気持ちに気づくことが摂食障害からの回復の第一歩

うだるような夏の暑さが一段落すると、なんとなく体調がシャキッとしないと感じている人も多いのではないでしょうか?

またこの時期から、むちゃ食いや食べ吐きなど「乱れた食行動」が始まりやすいこともよく知られているんですよ。

 

乱れた食行動から回復するためには、まず、感情(気持ち)を感じてみることがすごく大切です。
また感情(気持ち)は、私たちが考えているよりもはるかに身体的な反応なのです。

しかし「乱れた食行動で悩む女性たち(摂食障害の患者さんたち)」は、気持ちを感じることや身体感覚を感じることが苦手で、考え(思考)と気持ち(感情)の区別がよくわからない人が多いですよね。

 

素敵な物語』では、思考優位の状態から乱れた食行動の皮を一枚一枚むきながら心の奥深くまで立ち入り、女性らしさ(直観)とのバランスを取ることの重要性を解説してありますよね。

しかし乱れた食行動が習慣やクセ(嗜癖)になったと感じられる段階では、『素敵な物語』を読んでもピンとこない、よくわからないとおっしゃる患者さんが多いのです。
でも最初はそれでいいのです。

 

私が回復できたのは、何と言っても、拒食して体重を減らそうとばかり考えずに、本当の意味で自分を大切にできるようになったからだと思います。

日頃から深く自分を見つめる姿勢にだんだんと価値を感じ始め、玉ねぎの層をひとつまたひとつと剥くように、摂食障害の行動に走らせる「大元」の原因を見つけ、そこでくすぶっている気持ちを引っ張り出してあげるようにしました。

コスティン、グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

気持ちを感じるにはどうしたらいいんですか?」という質問を受けることがあります。

そんなときには、思考から最も遠い身体感覚を感じる練習から始めたほうが、思考と身体感覚の違いを体感しやすいのです。
そのため、専門外来での治療では「身体感覚に対処する有効な方法(『8つの秘訣』p.150)」に紹介されているボディスキャンのやり方を指導することもありますよね。

 

感情に気づくには、まず自分の身体に起きていることに「注意を向ける」ことです。深呼吸しながら身体を感じているうちに、
——どうも胃のあたりが重いな。誰のことを考えて胃が重いのかな?
こんなふうに、身体にわきおこる声に気づいて、感じて、頭だけでなく心と身体をしっかりつなげるのです。

岩壁『「感情」って何?—生物として生き残るための手段』季刊〔ビィ〕Be!118号

 

たとえば、手の甲をつねってみると「痛み」を感じますよね。

「痛み」と名づけたその感覚を感じてみると、頭で考えている「痛み」と手の甲が感じている「感覚」はまったく違って、感じているさまざまな感覚が寄り集まったものに対して「痛み」と名づけていることがわかるだけでなく、感じている「感覚」は強度も質も流れるように変化していくことも体感的にわかりますよね。

また、親指と人差し指の付け根(合谷)を押さえてみても「痛み」を感じますよね。

でも手の甲をつねったときに感じた「痛み」と合谷の「痛み」は、同じように「痛み」と名づけているにもかかわらず、感じられる体感は全く別ものですよね。

 

「怒り」を感じると、一瞬にして顔が紅潮し、心臓がドキドキし、身体はこわばります。
「怖い」と感じると、身体は縮こまったり、固まったり、あるいは全身の筋肉がスイッチオンして逃げる態勢をとったりします。
「不安」を感じると、わきの下や手足に汗をかいたり、心臓がドキドキします。
怒りのドキドキと、不安のドキドキは明らかに違います。それが、どう違うかは理屈ではなく「身体が知っている」ものです。

岩壁『「感情」って何?—生物として生き残るための手段』季刊〔ビィ〕Be!118号

 

身体感覚に意識を向けること(マインディング・ザ・ボディ)で、身体が持っている「直観(身体が知っていること)」を目覚めさせることを『素敵な物語』で勧めていますよね。

 

身体感覚や感情は「何か注目する必要のあることが自分の中で起きているときに注意を喚起してくれる役割」を持っています。
しかし感情(気持ち)がよくわからないということは、「自分が今、何を必要としているのか?がわからない」ということです。

 

よくわからない感情をなだめよう、麻痺させようとして「過食(むちゃ食い)」したり、安堵しよう、なかったことにしようと「嘔吐」を繰り返していると、不安だから食べ吐きしているのか、つまらないから食べ吐きしているのか、淋しいからか、怒っているからか、ホッとしたいからなのか、どんな感情のニーズがあって食べ吐きしているのかがわからなくなってしまいます。

それだけでなく、いくら食べ吐きをしても満たされなさだけが残り、次第に感情調節するために使った方法(行動)だけが暴走し、有害な機能不全の悪循環(クセや習慣になった状態)に陥ってしまいますよね。

 

「気持ちを感じる」ことは大切という考え方は一見すると当たり前に思えるかもしれませんが、摂食障害を発症しているかどうかとは関係なく、私たち人間は実にいろいろな方法を使って自分の気持ちを避け、抑圧し、目をそらそうとしています

気持ちに気づき、それを受け容れ、そのまま耐えることが難しいので、薬物依存、摂食障害、盗み、自傷、またその他にもあらゆる問題行動が生じてくるのです。

コスティン、グラブ『摂食障害から回復するための8つの秘訣』星和書店

 

感情(気持ち)は、主観的な体験や自律神経の変化、あるいは表情や身振りなど身体的な変化をともなうので、それらをひっくるめて「情動(エモーション)」と呼びます。

「情動調整(感情コントロール)」とは、感情を感じなくしたり(抑圧)、ガマンして押さえたりすること(抑制)ではなく、感情が伝えているニーズに応えることなのです。

「情動調整(感情コントロール)」は『モーズレイ・モデルによる家族のための摂食障害こころのケア』では「情動知能(エモーショナル・インテリジェンス)」と説明してありますよね。

 

乱れた食行動(摂食障害)から回復するためには、「気持ちに気づくこと」「気持ちを受け容れること」から取り組み始める必要があるということですよね。

 

院長

 

摂食障害ホープジャパン代表の安田(山村)さんが訳された3冊目の本、『過食症:食べても食べてもたべたくて』は、過食(むちゃ食い)や過食嘔吐(食べ吐き)から回復するために必要なエッセンスが凝縮されています。

摂食障害の謎を解き明かす素敵な物語』『摂食障害から回復するための8つの秘訣』と合わせて読むと、摂食障害(乱れた食行動)から回復するために取り組むべき課題がわかりやすいと思いますよ。