね。

 

三田こころの健康クリニック新宿で、摂食障害の対人関係療法を導入する前に『摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』と『摂食障害から回復するための8つの秘訣』を読んでもらいますよね。

素敵な物語』で自分では良くわからない摂食障害特有の心の動きを本を通して理解してもらい、対人関係療法の課題の1つである「自分の気持ちをよく振り返り、言葉にしてみる」に取り組みやすくし、『8つの秘訣』で「自分のまわりの状況に変化を起こすよう試みる(行動の仕方を変えていく)」ことを理解してもらうのが目的なのです。

 

ところが、「自分の気持ちをよく振り返る」「自分のまわりの状況に変化を起こすよう試みる」に取り組み始めた治療初期に、摂食障害行動が増えることがあるのです。

治療を始めるという新しいことに取り組みはじめたばかりの時は、対処の仕方や気持ちを心の中で抱えておくがことがまだ身についていない時期ですし、これまで摂食障害行動で麻痺させて見ないようにしていた自分の心の動きと向き合いはじめたわけですから、「感情回避」「状況回避」によって摂食障害行動が増え、気持ちが落ち込んだりしやすいのも自然な経過であるだけでなく、しっかり取り組めていることでもあるのです。

回復への道を進むにつれて、内面の気持ちには気づきやすくなりますが、同時に気持ちがより強く感じられるようにもなります。それまでずっと覆い隠されていた無数の気持ちともう一度つながろうとするからこそ、回復への道を歩み始めたばかりの頃は一時的に苦しさが増強しがちなのです。(p.134)

(中略)

摂食障害から回復しようとするときには、病そのものからくる感情に取り組むだけではなくて、挑戦につきものの一般的な感情に耐えなければなりません。何かに挑戦するときには、失敗する怖さや、結果がどうなるかが予測できない怖さが伴うものです。こうした恐れからは不安感がたくさんかき立てられるでしょう。
しかし、このような不安に耐えられるようになると、より生きやすいものとなるでしょう。私たちの人生が豊かなものになるかどうかは、自分自身の感情を受け容れ、それらの感情に耐えられる技術を学んでいけるかどうかにかかっていると思います。(p.33)

コスティン&グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

治療初期に摂食障害行動が増えたことは変化が起きつつあるということであり、慣れ親しんできた「考えを現実を思い込み、とらわれてしまう(認知フュージョン)」と向き合うチャンスが訪れたというサインなのです。

そのようなときこそ『8つの秘訣』の「秘訣1 回復への動機、忍耐、そして希望」と「秘訣6 自分の行動を変えるということ」が重要な意味を持ってきます。

 

自分の考えや感情、感覚に気づき、受け入れ、自分に優しさを向けることからなる【自己受容】、そのスキルにもとづく他者受容と共感、協働などの【協調性】を介して、価値や目的の創造とそれに沿った行動ができるようになること、つまり、摂食障害行動を使わずに済むように「自分自身・他者・集団との対人関係文脈」を変えていくことで「社会的プロセス・システム」の機能を向上し、摂食障害から回復していくのですよね。

 

院長